第7話 情報屋

サシャはこれから一人の冒険者として独立してやっていこうと考え、家を出てきた。うんうん、応援するよ。


「道具屋へ行こうか」


PTを組むにはPTクリスタルが必要。最大人数は五人まで。道具屋でクリスタルを購入、俺がリーダーをすることに。一つだけ大きなクリスタルがリーダー用、それを俺が所持。サシャにクリスタルを渡してPT成立。クリスタルを渡すだけだから組むのは楽だ。ギルドに戻り狩りをしようと思ったが、謎の魔獣が現れた場所は広域を立入禁止とされていた。


「この付近ではしばらく魔獣退治は難しいな」

「場所を変えよう」


俺達が暮らすこの街はかなり大きな街。ギルドもいくつかある。そして低レベル狩り場も数多くある。ギルドを変え付近の魔獣を調べる。低レベルでも倒せる魔獣が多いな、ここにしよう。日を変え魔獣討伐へ。対象はいつものレッドアイ。現地で早速奴らと戦う。盾で奴の攻撃を防ぎ、隙をついてサシャがレッドアイを攻撃。問題なく撃破。もう少し強い敵を選ぶ。同じように戦い倒す。今まで一人で戦っていたから少し感動を覚える。仲間がいるっていいね! こうして数日、依頼を受け魔獣討伐を繰り返す。


「そろそろ剣術を身につけたいな」


スキルは強力だが剣の技術が上がるわけではない。もっと強くなりたければ各武器術を教えてくれる道場に通う必要がある。


「剣術ならお父さんが、いやなんでもない」


おっといけない。彼女は今独り立ちしようとしている。なのにいきなり父親に頼るなんてできるわけない。言い出しそうになった言葉を飲み込んだ。地図を見て探してみるか、剣術道場はと。げっ、かなりの数あるな。通りすがりのベテラン冒険者に聞くと当たり外れがあるとアドバイスをしてくれた。どれどれと一緒に探してくれるベテラン冒険者達。


「ここはどうだ、昔からやってる名門だ」

「ああ、最近継いだ人が駄目って話だ。それよりもこっちは」

「この前閉めちまったよ」


難航する道場探し。たくさんあるのも問題だな。ネットでも大量にあると検索が面倒なことあるある。参ったな、どこも駄目な気がしてきた。


「そうだ、父さんの師匠、ガウスさんなら」


剣聖の師匠か、それなら腕も教える方もまず間違いない。ただ名前を知っているだけで今はどこにいるか、現在教えているかはわからない。


「それなら情報屋を使えばいい」


情報屋はお金を払って情報を探ってくれる人達。ただ、情報屋もピンキリ。なんだかスタート地点に戻された気分。


「お、アイツなら間違いない。名前はルーラー、この街一、二を争う情報屋だ」


ベテラン冒険者が指差す先に赤い服を着た情報屋ルーラーがいた。彼は数々の名のある人達とも仲良くしている情報屋。冒険者になりたての俺達では相手にしてもらえないだろう。紹介した冒険者も冗談半分で紹介したようだ。いや、決めつけはよくない。もしかしたらもある。よーしここはいってやらぁ、男は度胸! 待てとベテランに止められるが聞かずに情報屋へ突っ込んでいく。


「あの、情報が欲しいんですが」

「……お前がか?」

「はい」


キョトンとする情報屋の男。すぐに冷静さを取り戻し面白いと答える。確かに冒険者になりたてほど情報が欲しいものだと頷く男。


「いいだろう、ただし俺に賭けで勝てばな。俺が負けたら望む仕事をしてやろう」


彼の気まぐれだろうか、とにかくチャンスを手に入れた。言ってみるものだな。だがベテラン冒険者は渋い顔をしている。


「悪い男だルーラー。お前に賭けで勝ったやつは今までいないだろう?」

「ああ、全勝だ」


強い、強すぎる。これはイカサマやってんのか? というくらい強い。そうかこれだけの異常な成績なら実際やってそうだな、もしくはレアスキルに秘密があるとか。ルーラーに連れられある建物の地下へ。そこでは男達がリングの中で殴り合いの喧嘩をしていた。厚みのある革手袋を身に着け、二人の男がただただ殴り合う。なるほど、賭け試合か。勝負は簡単、どちらの男が勝つか。


「始めっ!」


鐘が鳴り試合が始まる。ルーラーが赤い手袋の男を指名。困ったな、選手を知らないしルールも知らない。完全に勘で答えるしかない。そうだ、こんな時のためにスキル「ラックプラス」を手に入れておいたんだった。このスキルは運のステータスを上げる効果を持つ。そもそもこういった賭け事に利用できるかわからないけど。ラックプラスを使い青い手袋の男を指名。単純な賭け、ワンチャン、俺が勝つ可能性もあるのでは。


(悪いな少年。俺は未来を見ることができるんだ。ごく近い未来だがな。青の男が倒れ、その前で赤の男が拳を天にかざす姿が見えた。赤の男が勝つのは決定事項だ。俺のレアスキル、「未来視」は外れたことは一度もない)


ブンブン拳を振り回す赤の男。青の男は余裕を持ってかわし、カウンターの一撃を食らわす。ダメージを負った赤の男は今度は防御一辺倒に。そのままコーナーへ追い詰めていく。勝てそうだ、いけいけ! 赤の男が苦し紛れのパンチを放つ。かわしきれずおでこに当たる。軽く当たっただけだ、いけるいける。だが、青の男の動きが急に悪くなる。顔色が悪い、今の攻撃が効いたのか。青の男が拳を出したがお返しとばかりに赤の男が放ったカウンターを受けてしまい、地面に倒れる。まあそんなものだ。世界一の運スキルといっても賭け事には通じないってだけ。拳を突き上げる赤の男、負けたぜ。お付き合いいただきありがとうございましたと言おうとすると、試合会場からどよめきが起こった。会場内で争いが起き、仲間が赤の男を逃がそうとしていた。腹が立つからといって興奮した相手の仲間とか賭けた客が乱入したかな? 悪いやつがいるものだ。しばらくして争いが収まる。審判が赤の男の革手袋を取り外す。そして中から金属の板が出てきた。


「赤の反則により、勝者青!」


試合が覆された。正直よくわかってない俺。金属板が駄目ってことかな?


「なにかしたか? それとも運だけか?」

「一応仕込みはしました」


ラックプラスを使ったとは言わないがスキルを使ったことを正直に話した。今まで全勝だ、おそらく彼も使っているだろう。それか試合の団体と話がついているのか。結果が覆ったからそれはなさそうだが。


(まさか俺が負けるとは。しかも運だけではないようだ。ならばなおさら完敗だな)


こちらを見て微笑むルーラーさん。


「仕事の内容を教えてくれ」

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