第18話 ルールに負けた

(しかしなあ)


地道に集めるとなると時間がかかりそうだ。入る前にバッチを十個持って入るのはどうだとルーラーさんに提案したが入ったばかりの者がすぐ次の階層に行くのを見てしまうとやる気を失い街が終わる可能性があると却下された。確かにゲームやっててチート使いがいたら冷めちゃうよね。まあ俺のスキルはチートなんだけどさ、へへ、心が痛むぜ。国としては有益な情報が手に入るからまだこの街を存続させたいようだ。


「戻ったぞ」


今後の行動を考えていると、出かけていたもう一人の男が帰ってくる。そして悪徒の街の夜が明ける。強面の男が食料を持ってきてくれた。パンにチーズにミルク。なかなか質がいい、良いもの食べてるな。朝早くにアレスと対面。お互い顔を見せず目元だけ出している。


「よろしくお願いします」

「存分に稼いでいってくれ」


当然だが部下が何人かいる。結局考えがまとまらなかった。諦めて今回は挨拶だけにしておこう。こうして俺も街の一員に。


「おめーの番だ」

「ああ」


交代し偵察をする。うわ、予想はしていたが街の中から外は丸見えだな。音を立てずに侵入を試みたがほぼ意味がなさそうだ。街の人間になり三日経過。


「罠にかかったぞ」


落とし穴に参加者が落ちる。男はすぐ諦め俺達はバッチを手に入れた。今回は強面の男が手にする。バッチに自分の名前を記入、家屋から移動、外壁の中へ入っていく。そこには見たことがない変わった機械が置いてあった。


「ここにバッチを乗せて飛ばすのよ」


勢いよく飛んでいくバッチ。運営が回収して彼の口座にお金が入る。街から出ることなく金を入手できる。持っていると危険だから手に入れたらすぐにバッチを飛ばして金に変えるとか。ここに住んでいる人は皆金に変えているようだ。次の階層に行くと一からやり直し、最悪即街から追い出される。第三階層でも中に入るには苦労したからな。結局能力を使って入れただけだし。次はもっと困難な可能性がある。こうして誰も次の階層へ行こうとは思わなくなった。


(こんなところか)


侵入してから十日が経過、情報収集は切り上げ、そろそろ次の階層に行きたいところ。バッチの入手法を思いついていた。アレスを脅して十枚手に入れる。我ながら苦笑いしてしまうような作戦だ。アレスは住人達から場所の使用料としてバッチをたまに回収している。脅して十枚だけいただこうという作戦。もし換金しているのなら貯めてもらう。これなら彼を倒さなくても済む、街の治安は守られる。問題は彼にどうやって会うかだ。


「もう一度会うってことはある?」

「一回だけだな。もうやつと会う方法はない。部下になるくらいだな」


部下になるには信用を得ないといけないだろう、相当な時間がかかる、却下。そうだ、バッチはどうやって彼に渡しているのだろう。


「女神像の指先に置くのよ」


街にある女神像の石像。そこにバッチを置くようだ。当然これを回収しに来る者がいる。その人の後をつければたどり着ける。ふむ、我ながら完璧な作戦。場所代を収める時が来た。指定されている時間にバッチを手に女神像へ。そして指先に置き、少し離れて隠れ様子を見る。すると多数の鳥達が集まってきた。中から一匹鳥が飛び出しバッチを掴み、鳥の集団の中へ。完全に見失った。そうだよな、受け取るのは人とは限らないよな。いやまだまだ諦めないぞ。水と食料、これなら鳥は運べまい。強面の男に俺が行くと水と食料を取りに行く。何人か居たが誰が部下かわからない。前にあったときは目まで隠してたからそこまでするかと思ったけどなるほど、俺みたいのはいるかもしれないしな。参ったな、ここまで来てお手上げとは。


「どうした坊主」


……最後の手段だな。協力してもらうか。


「俺は人生の勉強のために次の階層に行きたいんだ。協力してくれ」

「いいとも、本来ならもうこの街を離れないといけない身分だからな、お前さんの指示に従うさ」

「すまん」


巻き込むということは彼らはこの街に居られなくなる可能性もある。短い間だがやはり情が湧くものだ。肩に手を置きウインクをするおっさん。やっぱり顔が怖いな。睨まれているようにしか見えない。


「それよりも方法は?」

「もう一度紹介から」

「無理だ、声と目元だけでアレスには誰かわかっている」


それならと、別室に移動、トータルライズを使って服を着顔を隠す。


「どうやったかわからないがそれなら大丈夫。だが、俺達は強者は狙わない。そんなでかいやつは無視だ」


振り出しに戻る。想像以上に厄介な仕事だ。そりゃそうか、腕力には自信があるが頭は低レベル冒険者と変わらないからな。ルールに縛られるとどんなに強くてもこんなものだ。こうなったら強引に、本来の悪徒の街、人から奪う……、そうか強引にか。他にも入る方法があるじゃないか。


「迷惑をかけたな、さっきの話は忘れてくれ。俺は諦めて街に帰る」


おおっとそうだ。行方不明者のことを聞いてみよう。


「そういや行方不明者が出てるって聞いたけど」

「殺しが横行してるってか? 殺してしまえば街を出ることになる、ルールは守るさ。周りの目もあるし誰も殺しはしてないだろう。バッチだけ奪ったらさっさと帰してるから、そんな事が起こるはずはない」


そうなんだよな、有利な状態で脅して終わりが多い。他の奪い合いがここからよく見える、お互いを監視している。ルール違反を犯せば通報されるだろう。そうなるとこの街では問題は起こっていないのかな。帰ったときに何処かへ行ってしまうのか。バッチを弾いて強面の男に渡す。手を振り悪徒の街を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る