第23話

 俺とじいだけが砦の外に出た。


「今は人命がかかっておる。プランCで挑み、無理ならライが倒すんじゃ」

「分かるけど」

「これを使うんじゃ」


 じいが収納魔法から巨大な樽を取り出した。


「これは?」

「こんなこともあろうかと作っておいた樽ジャンプじゃ」

「まさかこの樽に俺が入ってそのナイフ型のカギを樽に突き刺せば古竜の所に飛んでいけるのか?」

「そうじゃ」


「なんでフェイスに使わなかったの?」

「すぐに出て行きおった、それにの、バリアで体を守る魔法が不完全じゃ。飛ばせば若干のダメージを受ける」

「……ええええええ!」


「早く入るんじゃ」


 俺は樽に入った。


「いくぞい」


 カチャ!

 チュドオオオオオオオオオオオオオン!


 俺は空中に飛び上がり、そして古竜に向かって落ちていく。


 ヒューーーーン!


 古竜の顔に俺は飛び込んだ。


 ドッガアアアアアア!


「グオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!


 バキ!ボキ!


 古竜が右ストレートを放たれたようによろめき、俺はその数十倍も吹き飛び木々にぶつかって止まった。


「フェイス! 助けに来たぞ!」

「そっちの方が大丈夫か!!」

「大丈夫、じいの作ったバリアに守られてたから、はい、じいの回復ポーション」


「助かる」


 フェイスがポーションを飲み干すと体の傷が徐々に治っていく。

 フェイスが苦戦している。

 今回の戦いは俺が古竜を倒すパターンではない。


 才能の無い俺が古竜の目を引いて無茶をして攻撃を受ける。

 その隙にフェイスが古竜を倒す。

 変則的な逆転勝利だ。


「貴様ああ! 不意打ちとは卑怯だぞ!」


 古竜が起き上がり俺を睨んだ。


「俺はただ飛ばされてアイテムを届けに来ただけだ」

「……貴様、よく見ればそこまでの力を持っていないな?」

「その通りだ! 俺は無才だ! キリ!」


「よく分かった、時間稼ぎか、死ね」


 俺に向かって古竜が前足を叩きつけてきた。

 

 ギリギリで避けるが地面の砕けた岩と衝撃で吹き飛ぶ。


「ぐああああああああああああああああ!」

「運よく避けたか」

「はあ、はあ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ガキン! ガキンガキンガキン!


 俺の剣で古竜を突き刺すが鱗を通らず弾かれる。


「くはははははははは! なんだその攻撃は! かゆいだけではないか!」


 これでいい。


 ガキンガキンガキンガキンガキンガキン!


「目障りだ!」


 ブン!


 古竜の前足が横なぎに振られて俺は吹き飛んだ。

 そしてフェイスと古竜の戦いが再開される。


「無理をしてはいけない! 私が古竜を倒す!」

「バカを言うな、倒されるのは貴様だ」


 ドゴン!


 フェイスが古竜のブレス攻撃で吹き飛んだ。


 今だ。

 俺はよろけながら前に出た。


「ああ、そうだよ! 俺の攻撃は鱗を貫けない!」

「剣の才能もない」

「貴様は何の話をしている?」

「でもなあ、体は鍛えれば人並みに成長できる!」


「ああ、そうか、お前は自分がしぶといハエだと、そう言いたいわけか」

「俺はしぶとく生き残る! 俺は死なない!」

「自分がうるさく飛び回るハエだと学んだか、ではしねえええええ!」


 古竜の前足が俺を攻撃する。

 攻撃の瞬間にじい特性の爆弾を投げた。

 俺が吹き飛ばされると同時に古竜の目の前で爆弾が爆発した。


 チュドーン!


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 貴様ああああ!」

「げほ! げほ! は、ははははははは、俺が雑魚だからって侮ったな? だから爆弾を見逃したんだ」


「ハエらしく叩き潰してやろうと思ったが気が変わった。ブレスで確実に殺してやろう」


 ドラゴンの最強攻撃、ブレスが来る!

 キュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオ!


 今だ!

 ブレスを避けようとする、と見せかけて避けきれず腕に攻撃を受ける。

 そしてフィギュアスケート顔負けの高速スピンをしながら木に吹き飛ばされる。


 バキバキバキバキ!


 決まった!

 完璧に決まった!


「ぐはははははははは! 目障りなハエは最初からこうやって焼き殺しておけばよかったわ!! そう思わないか? 魔法剣士よ」

「はあ、はあ、ライを、殺したのか?」


「そうだ、次は貴様の番だ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 古竜とフェイスの戦いが再開された。

 ここからが逆転サポートのコア部分だ。

 ここまでぼこぼこにされた上での覚醒が最も盛り上がる。


 俺は起き上がってよろよろと古竜に近づく。

 うっすらと回復魔法をまとい、ぎこちなさを演出する。

 そう、わずかな覚醒、回復魔法を不器用に使って起き上がるムーブだ!


 アレ?

 俺に気づいていない?

 早く気づいてくれ、ボム。


 チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


「ぐわああああああああああああああああああああ! き、貴様ああああああ! なぜ生きている!」

「は、はははははははは、はははははははははは!!」


「俺はどうやら本当にしぶといらしい。追い詰められてやっと使えるようになった。回復魔法をな! キリ!」

「古竜! 相手は私だ!」


 ザシュ! ザンザンザン!


「ぐああああああああああああああああああああああ! ハエ、貴様は危険だ。今は弱い、だが必ず俺を殺しに来るだろう。ここで逃すわけにはいかん!」


 いい!

 最高の言葉だ!

 俺がやりたかった舞台を表現してくれている!


 俺にブレスが放たれて俺はまた吹き飛んだ。


「ライいいいいいいいいいいいいい!!」

「くはははははははははははははは! 流石に死んだだろう!」


 俺はむくりと起き上がった。


「はあ、はあ、どうした? もう終わりか?」

「おかしい! 流石におかしい! なぜ死なない! なぜ立ち上がる!」


 まずい、この流れはまずい。

 俺が強いみたいになるのはまずい。


「はあ、はあ、お前のブレスは、弱くなっている! フェイスを攻撃した時の攻撃力はもうお前に無いんだよ! 余裕がないんだろう!? 俺に全力でブレスを撃てなかったんだろう!?」

「そ、そんなはずは!」


「無意識に俺を雑魚だと侮った! フェイスが目の前にいてお前は余裕がないんだ! お前はフェイスに追い詰められている!」

「ライ、君のバトンは受け取った! 後は私が倒そう!」


 俺は木にもたれかかりながらフェイスが古竜を倒すさまを見ていた。


 フェイスが古竜の剣を剣で3回斬りつけて眉間に剣を突き刺すとドスンと倒れて魔石に変わった。


「はあ、はあ、ライ、無事か?」

「はあ、はあ、流石、フェイスだ、俺も、フェイスみたいに、強く、なれるかな?」


 フェイスは手を顔に当てて泣き出した。


 そして言った。


「ああ、なれる、なれるんだ」


 フェイスは自分に言い聞かせるように言った。


 最高だ。

 

 完璧な舞台だった。

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