第25話

【王視点】


「エムルがおとなしくなっています」


 ざわざわざわざわ!

 学園会議はいつも話題に事欠かない。

 

「ありえん! 西の厄災がおとなしくしているなど! 天地がひっくり返ってもあり得ん事だ! 何かを仕掛けているに違いない!」

「私もそう思う、まるでハリケーンが来る前の平和のような不気味さがある」

「私は2年前まで西にいましたからエムルの事は知っています。アレは人を怒らせて怒られている間も口角を釣り上げて悪魔のような笑みを絶やさない。アレはお仕置きを受ける為に長期視点で計画を立てて多くの果実を手に入れる為に動く」


 エムルは皆に警戒されている。

 俺は会議を見守った。

 どうせこいつらは言いたいことを言わないと会議が終わっても俺の周りに集まってくる。


 毒を吐かせておこう。

 上に立つ者なら文句を言わずに自分で動いて欲しいとは思う。

 行動が民と何も変わらない。


「エムルが目立っているのは確かだ。だがヒーティアも警戒すべきだ。ヒーティアは男を堕とし争いに発展させる」

「それを言うならプリズンも危険ではある」

「プリズンは怒らせなければ問題無い。それに本人は恋をしないと言っている。今のところ安全ではある」


 文官も空気を読んで静観した。



 言葉が途切れた所で文官が声をあげる。


「進行を続けます! 西のエムルがおとなしくなった原因はライ・サンダースの影響があるようです」


 ざわざわざわざわ!

 アルト(ライの父)がぴくっと眉を動かした。


「ライ、確か古竜との戦いで回復魔法を覚えたとか」

「アルクラ殿の首輪、その力があったとはいえ古竜のブレスを幾度も受けて生還したあの」

「フェイス、直接見てきたのだろう? ライはどうだった?」


「王よ、発言を宜しいでしょうか!?」

「自由に話せ」


 フェイスは周りを批判しないように無断で発言をする者に釘を刺している。

 だが周りは何も気づいていないか。


「はい、ライは剣の才能がありません。魔法の腕も未熟でした。ですが伸びます」


「言っている事が矛盾している」

「フェイスにしては言葉が分かりずらい。分かるように言うのだ。ここにいるのは戦いになれた者だけではないのだからな」


「はい、私の分析では彼に才能はありません。ですが直感が違うと言っているのです。私はライが古竜のブレスを受けてそれでも立ち上がり回復魔法に覚醒したあの姿を直接見ました。無才が出来る事ではありません。矛盾している事は分かっていますが何か大きなモノを感じるのです」


 フェイス、やはり優秀だな。

 冷静な分析では白で直感は黒、わずかな違和感を感じ取ったか。

 俺はここで口を開いた。


「何となく、分かる。ライは古竜を前にしてそれでもおとりを続けた、その精神力は並ではない。そしてライはゼロの紋章を持つただ一人の人間だ。直感とは今までの経験の積み上げだ。竜殺しの天才魔法剣士フェイスを持ってしてもライを測りきれない、そういう事だろう。もっと様子を見なければどう成長するかは分からん」


「不屈、古竜を前にして生還したライ・サンダース。サンダース家なら西のエムルを押さえきれるのではないか?」

「ライ・サンダースは今鍛錬を続け、疲れれば回復魔法を使い鍛錬を長く続ける苦行を行っているのだとか」


「エムルにライをぶつければいい」

「はい、会議の議題はそこでした。エムルはライ・サンダースをとても気に入り、目を付けているようです」


「おおお、そういう事か、不屈のライなら死にはしない、古竜に対しておとりになり生還したのだからな」

「エムルにライを当て続ければ政務は速やかに進むだろう」

「1人の犠牲で国が安定するのなら安い犠牲だ」


「実はヒーティアもライを堕とそうとやっきになっています」

「丁度いい、ライに相手をさせようではないか」


「2人はライと組ませ続ければ国が安定するか、皆の意見はよく分かった」

「王よ、その言い方はあまりに適当ではありませんか?」


 アルトが怒っている。

 厄介な人間をサンダース家に入れたくない気持ちは分かる。

 だがもう根回しは済んでいる。


「失言だった、言い直そう。サンダース家の跡取りとなれば子を成す責務がある。エムルもヒーティアはライを狙っている。。3人で協力して子を成すべきだろう」

「そういう問題ではない」


 アルトの魔力が膨れ上がった。

 

