第22話 俺は美味しくないぞ

男達の顔には見覚えがある。悪徒の街の名簿に載っている人達だ。二層一層の人達。情報通り俺と同じ年くらいの子もいる。彼らはさらわれた子達だろう。色々聞きたいが俺は連れてこられた貧乏な子。彼らにも正体を悟られないようにしなくては。


「ここでの暮らしを教えよう」


朝から夕方まで仕事。主に砦の建設。各場所に魔人が配置されていて指示を出してくる。魔人達は口は悪いが無闇に手を出したり殺したりはしないようだ。働き手がいなくなるしな。


「今いる位置は?」

「ここだ」


砦の地図が壁に貼り付けられている。砦内はきっちり分けされていた。これなら任務は意外と早く終わりそうだ。後は地図通りの配置かどうかを確認するくらい。


「此処から先は魔人の居住区だ、間違っても入るんじゃないぞ」


魔人と人間の住む場所が分かれている。救助作戦はやりやすそうだ。一番の問題は情報をどうやって外に持ち出すか。うまく逃げる方法等を考えなくては。もしもの場合は強引に逃げる。中には過去逃げようとした人間がいたようだが、皆すぐ捕まってしまうようだ。特に罰はなくそのまま砦で働かせる。


「明日から早速仕事だ。しっかり寝ておけ」


石の床に麻の布を敷いただけの寝床。これは寝心地が最悪だ。朝になり食事が出され朝食を。人間の給仕係が食事を作っている。食後は労働。石を運んだり、積み上げたり。魔人は俺達を監視。失敗したり手際が悪くても特に文句は言わない。朝から晩までそこまできつくない仕事、健康的な生活。人さらいの話もあながち嘘ではないかも。スラム街に住んでいるなら衣食住がしっかりしている分、こちらがいいと考える者がいそうだ。寝る場所だけは最悪だが。でもこれって良い職場なんじゃ。上司にパワハラされるよりマシかも。いやいや、立場が奴隷だから。魔人は口うるさくないしなぁ。んんー、そんなに変わらない気がしてきた!


「少年、ここを通るときは気をつけろ。死の穴と呼ばれている」


手すりのない簡易的な橋がかけられた場所。下は湖になっていて魔獣が泳いでいる。ここは動けなくなった者、反乱分子を魔獣に食わせる場所らしい。まあそうだよな、相手は魔人、選択肢があるだけ上司の方がマシか。まてよ。ここは使えるかも。死んだように見せれば。脱出用の候補の一つだな。


「しっかり働いてくれたまえよゴポゥ、諸君ゴポゥ」


魔人だが、形状が違う。身体が透明、まるでスライムのような魔人。前に会った強化魔人のようなやつか。他魔人が付き従う、コイツがこの砦のボスかな。強化魔人はもう一人いるようだ。他は普通の魔人。数は大した事ないが強化魔人は危険かもしれない。エルフ兵を軽く捻り潰したからな。ここは伝えないといけない点だ。かなりの強者が必要だろう。ちなみに魔人の強さは高レベル冒険者五人分と最近聞いた。こうして数日、調査を進める。


(こんなところか、そろそろ脱出、もしくは情報を外に飛ばしたいところだが)


一通り調べ終わる。やはりここにいる人は常に顔色がさえない、奴隷だから当然だがな。脱出場所は予定通り湖からにしよう。橋の上でつまづいたふりをし、湖に落ちる。


「うわぁ!」


叫び声を上げながら豪快に落ちる。大きな水柱と音を立てながら着水。魔獣が近づいてくる、沈みながらスキルを発動。水は濁っているため変身しても見えない。荷物と一緒に持ってきた肉を魔獣に与えながら、倉庫にあった赤色の染料を水に溶かす。変身したときに破けた服が浮かび上がる。魔人が湖を覗き込む。


「落ちちまったか。いつもより元気だな、若い肉はうまいか。いいか貴様ら、我々は滅多なことでは殺しはしない。だがこのように不幸にも魔獣の餌になる場合がある。俺が言いたいのは今回以外の場合、そう反乱のことだ。無駄なことはせず健やかに奴隷を全うしてもらいたい。わーはっはっは!」


魔人は配置に戻り人々は仕事を再開。言いたい放題だな、しかしうまいこと騙せたぞ。魔獣は噛みついてきている。こちらもすきにさせている。殺してしまっては俺が生きていることがバレるからね。俺を噛み殺せないと知るとどこかへ行ってしまった。さて脱出するか。音を立てないよう水の中を進む。湖は外につながっている。砦の壁に張り付きながら水面から顔を出し外を見る。どうやら見張りがいるようだ。湖を使い逃げようとする人間がいるのだろう。このまま泳いでいくと見つかる。まあ後はゴリ押しでいい。俺はもう死んだことになっている。砦から急に消えるのはまずいからね。自由に動くには死んだことにする必要があった。時間を止め一気に脱出。湖を泳ぎ魔人の横を通り森に入る。


「なんだ、急に強風が」

「特に異常なし」


気が付かれることなく人間領まで逃げる。脱出成功。砦見取り図と情報は無事だな、よし。こうして俺は街に帰り、ルーラーさんに連絡した。


「お疲れ様。よくやってくれた。ゆっくりしておいてくれ。もしかすると声がかかるかも」


強化魔人が気がかりだしな。俺の出番があるかも。

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