第11話 お金持ち
「いい観光地だったんだけどね」
魔人が現れたリーナのエルフの村は戦士達が集められ、一般のエルフは森の奥へ引っ込む形に。美しい湖も現在進入不可。平和な村から一転、物々しい雰囲気に。また来る可能性があるからね。それからサシャを襲った謎の魔獣はあれから現れず、街の警戒は解かれ行き来が自由になる。
「今日もお仕事はりきっていこう」
俺達は日々狩り生活。レベルが上がり5・3・3となる。よくあるゲームと違い中々レベルが上がらない。マゾいと評判のオリファンですら序盤はサクサクとレベルが上ったが。ゲームと現実の違いか。そういえばゲームの一日って現実よりも短かったっけ。それもあるのかな。
「次段階にいってもいいんじゃない?」
「ふむ」
これから少し強い敵と戦うことにした。経験値、依頼で貰える報酬が増える。それもあり装備を今よりも良いものに変えていこうという話になる。現在木の棍棒、革の服、木の盾といまだに最低装備。店を回り計算すると、装備を一新するお金が溜まっていることがわかる。購入するのは銅を使った装備達。銅の戦棍、銅の鎧、銅の盾を購入、サシャとリーナの装備も銅シリーズに。次は青銅シリーズ。木、銅、青銅、鉄、鋼、魔銀と強くなっていく。強くなったがお金が一気に減った。軽くなった財布の中身を見ながらため息をつく。同じくお金も中々たまらない。宿屋、食事代、道場代、諸経費でかなり飛ぶ。それでも急にお金を稼げるようになるから使い込んでしまい破産する新米冒険者もいるとか。気持ちはわかる、現実社会でも初のお給金なんて派手に使っちゃうよね。そこからズルズルと金遣いが粗くなったり。
「ウィナーズ100、ウィナーズ100はいかがですかー!」
ウィナーズ100は100までの数字のうちいくつか選んで、当たりを狙う賭け事。この国は賭けは合法、成人していれば誰でもできる。一瞬心が動く。いやいや駄目だ。ギャンブルで生計を立てていくなんて流石にね。そもそもスキルを使っても絶対に当たるとは限らない。それに外してでもギャンブルを失敗したほうが運が良いと判断される可能性がある。当たり続けるとギャンブル中毒になっちゃいそうだしね。それ以外にも宝くじがあたって逆に人生崩壊したって人もいるし。深呼吸をして心を落ち着かせる。なんとか思いとどまった。
「試しに狩りにいこう」
新しい武具に着替え、依頼掲示板の前へ。予定通りいつもよりちょっと強い魔獣退治をすることに。依頼を受け現場へ、苦戦すること無く退治できた。こうして今日一日が終わり、皆と夕食を。店を探しているとオープンテラスの店で豪勢な食事をしている一団をみかける。あの店、確かかなりのお値段だったはず。物欲しそうに見ていると仲のいいベテラン冒険者とでくわす。いいっすね~と話をする俺。
「ははは、本当の金持ちというのはあの人のことを言うんだ」
指差す先には身だしなみがしっかりしている初老の男性。安そうな食堂、よくあるパンにスープと安そうな食事をしている。彼の名はイデオ、お金持ちとして有名な人だ。召喚術士の元冒険者、起業して大きく当てた人。あったらあった分だけ派手に使ったらそりゃ貯まらない、金持ちは質素倹約、無駄金は使わないものだ、金は投資等に回すと語るベテラン冒険者。理想的にはそうだけど、お金があるなら使ってしまうのが人情というもの、我慢するのは大変だ。現代にも通づるところがあるな、妙に納得してしまった。だからといってイデオさんのマネをしてよーし質素倹約するかとはならない。食事はどの時代、どの世界でも楽しみの一つ。冗談抜きに今後の士気に関わる。肉体労働の冒険者ならなおさら。今まで通りでいいや。それにしても不味そうに食べている、眉をひそめ口をとがらせ機嫌が悪そうだ。もう少し良いもの食べても? 食事後宿屋へ。翌日の朝、ギルドに向かっている途中高級宿屋から独特の服装をした女性が引かれた絨毯の上を歩いて馬車に向かって歩いていくところを目撃。大きな帽子に胸元が大きくはだけた服。見た目は魔女かな。非常に扇情的な服装だ、男性従業員の方は嬉しそうに困惑している。男なら仕方ないよね。
