第28話 デッド・ウォール・ショー
扉の向こうから声が聞こえた。緊張が走る。魔人はそのまま去っていった。焦った、入ってくるかと思った。まあ入ってきた場合は倒してしまうというマニュアルも用意されてるけど。扉の前に立ち、絶望を思い出す。よし、準備できた。
「気を付けてな」
扉を開け道を進み、闘技場内に入る。反対側からも少年が出てきた。あきらかに狼狽している、もしかしたら救出が間に合わず先に出ていったのかも。この場合は彼の命を優先。ただショーは何をやるかはわからない。まずは様子見だな。魔人達の声が聞こえる。
「さあ皆様お待たせしました! これよりショーの始まりです。まずはザ・デッドウォールショー! 張り切ってまいりましょう、お楽しみください!」
魔人達が狂乱する。あーうるさい。おっといけない、びくびくしなくては。風船が膨らみ爆発。開始の合図だ。
「始め! 少しずつ壁が迫ってくるぞ。真ん中にある縄を登り生き残れ! しかしこの縄は一人用だ。二人つかまると重みでちぎれてしまう。殺し合い、勝利した方が登れ!」
剣、槍、斧と俺達の前に武器が並べられている。少年が剣を取り俺と向かい合う。剣を持つ手が震える。こちらも剣を手にし構える。少年に斬りかかる、うまく受け止められるようにわかりやすい軌道を描く。受け止めてくれた、よし。そのまま力比べに持ち込み、接近し彼に話を。
(俺は救出部隊の者だ。思いっきり剣で突いてきてくれ。死ぬ演技をする)
(わ、わかりました)
力で剣ごと少年を弾く。後方へ転がる少年。剣を握り直し突っ込みながら剣を突き出す。
「えいっ!」
腹部に剣が突き刺さる。すぐに抜くが血が止まらない。
「ぐぅっ……」
その場に力なくうずくまる。もちろん演技。腹に肉と鉄板、血糊が入っていた。
「さあ、早くしないと壁に押しつぶされちゃうぞ!」
戦闘中に壁がかなり迫ってきていた。剣を捨てロープを登りだす少年。壁が重なっても押しつぶされない安全な場所まで登る。だが次の瞬間、ロープの上部がちぎれた。そのまま落ち地面に叩きつけられた少年は意識を失う。
「もちろん逃しませんよ、一人でもちぎれるようになってます! さあぶちっと潰れてしまえ!」
「わーはは、いいぞー!」
「潰れちまえー!」
ひどい奴らだ、俺達は所詮は奴隷か。少年は息をしている、外傷もかすり傷くらいか、大した怪我ではなさそうだ。そこまでの高さではなかったからな。迫ってくる壁、もう少しで俺達は潰される。壁は無情にも重なり合う、隙間がなくなる、それは二人の死を意味していた。
「やった!」
「ほーれ壁を広げて!」
今度は壁が下がっていく。しかしそこには何もない。
「あれ?」
「武器が突き刺さってるだけ?」
当然死んでない。変身し少年を抱え天井に向かってジャンプ、貫き脱出していた。そのまま救出隊の前に彼を置き任せる。思ったより進んでいないな、ショーには体が弱った者達が選ばれたようだった。奴らは飛べる、機動力があるから追いつかれるかも。ここはもう少し時間稼ぎをしておくか。強化魔人のいる砦に向かおうと思ったが一旦やめ、砦に戻る。天井からやつらの様子を見る。
「どういうことだ!?」
「大変だ、奴隷共がいない!」
丁度気が付かれたところ、ならばそのままお相手してもらうとするか。天井から闘技場に落下。周りは見渡す限り魔人。こうしてみると壮観だな。200人か、多いな。強化魔人とどちらがきついだろう。
「なんだ、魔獣か?」
「魔人共、ちょっと遊んでもらえるか」
「てめぇ、そのナリで人間か!?」
魔人が襲いかかってくる。先頭の魔人に攻撃、大ダメージを与える。敵わないとわかるとすぐに黒の爆弾を起動。魔人の腕を掴み放り投げる、周りを巻き込み爆発。爆発は一人分、うーん、誘爆すると思ったけどしないか。自分の意志で爆弾化しないとそうはならないわけね。さてどうするか。もっと時間を稼ぎたいが逃げ出す魔人が出てくると面倒だ。よし、片付けてしまおう。その場から上空に向かって跳躍、天井を抜け砦の上空へ。暗闇の中、手を掲げ魔法を唱える。
「どこへ行きやがった!」
「お、おい、妙に明るくねえか、暖かく赤い光りだ」
「炎の塊が砦を破壊しながら、ギョェー!!」
大きな砦だが俺の炎の魔法はそれよりもでかい。砦を飲み込み地面をもえぐる。辺りは灰燼に帰す。逃げ出した魔人はいないだろう、奴らは全滅した。さて、もう一つの砦へ行くとするか。情報によると対強化魔人用に国で一番二番のPTを当てているとか。砦が見えてきた。門が開いている、そこから中へ。奴隷はいない、魔人の死体がいくつか転がっている。奥から声がする、まだ戦闘中か。声がした方へ向かう。
「活きが良い人間ゴポゥ、奴隷がいなくなった分働いてもらうゴポゥ」
魔人と人間PTが相対しているところ。これから戦闘開始か。魔人は前に見た強化魔人二体。人類側は二PT、リーナの父、剣聖ラングとその仲間達。もう一つのPTは現在売り出し中、すでにラング達を越えたという噂の冒険者集団、天輝団。
「お誘いありがたいが奴隷はゴメンだな」
天輝団リーダー、侍のオニギリ。街ではいつも黄色い声援が飛んでいる好青年。華麗で繊細な刀術を操る。
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