第12話
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
キキキキイイイイイイ!
俺達はバイクで学園に到着した。
学園にいる多くの人が俺達を見ている。
もう1人注目を集める者がいた。
俺と同じで学園の試験を受けるヒーティアが配信をしている。
じいが再現したスマホがこの世界を変えた。
今では配信による広告収入で金貨を稼ぐ者も増えているのだ。
「ヒーティアびっくりしちゃった♡ 王様とアルクラさんが来ちゃったけど配信を続けていくね」
スマホから声が出る。
『ヒーちゃん、エムルがいるぞ。西のエムルだ』
「うん、そうだね。でも私の配信も楽しんでね♡」
『暴走バイクの兵士にインタビューしようぜ』
「お仕事中に声をかけちゃ悪いから、それよりもヒーティアの配信を見てね」
『アルクラに最新ゴーレムのインタビューをしよう』
『ゼロの紋章を付けた無才のライもいるぞ』
素晴らしいコメントだ。
いい、無才のゼロと呼んでくれても構わない。
『あいつ何でボロボロなんだろうな? 気にならね?』
『服に血が付いてるんだけどどういうこと?』
「そっかー、じゃあ、聞いてみるね」
ヒーティアが近づいてくる。
桃色の長い髪を揺らしてモデルのように洗練された足取りで歩いてくる。
女性的な体の曲線が美しい。
だが、笑っているんだけど目が怒っている。
自分が注目されないのが嫌なんだろうな。
考えて見れば配信中に爆走バイクで入ってくる王と兵士、そして天才錬金術師のじいと西の厄災と言われたエムルまでいる。
良くも悪くも目立つよな。
俺はすっと後ろに下がろうとすると声をかけられた。
「ライ君、今いいかな?」
「いえ、王のご公務があるのでそういうのは困ります」
「はっはっはっは、私は構わない」
ち!
王め、何か面白い事が起きる事を期待したような目をしている。
「ライ君、初対面だけど私の事を知ってる?」
ヒーティアの目が怖い。
怒るな怒るな、注目を集めたのは俺のせいじゃない。
「ええ、ヒーティアさん、ですよね? 配信者として有名ですよ」
「え? そう、やっぱり!」
ヒーティアの機嫌がよくなった。
「それでどうしてそんなにボロボロなの?」
「ゴブリン9体と戦って死にかけました」
『ゴブリンと戦って死にかけるっておかしくね? ゴブリンは雑魚だろ』
『9体に囲まれたら危ないで。と言うか紋章無しなら普通に死ぬ』
『でも紋章ありだろ?』
『紋章の苦痛に耐えられたなら全員エリートだぞ?』
『本人は無才だと公言している。それにライが張り付けている紋章はゼロの紋章でよく分かっていない。装着し続けられたのは1人しかいないからな。サンプル不足なんだ』
『サンプル枠なら入学確定じゃね?』
『サンプルでエリートの学園に入学できるのはうらやましいな』
『ゼロの紋章は通常の紋章より苦痛が大きくて禁止魔法に指定されている。オープンソース化されて紋章はネット公開されているから自己責任で死んでもいい覚悟があるなら貼り付けたら? 精神崩壊しても自己責任な、だって禁止魔法だから』
コメント内で喧嘩が始まりヒーティアが仲裁する。
喧嘩が落ち着くと王が話しかけてきた。
「ライ、いつも通りに素で話をしていいんだぞ?」
王が冷やかしてくる。
「うん、普通に話していいよ」
ヒーティアの機嫌がまた悪くなった。
自分に注目が向かないからか。
でも、目的が分かりやすいタイプはやりやすい。
「それよりもヒーティアの服はおしゃれだな」
ヒーティアは学園用の制服を着用していた。
だが丈を短めにして胸元を強調し、体のラインが浮き出るように改造されていた。
「やっぱり!」
スマホを俺に持たせてカメラ役をやらせる。
そしてくるっと一回転するとスカートがふわっと舞い上がった。
パンツが見えそうで見えない。
回転を止めてカメラ目線でウインクをしながら手を顔に当てる。
今がいいタイミングだ。
「はい、いい回転だった。ありがとう」
俺はスマホを返して手を振る。
そしてすっとその場を離れていく。
失敗した。
最初は地味に学園試験が始まってそこから見せ場を作る計画だったがうまくいかないな。
そしてエムルは当然のように俺についてくる。
俺のナチュラルフェイドアウトが効かないだと!
エムルは口角を釣り上げて俺を見つめていた。
【エムル視点】
ああ、だんだん見えてきた。
ライの事が分かる。
人の心理を勉強しておいて良かった。
ライを怒らせて今果実を食べるのもいい。
でももっと熟成させてライを激怒させて至高のお仕置きを受ける未来を掴もう。
今ドMプレーが欲しいけどそれは我慢我慢。
長期視点で持続可能なドMプレーを受け取る為にどうするべきか?
そう、分析だ。
今80%の確率を100%には出来ない。
でも、時間をかければかけるほど80%を85%に、そして90%を超えるように持って行く事なら出来るはずだ。
ライの強い力で強引に両手を掴まれて拘束されるイメージを思い浮かべた。
ゾクゾクゾクゾク!
もっとだ、この欲しくても手に入らない感覚もドMの快楽に変えてチャンスを伺おう。
【ヒーティア視点】
私の配信は順調だった。
配信を見るみんなが私を見ている。
それが気持ちいい。
でもバイクの轟音と共に私への興味がライに変わった。
なんであんなに目立っているのよ!
なんで最初からボロボロで血を流しているのよ!
なんでアルクラとエムルと一緒にバイクに乗っているのよ!
あんなの卑怯よ!
せっかく学園に入学してもいないのに制服を揃えて改造してどうすれば注目が集まるかこの日の為に考え抜いてきたのに!
……気持ちを切り替えよう。
入学試験で皆の心を奪うのは私だ。
ライじゃない。
ライは厄介な2人に目を付けられた。
学園の入学試験が始まる。
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