第11話 母の真実(改稿)
「これ、どういうことなんですか。こんな理由で僕を養子に?」
改めて高坂さんに問うた。
最大の疑問にして、一番知りたいことだ。
高坂さんはゆっくりと首を横に振る。『そしてこれから話すことが真実かどうかあなたが決めて』と真剣な目つきで言い放ち、話し始めた。
「実久さんはね、あなたのお母さんは二〇歳でお見合い結婚したらしいの。結構いいとこのお嬢様だったみたいでずいぶんと年上の人と結婚したらしいわ。旦那さんは娘程はなれた実久さんにとても親切で優しい、本当に穏やかな人だった。でもね、そんな旦那さんも裏の顔があって酒を飲むと、暴力的になったらしいわ。実久さんのことを殴って救急車で運ばれたこともあったそうよ。でも結婚してから五年後に旦那さんに転勤の話が舞い込んできたらしく、実久さんはここでの友だちが大事だからとついていくことは断ったみたい。旦那さんも酒を飲まなければ穏やかな人だったから快く許してくれた。単身赴任が始まって一年に一度しか家に帰らなくなった。実久さんはほっとしたそうよ。逃げられるチャンスだって。ようやく暴力から逃れられるって。離婚も考えたけれど、経済力がなかったから実久さんは旦那さんに秘密で花屋で働き始めた。そこで”晴斗”という青年と出会って、恋をした。彼は年下だったけれど優しく、時には厳しく接してくれ正面から叱ってくれる人に初めて出会った実久さんは惹かれていった。そのうち子どもができたことに気づいた実久さんはどうしても生みたくなった。いけないことだと分かりながらも愛する彼の子どもが欲しかった。でも自分では育てられない。夫もいる。そこで私たちを頼ってあなたを生んだの」
目の前で語られていることは自分のことなのか。想像を逸したお母さんの人生、僕が生まれた経緯‥‥。怒りではなく悲しみが沸き上がり、大粒の涙が瞳から零れ落ちていた。
「それでお母さんは?いまどうしてるんですか?」
止まらない涙を拭いながら高坂さんに聞く。
「それがねえ、晴君を生んだ後めっきり連絡をよこさなくなってしまって。私も何度も電話をかけたし、家も尋ねたわ。でもすでに引っ越してしまっていて。もう連絡の取りようがないの。ごめんなさいね」
やっとの思いで施設まで来たのに、まだお母さんにはたどり着けない。
母さんは死んだというし(嘘か本当か分からないが)、もうここまで辿るのが限界なのかもしれない。
悶々としていると高坂さんは急に思いだしたことがあったみたいだ。『この学校に親戚が働いていると聞いたのを思い出したわ。まだいるか分からないけれど尋ねてみたらどうかしら?』と話し出した。
渡されたメモを見ると僕も良く知っている学校の名前だった。
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