第10話 強化魔人戦

リーナは狩人、主な武器は弓、短剣の扱いも得意、足が早く斥候もできる便利なクラス。彼女が魔獣を見つけこちらに連れてくる。俺が間に割り込んで盾を使い魔獣の動きを止める。すかさずサシャが魔獣に攻撃、リーナが援護射撃をして倒す。いいね、PTプレイがうまく機能している。ナイフを取り出し魔獣の解体をするリーナ、慣れた手つきで皮をはぎ肉を切り分けた。見事な腕だ。


「ほー、冒険者になりたての腕じゃないな」

「むふふ、最近まで野生児だったからね」


それもそのはず、世界のエルフは狩猟民族。森に暮らし獣や魔獣を狩って生活している。魔獣の解体がうまかったのは子供の頃から解体をしていたから。弓の扱いも手慣れたもの、こちらも子供の頃から。基礎がしっかり身についているため道場には通う予定はない。


「そうだ、エルフの里に来る? ハジメは行ったことないよね」

「面白そうだな」


次の日、朝起きて朝食後、エルフの里へ向かった。里は森の中にある。街から近くすぐに着いた。エルフの里だけあってエルフが多い。人や獣人もいる。閉ざされた環境というわけでは無い。エルフの里は多くあり、さらに森深くにある里も存在するとか。ここは外界から近いため昔からトラブルが絶えなかった。そこで人間達も協力して平和を維持するようになったとか。トラブルの元は主に魔人。奴らは人類だけでなくエルフや獣人の敵だ。


「ご飯食べていって」


そろそろお昼、リーナの家に招待される。この世界特有の大きな木、その枝の上に家が建てられている。はしごを上り家の中へ。


「ハジメです」

「父のエリックだ、よろしく。サシャ、久しぶりだな」


リーナの父母兄と弟が出迎えてくれた。先祖代々戦士の家系で親父さんはこの村を守る戦士長の立場。そしてラングさんに助けてもらって付き合いが始まった。


「どうぞ」


料理が並ぶ。葉で出来た皿に、木のコップ。焚き火を囲いながら焼く肉、魚の匂いが食欲をそそる。


「いただきます」


うまい。自然に囲まれながらってのも美味しくなっている要因かも。料理を堪能した後、近くの湖へ。今日は道場は休みにしてきた。一日エルフの村でのんびり過ごす予定。いいところあるんだとリーナの誘いに乗り、三人はエルフの村人気スポットへ。


「きれいな湖だ」

「でしょ」


エメラルドグリーンの美しい湖、水草も華麗で様々な色の花を咲かせている。人気の観光地、家族連れやカップルが多数いた。談笑していると雷のような音が近くから聞こえてきた。音がした方を見ると紫の肌色、角、尻尾、羽、悪魔のような見た目の人が。魔人だ、魔人が空から降ってきた。


「に、逃げろー!」

「キャー!」


パニックになり散り散りに逃げ出す観光客達。俺達も逃げる。魔人をよく見ると姿形が違うことに気がつく。血管が浮き上がり筋骨隆々、角の数が多い、腕が6本。多少の個体差はあるが魔人の見た目はほぼ同じと聞いていた。実際に見たことがなく、詳しくないからこんなものなのかもしれないが。鎧を身に着けたエルフの戦士達が魔人に近づき戦いを挑む。


「撃てー!」


数人が弓矢を放つ。金属音がし、皮膚に刺さるどころかはね返している。こいつは強そうだ。飛びこみ切りかかった剣士を蚊でも払うようにぞんざいに手を振り攻撃。吹っ飛んでいくエルフの剣士。地面に叩きつけられ気を失う。


「おっと、殺さないようにしなくてはな。大切な労働者達だ」


魔人は人類をさらって奴隷として使う。攻撃するエルフの戦士達、だがやつには全く効かない。そうこうしているうちに全滅してしまう。このままでは村に来てしまい被害が。俺は魔人と戦うことにした。トータルライズを使い奴の前へ。


「ん、貴様もアレを食べたのか? まあいい、奴隷にしてから聞くとしよう」


黒く禍々しいオーラが魔人から発せられる。口から黒色のブレスを発射、これを避ける。後方で黒い炎が当たった大木はみるみる燃え灰となる。非常に火力が高い攻撃のようだ。魔法を唱える、金属球が現れそれを手にする魔人。こちらに向かって投げる。凄まじい速さだ、まともに当たると一般人は即死だろう。今度はそれを六つ、一気にこちらに投げ飛ばしてきた。金属球をすべて受け取る。握りつぶし砂にして地面へ。思ったよりも柔らかかった。ほぉ、と感心する魔人。そしてこちらに突っ込んできた。


「稀にいるものさ、限界を超えた存在がな!}


殴りかかってくる魔人。その拳を避ける俺。続けて6つの拳が俺を襲う。途中から蹴りと尻尾頭突きも混ぜてきた。全てかわす俺。今度は攻撃を受け止めてみる、手の平に痛みはないな、ダメージは受けていないようだ。ガードを解き殴られ放題に。しかしダメージはなかった。


「う、嘘だろ、貴様は一体何なんだ!?」


剣を二本召喚、魔法を発射、攻撃が激しくなる。だがやはりダメージはない。繰り出してきた拳をはじきハイキック、奴の顔面にヒット、顔を変形させ吹っ飛んでいく。地面に叩きつけられたがすぐに体制を立て直し攻撃の姿勢に。効いてはいるがまだまだ動けそうだ。サシャを襲った魔獣よりも強い。そう考えると魔人領で出会った魔獣はかなり強いやつだったんだな。あんなのがたくさんいて呑気に森を散歩しているのか。戦闘を思い出すと身の毛がよだつ。自己回復をする魔人。一気に倒してしまうしかなさそうだ。


「こ、この俺が、力を手に入れたこの俺が!」


今度はこちらから、瞬時に近づき顔面にワンツー、左のボディブロー、コンビネーション内側ローキックからの裏拳、決まったかなと思ったが急激に魔人のオーラが増大、後方へ飛び様子見。


「こうなったら俺ごとテメエを」


しまった、「黒の爆弾」だ。魔人の最後っ屁、自爆技。通常時の魔人でも民家一軒を破壊するほどの威力、力が上がっているコイツならもっと威力があるだろう。まずいぞ、近くに倒れているエルフの戦士が。移動する時間はない。仕方ないと再度魔人に飛び込む。殴りつけ畳みながら小さく丸めて地面に叩きつけ、俺の体で覆った。


「なんてやつ……」


この言葉を最後に爆発。爆発により大きく地面がえぐれる。小さな公園がすっぽり入るくらいのクレーターが出来上った。かなりの威力があったようだな。エルフ達は無事だ、よかった。


「あれがハジメの力だよ」

「強くなった魔人を赤子の手をひねるように……」


戦いが終わり、エリックさんに報告。目立ちたくなかったからエリックさんだけに本当のことを伝えることに。エルフの戦士は皆気絶していて見ていたのはサシャとリーナだけだった。驚いていたが、強化した肉体を見せると納得してくれた。それから魔人との会話を思い出し、何やら変わった物を食していた事を伝える。調べてみようとエリックさん。姿形が気になったので普通の魔人の絵を見せてもらう。やはりかなり違うな。基本奴らは細身。エリックさんも絵の魔人が基本的な魔人と答える。話が終わり街に帰る前にまた湖へ。大きなクレーターができたくらいで動植物には影響はなさそうだ。現在エルフの人達が何処かから持ってきた土をクレーターに放り込み平らにならしていた。しかし魔人が現れるとは。これからやつらとの戦いがあるのかもしれない。

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