第26話
【アルト視点】
私はすぐに王城に向かった。
「ワシもいくでの」
雷をまとって会議室に飛び込むように入ると全員が私の方を向いた。
「遅かったな。くっくっくっく」
「くそ王が!」
「全く、じじいを置いてきたか。さて、アルクラが来ていないが会議を始めようではないか」
私が席に着くと会議のメンバーがダラダラと汗を掻いてちらちらと私の様子を伺っている。
「王、根回しをしていたな?」
「何の事だ? 私はただ、エムル達を封印する国益について語っていただけだ」
「それを根回しと言うんだ!」
「アルト、魔力が溢れて皆が不安がっている。落ち着くのだ」
イラ!
「会議を始める」
「早速ですがフェイスとその副官を結びのダンジョンに向かわせております。人が立ち入る事の少ないダンジョンですし、モンスターがどの程度いるか分かりませんので安全調査の為結果待ちです」
兵士が急いで入ってきた。
「フェイス殿が帰還しました」
「すぐに連れて来い」
「了解です!」
フェイスが副官と一緒に会議室に入ってくるとざわめきが起こる。
フェイスの隣には副官が寄り添う。
明らかに距離が近い。
王はにやにやしながら言った。
「フェイス、なにか報告、いや、ダンジョン報告の前にめでたい事があれば聞こう」
「はい、私は副官であるフェザーを妻にします!」
ざわざわざわざわ!
まずい!
まずいまずいまずいまずい!
あのフェイスが恋に落ちた。
いや、もともと2人の相性は良かった。
それでも結びのダンジョンに2人で向かっただけで結婚が決まった!
ライが結びのダンジョンに向かえばどうなる?
3人の内2人はライを狙っている。
特に危険なのはエムルだ。
奴は手段を択ばず罠を幾重にも張り巡らせクモのように獲物を絡めとるだろう。
「式を事についてはおいおい話すとして、結びのダンジョンについて報告してくれ」
「はい、結びのダンジョンにモンスターの危険は無いでしょう。ですが、あそこは様々な外的要因で恋を実らせると確信しています」
「フェイスとフェザーが結ばれるほどに強力である事は分かる。フェイス、フェザー、ご苦労だった。ゆっくりと2人だけで休むがいい」
2人は顔を真っ赤にして会議室を出て行った。
「私はライを結びのダンジョンに連れて行く事に反対します」
「そうか、アルトは反対か、だが残りの全員は賛成している。考えてもみろ。ライが3人を抑える事で未来に起こるであろう事件が無くなる。1人の犠牲で多くが救われる、となれば賛成するのが合理的な判断と言うものだ」
「俺でも私はライの親でもあります」
「感情は理解できる。エコー公爵、意見を聞きたい、いや、先ほど言った素晴らしい意見を聞かせて欲しい」
「は、はい、わたくしはライの結びのダンジョンに向かわせることに賛成ですわ」
「エコー公爵、私の目を見て言っていただきたい!」
「ひいいい!」
「アルト、脅すのは良くない。続けてくれ」
「は、はい、理由はエムルによる国の損失です。資料の15ページをご覧ください。エムルが出した損失を文官への嫌がらせや公務進捗の遅れも考慮して算出しました」
「エコー公爵、私の目を見て言ってくれ!」
「し、資料を読みながらですので、わ、わたくしは資料を暗記しておりませんので」
「おいおいおい! アルト、脅すなよ!」
「脅してはいない!」
「おーこわ! エコー公爵、続けてくれ」
「は、はい、更に次のページには成長し、更に力を増したエムルがこの最大都市である王都に来た場合を想定して被害を算出した結果です。当然未来の事は分かりませんが損失額が過去の10倍を超える見通しも出ています。よってエムルの封印は必須です」
「うむ、素晴らしい考察だ。次にライト侯爵、先ほど言った素晴らしい未来の事についてもう一度語って欲しい」
ぎろり!
「アルト、ライト侯爵を睨むな。雷滅のアルトが脅して事を進めるのはよくないなあ。はははははははは!」
ライト侯爵は私から目を逸らして話を始めた。
これは私に向けた説得だ。
なぜ私の目を見て話さない!
「で、では話をさせていただきます。仮に、仮にです。ライとエムルが結ばれたと仮定します。そうなれば天才錬金術師アルクラ殿と若き天才錬金術師エムルが手を組む未来も想定できます。そうなればエムルはこの国に被害を及ぼすどころか国益を及ぼす可能性すらあります。エムルの行動を考えますと、自分の都合のいい行動には飴を、都合の悪い行動には鞭を打ち人々を誘導する傾向があります。つまりエムルにとって都合のいい未来さえ手に入れば国は恩恵を受ける可能性もあるわけです。更にもっと確実な方法もあります」
正論過ぎて反論できない。
「ライがエムルを投げ飛ばし、押し倒し、胸倉を掴む事で言う事を聞かせられる可能性が高いでしょう。エムルはドMです。ライのお仕置きで言う事を聞く、いえ、そうなるように持って行ける可能性はかなり高いと言えるでしょう」
私はその後も正論を何度も突き付けられた。
そして王が口角を釣り上げた。
「まさか、今までの会議は、時間稼ぎか!」
「くっくっくっく、アルト、気づいたか」
「フェイスが帰ってすぐに4人はもう結びのダンジョンに向かうように言ってあった。アルト、焦って冷静さを失うのは良くない。息子の大事だ。無理はないがな。ははははははははははははははは!!」
「……表に出ろ」
「いいだろう。喧嘩を買ってやる」
バチバチバチバチ!
チュドーン!
バッキャアアア!
喧嘩が終わった後遅れてきた父に呆れられた。
「なんじゃい、また喧嘩かの? ほれ、回復ポーションじゃ」
ライ、すまない。
私は、お前を守れなかった。
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