「鼻の下伸ばしてる」
「あーいうのが好きなの?」
「さ、さあ行こうか」
咳払いをし話を変え先頭を歩き出す。午前の狩りを終えギルドの受付へ。
「ギルドポイントが貯まりました。ランク2に昇格できますよ」
ギルドの依頼を達成するとポイントが加算され、一定量貯まるとランクをあげることができる。ランクを上げるとより稼げる依頼を受けることができる。他にも良いことがあるとか。基本は高いほうがいい。レベル上げとランク上げはセットと考えてもいい。ランクを上げるためには試験に受かる必要がある。試験といっても低ランクの試験は冒険者的には一般常識。実技も腕を見る程度。よほど酷くなければ受かる試験。見事合格すると星が与えられ冒険者カードに刻まれる。
「試験の日時はどうしようかな」
「今からでもいいぞ」
話を聞いていた試験官の人がこちらへ。聞くと筆記、実技ともにすぐ終わるそう。食事を入れても午後の道場には余裕で間に合うな、試験を受けることにした。ギルドの部屋に入り試験開始。まずは筆記、魔獣や武器防具、クラスの名前等簡単なもの。すぐ書き終わり提出、試験官が受取りテスト用紙を見る。
「合格!」
その場で筆記はクリア、かなりゆるい試験だ。間違っていて落ちそうな場合は指摘してなおさせ、再提出して合格だとか。やりすぎな気がするけどまあいいか! 次は実技、ギルドの訓練場に移動。中には大きな岩が置かれていた。岩の向こうに人がいてなにかやっているが岩があってよく見えない。
「まだいるけど進入禁止は解かれていたから問題ないだろう。始めるぞ」
お互い構える。布に綿を詰めた棒で攻撃してくる試験官。試験官の突き、振り下ろし、水平切り、体当たりを盾を使い受け止める。騎士としては基本的な動き。問題なく合格。スキルは今回ないようだ。そうだ、勢いで始めちゃったけどシールドブレイクは対策しないといけないな。今日なくてよかった。帰ろうとすると向こうからどよめきが起こる。相変わらず見えないが大きな水の塊が宙に浮いているのはわかった。そして岩に向かって水が発射された。
「ウォーターレイ!」
レーザーのように圧縮された水が岩に向かって飛んでいく。簡単に岩を貫く水撃、かなりの威力だ。おっと感心している場合ではない、勢いが止まらず水がこちらに飛んできている。
「ひっ!」
試験官がその場にうずくまる。丁度盾を持っている、スキルで守るか。
「パイルガード」
スキルを発動、勢いよく飛んできた水は盾に触れ花火がはぜたように弾け、大きな音が出た後分解され蒸発していく。こちらにはダメージが一切ない。思ったとおりかなりの防御力を発揮するようだ。練習場はざわついている。人が集まってきた。ギルド職員には地面に落ちたと説明、ごまかすことに成功。
「昼までかからないって話じゃなかったか。進入禁止の柵がなかったぞ」
「岩の搬入に時間がかかったんだ。そのときに片付けてしまったのかも」
ギルド職員が話をしている。本来安全上の問題で催し物は進入禁止にしていた。まだ終わってなかったけど問題が発生したときに取り払われてしまったということのようだ。まあ誰も怪我はないしということでこの場は収まった。
「……」
そのまま食事へ。戻る頃には手続きが終わっているだろうと試験官。ギルドに戻り冒険者カードを受け取る。
「ランクアップおめでとうございます」
カードに星が刻まれ星が二つに。自分の成長に嬉しさがこみ上げる。
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