「言い方が悪かったというので言い方を変えただけだ」

「内容が酷くなっている」

「お前息子は変わっているって自分でも言ってたじゃねえか」

「変わってはいても私は息子を愛している」


「え? なに? 孫の顔が見たくないの? 妻は孫を早く欲しがっていたな?」

「く! 根回し済みか」

「何を言っているのかわからんなあ! アルト、愛する妻が悲しむぞ。早く孫を作れ」

「やはり妻にも根回しをしていたか! その勝ち誇った顔をやめろ!」


「なに? ライに他の相手がいんのか? アルクラも孫が欲しいらしい。家族の内2人は納得している。家族の輪を乱すのは良くねえなあ」

「ふざけるな! 学園時代からそうやってひどい目にあってきた! その勝ち誇った顔を今すぐやめろ! むかつくんだよ!」


 アルトの魔力がさらに膨れ上がる。


「おいおい! なんだその言い方は! 今俺は王だぞ!」

「やかましい!」


「ほれ、机といすを隅に避けるんじゃ」


 アルクラの言葉に公爵でさえも従う。


「2人とも、喧嘩はええが外の訓練場でやってくれんかのう? お互い武器は使うでないぞ!」

「拳で殴り倒してやるよ!」

「その前に雷で焼いてやる!」


 俺とアルトは訓練場に走った。


 チュドーン!

 バチバチバチバチ!

 ドッコーン!


 俺とアルトは本気で戦った。



 ◇



 俺とアルトが地面に倒れる。


「気は済んだかのう?」


 俺とアルトは無言でうなずいた。


「そう言えばライはプリズンの事が気に入っておるようじゃのう。ん? なんじゃ、2人とも聞いておらんのか。ライは3人と結婚をさせるつもりでお母さんはうごいておるぞい?」


「なん、だと」

「はあ、はあ、ライは闇の殲滅者の事を知ってんのか?」

「いや、言っておらん。多分知らんじゃろう。じゃがワシは気にせん」


「じじいはそうだろうな」


 じじい自体がかなり吹っ飛んでいる。

 錬金術以外の細かい事は気にしないだろう。


「3人と結婚か」

「だが、プリズンはもう恋をする事は無いだろう。それに結婚は当人同士の気持ちが大事だ」


 アルトはそう言いつつ結婚を無かったことにしようとしてくるだろう。


「今日は帰れ。そして3人で話し合ってくれ」

「お前の思ったようにはならない」

「アルト、お前が今更動いてももう遅い」


 アルトが俺に向かって来ようとしてじじいのゴーレムが止めた。


「帰るぞい」


 アルクラとアルトが帰って行った。




【アルト視点・3日後】


「む、兵士が来たようじゃのう」

「嫌な予感がする。すぐに行ってくる」

「ひっひっひっひ、王に一本取られたのう」


 家を出ると兵士が俺に手紙を渡した。


「そ、それでは失礼します」

「待て、これは王からか?」

「は、はい!」


 兵士はだらだらと汗を流す。

 スマホではなくわざわざ手紙を送ってきた。

 嫌な予感がする、王の勝ち誇った笑い声が脳裏によぎった。

 急いで手紙を読んでいく。


 バチバチバチバチ!


 俺は文章を読んですぐに手紙を電撃でも火をつけボロボロにした。


「ひいい!」

「怯えさせてすまない。任務ご苦労だった」


 兵士が足早に去って行った。


「お父さん、どうしたの?」

「あのくそ王が! やられた。ライ・プリズン・エムル・ヒーティアが結びのダンジョンに向かわせると書いてあった!」


「まあ、早めに孫の顔が見られそうだわ!」

「ひっひっひ、悪ガキ王の性根はかわっとらんのう」


 妻と父が笑い声をあげた。

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