第13話 物理が効かない

「ガウスさんから護衛を頼まれた」


サシャからガウスさんがある村に用事があり、そこまで馬車が出てなくて、どうしても野宿をする必要がある、老体には辛いから付き合ってくれとの話が。ディーラさんが留守のようだ。彼女は冒険者だから基本忙しい。


「というのは表向きの話」


どうやら今回の旅は弟子の成長を見るために企画したようだ。実戦を見たかったんだろう、それが一番わかり易い、PTの動きなんかもあるしね。それから報酬もかなり高め。師からのご褒美みたいなもの、ありがたいことです。しかし俺はこの世界でキャンプ経験なんてないな。サシャも野宿はしたことない。


「ふっふー、出番だね」


そうか、ここに野生のエルフがいた。昔から野を駆け回り土はベッドと変わらないと豪語するリーナ。それはちょっと上級者過ぎる。野宿のエキスパートがいるし問題ないな、ガウスさんの依頼を受けよう。湖の家に寄り先に報酬を受け取る。準備が必要だからね、今回は様々な物資を購入することになる。翌日、狩りはやめて護衛の準備をする。まずはキャンプ用品。


「うーん、悪くないけどやっぱりエルフ製の野宿用品が一番かな」


エルフの村へ移動。リーナの説明を受けながらキャンプ用品を購入していく。それにしても詳しい。生活、仕事の一部だと嫌でも覚えると答えるリーナ。そうだな仕事だとミスができないからきっちり覚えようってなる。狩りは命に関わる場合もあるからなおさら。一通り揃い実際に野宿をしてみることに。


「ここらでいいかな」


森の中でリーナの指示の元テントを張る。完成、中は暗幕があり、三箇所個室のようになっている。枯れ木を拾ってきて焚き火をする。意外と火起こしが難しかった。鍋をかけ料理を開始、材料を切り鍋の中へ。その間に熱した石の上で肉を焼く。香ばしい匂いが鼻をくすぐる。スープも出来上がり、食事をする。


「うまい」


今回はすべてリーナが作った料理、すごく美味しかった。料理の腕はかなりのものだ。それに外で食べるのはうまい。友達との酒を飲みながらのバーベキューなんて最高だよね。談笑していると夜が深まりそろそろ寝る時間。ここは魔獣が現れないということで見張りは置かず皆寝ることに。リーナはテントに入らず枯れ葉が積もった場所に歩いていく。


「寝ないの?」

「ここに良いベッドがある」


そう言うとリーナは枯れ葉を掘り出した。中に入ると枯れ葉を身体の上にかけていく。目元だけ出して枯れ葉の中に埋まってしまった。枯れ葉の中だと大地に包まれる感じがして居心地がいいのだとか。


「おやすみ」


プ、プロだ、どこまでも野生、ハンター。一夜明け朝食を食べてからテントを畳んで街に戻る。準備万端。三日後護衛任務スタート。ガウスさんと合流、四人で出発。そこそこの距離がある徒歩の旅、全5日の予定。魔獣が比較的多い道を歩いていく。よく使われる大きな街道と違いあまり整備されていない。ただ土を固めただけの道路。少しして魔獣が襲っってきた。いつものように戦う俺達。特に問題なく退治した。笑顔で頷くガウスさん。その日は特に問題なく終了、キャンプをして交代で見張りを置く。翌日朝食後出発。二日目も順調に旅は進む。野宿にも慣れてきた、ぐっすりと眠る事ができた。夜が明け出発、歩きだしてすぐに建物が見えてきた、目的の村だ。村長宅へ訪れる。我々は居間に通され、ガウスさんは奥へ入っていった。用事を済ませ一泊、村を出て街へ帰る。村を出てすぐ、魔獣に襲われる。


「変わった生物だな」


ゼリーの様な体、スライムだ。透明な肉体、表面はテカっている。この世界のスライムはかなり厄介、なんと物理がほぼ無効。しかし強くはないし何事も勉強ということで戦ってみることに。戦棍で叩くが少し身体が波打っただけ、戦棍がゼリーの肉体にに埋まってしまった。ダメージはなさそうだ。元気にうねっている。


「このっ」


戦棍を必死に引っこ抜く。ズボッと音を立て抜け、勢いを殺せず尻餅をつく。リーナが弓矢を放つ。途中まで入って止まり、ペッと吐き出された。サシャが斬りかかる、切り裂いたが直ぐに元に戻る。ダメージを受けた様子はない。打撃、突き、斬撃も駄目。


「ふぉふぉ、苦戦しておるようじゃの。黄色い鞘の剣を出しとくれ」


剣をガウスさんに渡す。剣を抜く、黄金に輝く美しい剣身、そして剣から電撃が発生している。


「初めて見た」

「これが戦士達憧れの」


魔剣だ。魔剣は特殊な能力を秘めている剣。この剣は雷の魔法効果を持っている。着ている羽織を片手で剥ぎ取り投げ捨てると、凄まじい速さでスライムに近づく。そのまま斬りかかり、スライムを分断、感電したように一瞬しびれダメージを受けるスライム。ゼリー状態から水のように変化しその場に水たまりができ動かなくなった。即死だ。剣技の説明をしながら次々と片付けていくガウスさん。まだまだ現役のようだ。真剣な眼差しのサシャ、動きを目に焼き付けようと必死に目で追う。この姿、どこかでみたことがあるな、そうだ宮本武蔵だ。少し前傾姿勢だから加齢による体の変化かと思っていたがそれが姿勢だったようだ。詳しくはわからないがつながるところがあるのかも。おっとこのままではスライムが全滅してしまう。俺も試しておきたいことがあった。


「トータルライズ」


スライムに打撃が効くのか、この身体なら答えが出るだろう。どうせなら全力で。山を駆け上がり一気に天空へ、そのまま戻り山肌を削りながら下っていく。音速の壁を突き抜け衝撃波が発生。勢いをつけそのままスライムを殴る。当たった瞬間スライムが爆発、水を超え霧となる。スライムを倒すことに成功! 物理は効く!


「……まあお前さんは好きにやればええじゃろうて」

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