第16話 悪徒の街

「ハジメ、父さんが話があるってさ」


リーナから村の今は誰も暮らしていない一軒家に一人で行ってくれとの話が。余程秘密にしたい話のようだ。指定の日にその家へ、中に入るとそこにはルーラーさんが居た。あれ、日にちを間違えたかな? いや、ここは倉庫にしていて誰も住んでないはず。


「騙し討ちのような形で悪いな。ちょっと厄介な仕事を頼みたくて」


どうやら話があるのはルーラーさんのようだ。ここまでするということは相当な機密事項なのだろう。向かいに座り話を聞く。


「悪徒の街を知っているか?」


聞いたことがない。知らないと答えると事細かに説明してくれた。悪徒の街は対魔人用に作られた街。魔人は残虐でずる賢い。そんな魔人に対抗するために、こちらもずる賢さを鍛え対抗しようと考え作られたのがこの街。試験運用はニ年前から。


「街ではどんなことが行われているんですか」


悪徒の街には運営から貰ったバッチを持って入る。ルールは単純、このバッチを奪い合う。自分のバッチがなくなれば退場。盗み、脅し、戦闘はありだが殺しは駄目、即退場。戦闘で負けた場合も退場。勝ち続けていても一回負けてしまうと退場となる。厳しいルールだ、負けイコール死ということかな。バッチは高く売れる、買い取りは運営。興味深いデータが続々と入手できて街の運営は成功だそう。だが最近参加者が戻って来ないことがあるそうだ。通常はバッチを奪われると街に戻ってくる。そしてそのままいつもの生活に。もしや殺しが行われているのではと運営機関が警戒。調査をすることに。高レベルの冒険者を数人送ったが相手にされず、無人の悪徒の街を歩いてそのまま街に帰ってきた。偽装した高レベル冒険者を送ったが同じく絡まれることなく帰還。困った運営が各機関に連絡し助けを求めている状態。


「エリックさんに相談していたら見た目は弱そうだが死地を切り抜ける能力に長けているハジメなら適任だと聞いてね。それでお願いを。報酬は十分にある」


そういえばルーラーさんには力を見せてなかったな。エリックさんが俺の力を教えないようにうまいこと紹介した形か。行方不明者が出ているとはな、よろしくない。ルーラーさんが困っているようだし、ここは協力しよう。


「お手伝いしますよ」

「助かる。調査内容は内部の調査、行方不明者の捜索と、余裕があれば悪徒の街の奥も調べてくれ」


悪徒の街は三重構造。これから潜入する場所は街の外側、第三階層と呼ばれているところ。奥に行くと壁がぐるりと囲っており、その中にはバッチを投入して門を開け入ることができる。内部も街になっている。更に奥に門があり、その内部も街といった構造。その二箇所は外部とは遮断されていて現在どうなっているか全くわからないという。こわっ、恐ろしい場所が存在するんだな。一応誰がいるかだけは把握している。参加者名簿があり確認可能。参加資格は力よりも頭を使って奪い合ってほしかったため皆初級者~中級者といった程度の者達だとか。力比べになってもなんとかなりそうだな。他いくつかアドバイスを貰う。


「運営本部へ行き試験を受けてくれ。本来上位者しか入れないが、この偽名を使うことで確実に受かることができる」


偽名を覚える。話を終えエルフの村から出て街に帰る。二人に全部は言わないが話をして、潜入後はしばらく俺抜きで活動してもらうことに。道場にも連絡しておかないと。三日後、試験会場へ。


「それでは皆さん始めてください」


結構人がいる。うまくやればお金になるから人気があるのだとか。筆記は難しい問題だらけ。まともに試験を受けていたら落ちていたかも。その日の午後に合格者が決まる。当然俺は合格、名前の書き忘れ、間違いさえなければ落ちようがないからな。名前だけは何度も見直した。合格した人は街とゲームの説明を受ける。


「バッチと地図をお渡しします。街への潜入はいつでも構いません」


銅色のコウモリの羽のバッチを手に入れる。次の階層に行くにはバッチが10枚必要。銀のコウモリのバッチに変換され門の中に入ることができるようになる。地図を見てどこから入るかを考える。街の周りは背丈の低い草原が広がっていで何も無い。陸の孤島になっている。これは人が来たかどうかは簡単にわかってしまうな。だからといって昼間に堂々と行くのはやめたほうがいいとルーラーさんが言っていた。そこまで自信があるのかと街の住民が手を出さなくなる可能性があるからだ。深夜もおすすめされなかった。真っ暗では地の利のない俺は能力があっても最悪負ける可能性もある。夜が明ける時間がちょうどいいかな。朝は見張りが疲れて眠くなるタイミング、油断もあるかもしれない。昼間に偵察をするため街の近くまで移動。思った以上に周りには何も無い。隠れる草もない。ほふく前進しようかと思っていたが隠れられないな。音を立てずに歩いて入った方がよさそうだ。帰ろうとすると、金髪の男がこちらに近づいてくる。同じく偵察に来た人だろうか。俺に声をかけてきた。


「君も街に入ろうとしてる参加者だね。良い作戦があるんだ。どうだい、協力しないか?」

「その作戦とは?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る