第13話

 最初は学科試験か。

 だが様子がおかしい。

 じいが前に出てきた。


「今回は皆に配ったたぶれっとを使って試験を受けて貰うぞい」


 ざわざわざわざわ!

 この世界にはたまに異世界の人間が迷い込む。

 どうやら元俺がいた世界のタブレットを再現した事でみんなが動揺しているようだがじいは構わず話を進める。


「試験は選択方式で学園生の指導を改善するためにびっぐでーたにデータをストックしておる。更に学科試験の結果は終了と同時に分かるぞい。更に解析したデータは民の全員が見られるようにネットで公開する予定じゃ」


 じい、この世界では言っている事がなかなか理解されないだろう。

 1度に色々詰め込み過ぎだ。

 横に立つ教師が咳ばらいをして言った。


「難しい事は考えなくていい。画面に出てくる問題から正しいと思える答えを選ぶだけでいい。落ち着いて試験を受けて欲しい。それでは試験を始めてくれ」


 俺は本気で試験を受けた。

 試験の点は良くして置いて「お前才能がないから勉強しかやることが無いんだろ! はははははは」と言われて揉めるムーブを期待する。


 試験が終わるとすぐにタブレットに成績が表示された。

 横を見ると間違った問題の模範解答が生徒が見つめて悔しそうにつぶやく。


「ああ、ここは、ミスった」

「あまりいい点じゃなかったわ」

「おい、次に行くと順位が出ているぞ!」


 学園入学試験・学科順位


 1位 エムル 500点満点

 同1位 ライ・サンダース 500点満点

 3位 ……


「おおお! 西のエムルとサンダース家が同率1位か!」

「凄いわ、満点なんて!」

「わあ、ライ君かっこいい」

「俺なんて最期まで解けなかった」


 学科はそこまで重要じゃない。

 問題は次の実技だ。

 錬金の紋章を付けた者は生産能力を見て魔の紋章の回復が得意なら回復が出来ればほぼ合格。

 それ以外は戦いで試験を行う。


 学科が悪くても紋章を付けていて実技が良ければ受かる。

 それが学園の入学試験だ。


 ヒーティアと目が合うと笑顔を浮かべているが目が怖い。

 目立てないのが嫌なんだろうな。

 

 男の先生から女性の先生に交代する。


「初めまして、私はこの学園の学科と実技の講師をしています。プリズンです。よろしくお願いします」


 プリズンは黒い軍服(学園の先生は兵士でもある)を着ており太ももまで張り付くように覆う服がスタイルの良さを際立たせていた。

 胸まで伸びるブラウンの髪と優しく微笑む笑顔、そして優しそうな話し方で目を奪われた。

 腰から下まで左右に入ったスリットから覗かせる太ももにも魅力がある。

 胸に着いた新人しか付けないバッチを見ると新人教師である事が分かる、多分18才だろう。


 保母さんみたいな雰囲気の新人女教師、いいな。


 優しそうでまともそうなのがいい。


 それに比べてエムルは……


 エムルを見るときれいな笑顔で返すが奴の内面が分かってからその笑顔が怖い。


 ヒーティアはプリズンに対抗意識を燃やしているのか機嫌が悪そうだ、普通にしてればもっとモテるのに残念だな。

 面倒そうなヒーティアには関わらないようにしよう。


「ライ君、ライ君!」

「は、はい!」


 プリズンに話しかけられて現実に引き戻された。


「アルクラさんが呼んでいました。これが終わった後すぐに応接室に向かってください」

「分かりました」


 なん、だ?

 呼ばれるような事は何もしていないはずだ。


 俺は学科試験の後じいの所に歩いた。


「エムル、何でついてくる?」

「ふふふふ、その射殺すような目、最高だよ。またライの本当の姿を知れた気がするね、はあ、はあ」


 こいつ、質問に答えねえ!


 目を光らせて俺を分析するな!


 ついてくるな!

 

 じいのいる応接室の前には兵士がいた。


「兵士さん、じいに呼ばれましたが不審者が付いてきます。取り押さえてください」

「西の厄災、了解した」

「西のエムル! 勝手は許さんぞ!」


 エムルは両腕を掴まれるがそれでもついて来ようとする。


「抵抗するな!」


 エムルは投げ飛ばされて拘束され、そして連れて行かれた。


「あいつ、抵抗しないのな」


 むしろ楽しそうだった為、兵士に舐めていると思われて結構きつめに拘束されていた。

 ここでもドMプレーを引き出すのか。


 応接室に入るとじいが笑った。


「食事じゃ」


 2人で食事を食べながら会話をする。


「それで、何かあったの?」

「うむ、母さんに言われておることがあっての」


 じいがスプーンを置いた。


「好みのおなごはいたかの?」

「は?」

「結婚相手が気になるようでの」


「母さんは、そうだね」

「で?」


 じいがにやにやしながら言った。

 

「一番いいと思ったのはプリズン先生だね」

「……プリズンか、あの」

「じいは知ってるの?」


「……うーむ、一応はの……優秀な魔法使いじゃよ」

「柔らかい雰囲気で、なんかよかった。母さんへの連絡はこれでいい?」

「うむ……もう大丈夫じゃ」


 じいの様子がおかしい気がしたけど気のせいだ。

 恐らく、連絡が無ければ母さんは学園に来るだろう。

 そういうのは恥ずかしいからやめてほしい。


「それよりも今日の試験は大丈夫かな?」

「うむ、ライの試験は一番最後に回しておる。ゴブリンと戦いケガをした事で自然と最後の順番にする事が出来たでの」


「ついに今まで準備してきた舞台を始める事が出来る」

「うむ、ワシもあの言葉をまた言う時が来たようじゃのう、ひっひっひ」


 俺は確信した。

 この試験で逆転勝利の舞台をお披露目できる。


 うまくいくに決まっている。

  

 ふと窓を見た。

 エムルが素巻にされて外に放置されている。

 

 エムル、あいつが邪魔だな。

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