第21話

 同号訓練当日、4人で集合場所に集まると12人の兵士が並んで待っていた。


「引率のプリズンです」

「ライです」

「僕はエムルだよ」

「ヒーティアだよ、よろしくね♡」

「遅くなりました」


「いや、15分前、いい時間だ」


 イケメンが笑顔で言った。


「私の名前はフェイス・ロッドセイバーだ。今回この部隊の隊長を務めさせてもらう。


 天才来た。

 ダブルでイケメンで名家で竜殺しで仕事が出来るチートキャラ。

 天才と言えば無才の努力家を盛り上げる鉄板キャラだ。

 

「隊長、虫が付いていますよ」


 副官と思われる美人の女性がフェイスのネクタイを直すように前かがみになって虫を払う。

 副官は完璧に恋する乙女の顔だ。

 ますます最高だ。


 泥臭く努力する俺との対比にぴったりだ。


「後1人、アルクラ・サンダース卿がまだだから、注意事項の確認をする。スマホの持ち込みは禁止だ」


 フェイスがヒーティアを見た。


「それと部隊の連携を乱す不適切な行動も禁止だ」


 フェイスがエムルを見た。


「最期に、私の指示には従ってもらう」


 フェイスが俺を見た。


 あ、れえ?

 俺、エムルやヒーティアと同じポジションにいないか?


「ライ、どうした?」

「い、いえ、どうでもいい事なので」

「気になる事があれば言っていい」


「そのお、俺ってエムルと同じカテゴリーですか? あのエムルと?」

「はあ、はあ、そのさげすんだ目、最高だよ」


 やかましい!

 反応しちゃ駄目だ!

 こいつは反応するとコバンザメのようにまとわりついてくる。


「人は誰しも欠点を持っている。同じカテゴリーとかそういうのは考えていないよ」

「そ、そうですか」


 学園に入学してから思っていた。

 クラスのみんなが俺をエムルやヒーティアと同じカテゴリーに入れている。


 最初ちやほやされていたヒーティアは告白した男子生徒をすべて振っている。

 だが思わせぶりな態度で注意を引き付け続ける魔性の女だ。


 兵士のみんなにも同じ仲間とは思われたくはない。

 俺はエムルやヒーティアとは違う。


 プリズン先生が気になって視線を送った。


「大丈夫」


 先生が俺の肩に手を置くと不安が無くなっていく。

 フェイスの確認作業が終わると時間になってもじいが来ない。


「じいは、アルクラは時間に遅れるかもしれません。1時間は遅れても不思議じゃないです」


 ゴーレムの足音がした。


「待たせたのう!」


 じいがゴーレムを引き連れてやってきた。


「お菓子をたべるかの?」

「今は結構です」

「ライ、食わんか?」

「もらうよ」


「それとな、これを付けるんじゃ」

「首輪?」

「そうじゃ、ライ、お前はまだ力不足じゃ、遭難してもいいようにこの首輪をつけて置くんじゃ」

「分かった」


 じいのナイスプレーだ。

 これで俺の弱さが引き立つ。

 出来れば弱いモンスターに苦戦して逆転勝利をしたい所だけど、フェイスがいるし兵士は皆鍛えられている。


 うまく兵士のモンスター狩りを突破して弱いモンスターに苦戦して覚醒勝利する。

 かといって観客は必要、中々難易度が高い。

 今回は無理をせず、正体を隠す事を優先すべきか。

 俺の動きや魔力の流れなんかで強さがバレる可能性がある。


 モンスター狩りの合同演習はキャンプ有りだ。

 3泊してモンスターを狩って戻ってくる。

 ルートは砦に行って戻ってくる感じになる。


 移動しながらゴーレムの背中に乗るじいと話をする。


「今回じいは何をしに来たの?」

「ロケットパンチを試したくてのう」

「えええ! まさかドリルを手に変えられたりする!?」


「それは無理じゃな、じゃがパンチが飛んで腕に戻るんじゃ」

「おおおお!」


「モンスターが現れました! ゴブリン32体です!」

「ワシのゴーレムにやらせてくれんかのう?」

「分かりました。ですが危ないと思えばすぐに攻撃を開始します」

「うむ、出てきおったぞい、いくんじゃああ!!!」


 ゴーレムの集団が両手のドリルを前にかざした。


「ロケットパーンチ!」


 キュイイイイイイイイイン!

 ドドドドドドドドドドドドドドドドン!

 グッシャアア!

 グシャグシャグシャシャアアアア!


 飛んだドリルがゴブリンを潰す。

 なんだろう? アリをゾウの足で踏み潰すみたいな感じだ。

 ゴブリンがミンチになって魔石に変わるがその魔石まで壊したりしている。

 オーバーキルが過ぎる。


 シュウウウウウウウウン!

 ガキョン!


 飛んだドリルがゴーレムの腕に戻ってドッキングに成功した。


「やったぞい! 腕が戻ったわい!」

「おおおおお! 本当に完成させた! すげえええええ!!」

「次のモンスターはいないのかの?」


「この地帯にモンスターは少ないです。急いで砦に向かいましょう」

「ほれ、走って進まんかい!」


 じいは自分がゴーレムに乗り座りつつ走るみんなを急かす。

 熱中するとじいはこうなる。


「じい、急かすのはやめよう」

「次はロケットドリルではなく、真のロケットパンチを作りたいのう」


 じいはすでに次の事を考えていた。


 俺は走りながらフェイスの横を走る。


「フェイスって、若いのに強いんだよね?」

「私はまだまだだ」

「そんな事無いよ、俺も頑張れば、フェイスや父さんみたいに、強くなれるかな?」


 フェイスの顔が一瞬だけ曇った。

 

「ライがどこまで強くなれるかは分からない、でも、努力で伸びるうちは前に進めるはずだ」

「うん、俺も、そう思う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「……」


 フェイスは俺の才能がない噂を知っている。


 でも人がどこまで伸びるかなんて分からない、人は予言者じゃないんだ。


 傷つけないように、


 それでいて嘘をつかずに俺の質問に答えた。


 フェイスと話して分かった。

 フェイスは人格者だ。



 ペースを速めて先に進み、モンスターが出て来てもじいのゴーレムと兵士が速攻でモンスターを倒す為俺は逆転勝利を出来ないまま砦にたどり着いた。

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