第9話 ひだまりの中で(改稿)
養親縁組あっせん団体“ひだまり”は約二〇年前からある団体で、民間のあっせん団体の中で結構な知名度らしい。ホームページを覗くと、利用者の声と共に代表のコメントが添えられていた。
「私たちは一人でも多くの子どもが幸せに暮らせて生きていけるように活動しています。今、日本には親のいない子どもたち、生まれた瞬間に実の親とは離れて暮らす必要のある子どもたちがたくさんいます。一方で親になりたくてもなれない人もたくさんいます。そういう大人と子どもを助けたい。その一心でこれからも活動し続けます」
代表の高坂さんは六〇代くらいの朗らかなおば様という風貌で、目尻のしわがこれまでの苦労を表していた。
養子縁組について調べているとこのあっせん団体のほかにもいくつかあることが分かったが、最近は急に連絡が途絶えたり、倒産したりであっせん団体の在り方が問われていることを知った。
ひだまりのホームぺージの更新は二年前で止まっていたが、まだ運営されているのだろうか。心配になりながら記載されている電話番号にかけてみた。
「こちら、養子縁組紹介所ひだまりでございます。本日はどのようなご用件でしょうか」
女の人が電話に出た。なんだまだあるじゃないか。僕は用件を伝えると、資料が見つかったらしく一度来てみませんかと誘われた。
「はい、でも僕はまだ高校生なんで土日でも大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ、では土曜日の午後一時のご都合はどうでしょうか」
「空いています。僕ひとりで行くのでどうぞよろしくおねがいします」
「こちらこそ、お待ちしております」
案外あっさりとしたやりとりだったのでしばらく呆然としていたが、これで僕のこと、僕を生んでくれた人のことを知れるとおもうとワクワクした。
「母さん、僕今週の土曜日に行ってくるよ。ひとりで行くけど心配しないで隣町にあるみたいだし」
母さんは気まずそうな顔をしながらも、『よし行ってらっしゃい。これであなたの気が済むなら母さんも安心だわ』と言ってくれた。 母さんも僕も前に歩み始めている。あれだけ泣いていた母さんも今日はどこかすっきりした顔に戻っていた。僕も僕で空にかかった靄が晴れたような清々しい気持ちだった。
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