第6話 サシャ

彼女達が狩りに来たとき魔獣が少なく、仲間が危険を察知し場所を変えることを提案したが、構わず狩るように指示、そしてあの魔獣と出会ってしまい全滅の危機に。


「私達なら少しくらい強い魔獣が相手でも大丈夫だと調子に乗っていたんです」


調子に乗っいてか、その言葉は俺の心をえぐる。こっちなんて魔人領にまで入っちゃったからね。


「本来なら現れない魔獣だ、運が悪かっただけだ。俺も最近先走ったよ」

「最近?」

「あ、いや若いころね」


そして偉大な父を持ち、早く自分も評価されなくてはと焦っていたことを明かす。それは辛いな。強者の子供だから利点もあるだろうけど、どうしても比べられるだろうな。真面目そうな人柄の彼女は尚更辛いだろう。知人のラーメン屋二代目の愚痴を思い出した。全く同じ味なのに客は認めてくれない。試しにこっそり初代に作らせても味が変わったと文句を言ったそう。世間というのは結構いい加減だ。そして認められるには先代を越えるしかないと言っていたが彼は元気でやっているだろうか。気が落ち精神的に弱っている彼女。うーん、このまま放ってはおけないな。


「フルスラッシュの威力はどのくらいだい?」

「え? ああはい」


剣士のスキル、フルスラッシュ。剣を振りかぶり全力で叩きつける技。技を放った後に地面に剣の筋が残ることから、よく実力だめしとして用いられる。強力なフルスラッシュほど長く地面に跡が残る。フルスラッシュを放つサシャ。成人男性一人分くらいの長さ。低レベルだからこんなものじゃないかな。


「親父さんはどのくらいかな」

「ここからあの大木くらいまでです」


20メートルってところか。言葉で慰めるだけでは説得力がない。ならどうするか。父親以上の力を見せつける。それ以上の存在だと思わせることで説得力を増す。そして俺にはそれができる。世界一位というのなら親父さんよりちょっと伸びるだろう。剣を借り大木に向かってスキルを放つ。


「フルスラッシュ」


振り下ろされた剣の衝撃波が大木まで伸びていく。大木を切り倒して君の父さんより上だよってところか。あれ、大木を両断しても勢いが止まらないぞ。お、おい、更に200メートル先の大岩にぶつかって、真っ二つに!


「強力なフルスラッシュ、あなたは格闘家では。いやそれよりもこの威力は!?」

「お、俺は剣士さ」


想像以上の威力に驚きつつ、一呼吸して落ち着きを取り戻す。


「君の親父さんでも俺からしたら屁みたいなものさ」

「父さんが屁!」

「焦るな。じっくり成長していけばいい。そうだな、もしくだらないことを言うやつが現れたら俺がぶっ飛ばしてやるよ」

「ふふ、あなたにぶっ飛ばされては死んでしまいますよ」


冗談が言える位ならもう大丈夫かな。テントから声が聞こえる。サシャの仲間が目を覚ましたか、そろそろ帰ろう。


「じゃあな」


立ち上がり街の方向へ歩いていく。


「私はサシャです。あの、お名前を」

「名乗るほどの者じゃない」


というか名乗れない。少々無責任かもしれないけれど、元気をだしてくれればそれでいい。手を振り街へ帰った。それにしてもサシャの親父さんとは威力にかなりの差があったな。彼は世界でも上位に入ると聞いていたが。世界一位の基準がわからなくなってきた。翌日ギルドへ。テーブルにつき今日は何をしようかと考えていると、サシャを見かけた。今は一人のようだ。俺はもちろん知らんぷりを決め込む。昨日は顔まで筋肉質だったからな、服も違うし気づかれないだろう。サシャが俺の目の前の椅子に座る。はは、たまたまだろう、そこしか空いてなかったし。今日はいつにもまして混んでいる。


「レベルはいくつですか? 同じくらいならPTを組みたいなと」


俺に話しかけてきた。現在安物の服を着ているからな、低レベルと思われたか。ふむ、偶然とは重なるものだ。素っ気ない対応で追い返すとしよう。


「レベル4だ。だけどな悪いがまだしっくりくるクラスが見当たらなくてね、PTを組む気はないんだ。他を当たってくれ」

「くだらないことを言うやつがいたらぶっ飛ばしてくれるんじゃなかったんですか?」


その言葉に反応し思わず彼女の目を見てしまった。やっぱりという表情を顔に浮かべるサシャ。ウソだろ、なんでバレたんだ。


「後頭部の髪が派手に染まってますよ」

「ええっ、気が付かなかった」

「一人だとわからないこともあります」


例の巨大魔獣の返り血かな、汚れは取れたと思っていたけどまだ残っていたか。結構抜けてるところがあるんだよね、俺。ガソリンのキャップをはめ忘れて近所のおじさんに言われるまで気が付かなかったなんてことがあった。お手上げと苦笑いをしながら正体をバラす。どうやらPTを組みたいようだ。しかしどうしたものか。この滅茶苦茶なスキルがなぁ。でもすでに彼女には力を見られている。問題ないといえばないか。俺としても協力者、仲間は欲しい。そうだな、俺の正体を簡単に見抜いた彼女は実に欲しい。仲間になってもらおうかな。俺の情報は徐々に公開するとしよう。


「いいよ、PTを組もう」

「やった!」

「敬語はやめよう」

「わかり、わかった」


こうして剣士のサシャが仲間に加わった。

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