第6話 信憑性 Ⅰ (改稿)
朝が来た。
昨日はいつ帰ってきたっけ。確か父さんが迎えに来てくれていたはずだ。でもそのあとの記憶があやふやだ。
ずっと夢の中を歩いていて気づけば現実世界に戻ってきていた感覚だ。
さあ学校に行く準備をしなければ。皴ひとつないカッターシャツを着た後、ネクタイを締める。よしっと顔を一叩きして階段を下りた。
「おはよう、できてるわよ。食べなさい」
何事もなかったように母さんは朝ごはんを準備してくれていた。長い髪を水色のシュシュで束ねて、せかせかと父さんのご飯の準備もしていた。
「ありがとう」
ぼそりとつぶやくといつもの席についてイチゴジャムがたっぷり塗られた食パンをかじった。甘い。イチゴの粒が少し残った歯ごたえのあるジャムが奥歯に挟まった。
「母さん、昨日はごめん。でも僕…」
母さんは僕の口を制した。何も言うなと、ものすごい勢いで母さんもごめんねと本当に謝りたい気持ちがあるのかと疑いたくなるくらい荒々しく謝った。
*
「行ってきまーす」
いつもなら母さんが玄関の外まで送り出してくれる。でも今日はそこに姿はない。
先ほどの一件が尾を引いたのか、母さんは僕を見送ってくれなかった。怒っているのだろう。まだ僕のことを許せないでいるのだ。
確かに母さんには悪いことをしたとは思う。でも僕の気持ちも考えてほしい。
本当の親を知らない僕の気持ちを。行き場の無い焦燥感を。
学校の授業中も頭から離れなかった。僕の親は今何をしているのか。そもそも生きているのか。とか。
僕には知る権利がある。でもどうやって調べたら良いのか見当もつかない。誰か頼れる大人に相談したい。友達じゃどうにもならないし、ましてや自分の親なんてもっと無理だ。
頭の中でぐるぐると考えて一番最適だと思った行動をとることにした。
“そうだ。一番信頼している保健室の先生に相談しよう”
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