第22話

 砦にじいと兵士が補給物資を届けてじいのゴーレムが砦の周囲を探索し始めた。

 俺達は砦で休む。

 俺は才能が無いキャラなので疲れて眠らなければ話がおかしくなる。

 俺は大部屋ですぐに目を閉じた。


 今回の合同演習はモンスターと戦うより指示に従い速やかに動く事が目的だ。

 学園1年でしかも1回目の演習はこんなものだ。


 じいとフェイス、そして兵士と先生達が輪になって話を始める。

 部屋の隅にある暖炉がパチンパチンと良い音を鳴らす。

 エムル、お前は早く寝ろ!

 何も言うなよ!


 エムルのあの体力は何なんだ!

 錬金術師なら体力が無いのが普通だろうが!

 俺は監視の意味もあり聞き耳を立てた。


「ワシのゴーレムが周囲を探索しておる。今はゆっくりするんじゃ」

「助かります」

「孫が、嫌な質問をしてしまったのう」


「……いえ」

「ワシも同じような事を聞かれた。昔の事じゃがのう」

「良ければ、話してくれませんか? ライの昔話を」


「聞いてくれるか、やはりフェイスは人格者じゃのう。わしはのう、元々ライにゼロの紋章を張り付ける気は無かった」


 パチン! パチパチン!

 暖炉から火花がはじける音が響き辺りが静まる。


「ライには、戦いの才能が無かった。じゃが、頭は良かった。ライは自分に才能がない事に気づいておった。ワシにゼロの紋章を張り付けるように何度もせがんだ。きっと、普通に訓練を重ねても強くなれんと分かっとったんじゃろうな」


「ワシは困り果てて紋章を張り付ける様子を見せる事にした。大人が痛みで暴れ回る様子を見せればライは諦める。そう思っておった。苦痛でもがき苦しむ様を見てそれでもゼロの紋章を付けると、目をキラキラと輝かせながら言ったんじゃ。ワシはそこで考えた。何度言っても聞かん。ならば張り付けて痛みを受けて貰い懲りて貰えばいい、そう思ったんじゃ」


「じゃがワシの予想は外れた。ライはゼロの紋章を、通常の紋章よりもはるかに苦痛の大きいゼロの紋章に耐えたんじゃ。そして、赤ちゃんのような寝たきり状態に追い込んだ。何度も言ったが何度も大丈夫だと言いおったわい。ライの苦痛が収まりしばらくするとライはまた目をキラキラ輝かせながら言ったんじゃ。俺、強くなれるかな? とな、ワシは強くなれる、としか言えんかった」


 じいが涙声になっていく。

 いい演出だ。


「ゼロの紋章は無限の可能性を持つ、そう願ってそうなるように作った、じゃがライ以外の皆が脱落した。ゼロの紋章は成功例が無い。先が見えない中でライはどこまで強くなれるか分からんのじゃ。のう、フェイスよ、ワシはあの時、何と言えば、ライの問いに何と答えれば良かったのかのう? 今でも答えはでん、ワシにも未来はみえん。良かったのか悪かったのか、紋章を付けるべきではなかったのか、何も分からん」


 フェイスが手で目を抑え上を向いた。


「……分かりません。私もどうすればいいのか分かりません」

「ひ、ひ、ひひひ、ワシもおいぼれたのう、ライと同じでフェイスを困らせてしまったわい」

「いえ」


 最高の演出だ。

 じいの迫真の演技に痺れる。


 エムル、何も言うなよ!

 絶対に何も言うなよ!


 薄目を開けてエムルの方を見るとエムルが俺に振り返った。


 そして口角を釣り上げて笑顔を向ける。


 こわ!

 

 超怖い!


 その笑顔なんだ?


 エムルは何も言わずにその日を終えた。



【次の日】


 朝になると隣にエムルが寝ていた。


「うわあ!」


 エムルをベッドから蹴り飛ばした。


「びっくりした! なんでみんな教えてくれないんだ?」

「キリがないからだ」

「ええええ」


「フェイス、ライ、困った事になったのう」

「エムルは困る」

「そうじゃないわい!」

「どうしました?」

「なに?」


「ドラゴンがおる。みてみい」


 ゴーレムの映し出す映像が画面に現れた。


「じいのゴーレムで何とかならないのか?」


「ゴーレムは倒せるモンスターを夜通し倒しておる。今も交戦中で消耗しておる」


 ゴーレムじゃ無理だな。


「私が倒しに行こう」


 じいの示した方角に向かってフェイスが走った。


 判断が早いし行動も早い。


 じいの出した画面に皆が集まってくる。


 フェイスのあの速度、見た感じドラゴンをすぐに倒すだろう。


 もうドラゴンの目の前まで迫っている。


 フェイスがオーラと属性変換していない魔力を剣に込めてドラゴンを何度も斬る。

 翼が裂け、鱗がぱっくりと割れてドラゴンが血を流す。


『そこだああああああああ!』


 ザシュ!


 フェイスの両手剣がドラゴンの頭から突き刺さる。


『ギャアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 ドスンと轟音が響いてドラゴンが地面に倒れ、そして魔石に変わった。


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 歓声が巻き起こる。


 ばっさばっさばっさばっさ!

 まるでドラゴンのような翼の音が響いた。


「上に、まだいるのか」


 フェイスの前にさっき倒したドラゴンより大きい。


『小さきものよ、小さき竜を倒した程度でずに乗るなよ』


「ドラゴンがしゃべりおった! 古竜(エンシェントドラゴン)じゃ! まずいぞい!」


 フェイスと古竜が戦いフェイスが追い詰められていく。

 フェイスの副官が叫んだ。


「そんな! フェイス! フェイスううううううううう!」

「落ち着け!」

「まずい、まずいぞ!」


「ライ、来るんじゃ」


 じいが俺を引っ張った。

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