第21話 魔人砦
「ハジメ、手紙が来てるよ」
宿屋の女将さんから手紙を受け取る。差出人はルーラーさん、例の悪徒の件で話があるとのこと。店を指定、内密に頼むとの内容。人がいなくなっていたからな。街で暮らしていても悪徒の街の話は全く聞かなかった。魔人が現れ大人数が行方不明になったんだ。国から発表されたのなら大騒ぎになっているはず。公表はせずこの状態を活かそうと裏でずっと動いていたのかな。その日の狩り後、焚き火の中に手紙を投げて燃やす。夜に二人と別れて店へ。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
お店の人は俺を見るなり奥へ通す。行き止まりにきてあれっと思ったが、隠し扉があり中へ入れる構造になっていた。部屋の中にはルーラーさんが。
「秘密の部屋へようこそ」
表沙汰にしたくない話をするときはここを使うのだとか。窓のない部屋、もしもの場合の逃げ道があるとか。お店の人間は全員ルーラーさんの息がかかった人達。
「悪徒の街の件なんだが」
あの後秘密裏に一層を調べたところ、予想通り人っ子一人いなかった。こちらも地下の穴から魔人が出てきて物資を運び出していた。地下通路を調べると人目のつかない森まで通じていた事がわかる。森は魔人領から近く、つながっている。誰にも気が付かれずに魔人領へ運び去っていったようだ。人もおそらくこの穴から連れ去られたのだろう。二層に誰もいない事が発覚した後も物資を投石機で送り続けている。国は魔人たちの動向を調査。運び出した後、どこへ持っていっているのかを調べた。
「彼らの後を追っていくと、建設中の砦を見つけたんだ」
砦は人間の奴隷達を使い作られていた。まだ完成していなかったため内部は丸見え。その隙間からたまに見える人間が誰なのかを調べた。多数は悪徒の街の参加者だった。運び出された悪徒の街の住人は砦で奴隷をしていたことがわかった。
「調査を続け残りは内部を調べるだけなんだが」
「俺ですか?」
コクンと頷くルーラー。最終的には奴隷を解放、魔人を殲滅したい。そこで俺に内部を調べてもらいたいという話。
「入り方は?」
「奴隷は悪徒の街の人間だけではない」
俺くらいの若い男も何人かいる。彼らは人さらいが連れてきた子達。稀に引き渡しているところを見るという。人間が人類の敵、魔人に対して商売か。いかれたやつがいるものだ。そしてその人さらい達の顔はすでに割れている。
「彼らに捕まり砦へ入ってもらう」
人さらいはスラム街で若い男、子供を捕獲し魔人に売っている。
「もちろんそれなりの報酬は用意している。受けてもらえるか?」
「わかりました」
三日後、またルーラーさんに呼び出される。今度は作戦の詳細。魔人砦外側、見える部分の地図を見せてもらう。仕事に内容は内部の構造と、人間の位置、できれば魔人がいる場所、休みの時間等を調べること。情報入手後はいよいよ人質救出作戦が実行される。
「そうだな、自暴自棄というか、もう少し弱ってそうなところが欲しいかな。人生で絶望したときのことを頭の中に思い浮かべてみろ」
ダメ出しを食らう。精神面が弱っている方がさらいやすい。言われたとおりに絶望の瞬間を思い出す。
「くっ!」
「おっ、いいぞ、その調子」
ネトゲで取り返しのつかない事が起きたことを思い出した。進行上問題ないけどもう二度とその場所にはいけず。そこだけのアイテムは手に入らない。普通のRPGならやり直せばいいだけだけどそのネトゲはやり直せなかった。あのときは絶望したな。
「いい顔だ、若いのに色々苦労しているんだな」
想像以上に渋い顔をしていたようだ。慰めてもらう。その後は好きなだけ食べて飲む。ルーラーさんのおごりだ。遠慮はしないぜ!
「頼んだぞ」
作戦決行日。みすぼらしい服に身を包み街のスラム街へ。体も泥等を塗り汚す徹底ぶり。大通りから外れ小道を歩く。すると、後ろから人の気配が。人さらいかな。気にせず進んでいくと、男達が前方家屋から出てきて、道を塞ぐように立ちふさがる。つけてきた人が後方の道を塞いだ。彼らはナイフを持っている。
「おっと、大人しくしていれば怪我しないで済むぜ」
抵抗せず手をあげ大人しく男達の後についていく。麻袋の中に入るよう指示される。これからどうなるのかとか細い声を出し男に聞く。いいぞ、訓練の成果が出ている、ここにいるのはとても弱々しいい男の子だ。
「人によってはむしろ天国って場所につれていくだけだ」
悪人の詭弁、仕事だから安心させる事を言っているだけ。これから地獄へ放り込むなんて言ったら暴れる人間がいるかだろう。そうなると商品に怪我をさせることになるからね。麻袋に入ると入口を閉じられ馬車へ。しばらく馬車に揺られ移動。止まったと思ったら話し声が聞こえてきた。
「へへ、魔人様。人間をさらってまいりました」
「ご苦労、これは報酬だ」
金を受け取ると俺を引き渡し人さらいは帰っていく。俺は担がれ砦の中へ。
「新入りだ、教育しておけ」
雑に放り投げられ地面に叩きつけられる。もう少し大事に扱ってくれよ。袋の入口が開く。そこには奴隷になった人達がいた。力なく各々休んでいる。奴隷なんだから元気なわけはないよな。
「ついてないな、お前は奴隷になってしまった」
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