第10話
学園は街はずれにある。
魔法をぶっ放したり斬撃を放ったり、爆弾の実験をしたりと騒音被害やモンスターとの訓練を考えると街はずれが最適なのだ。
それにしてもエムルが俺に密着するように抱きついてくる。
服越しでもエムルんぬくもりが伝わってくる。
俺は感知能力も鍛えているのでエムルのスタイルの良さは大体わかる。
でだ、モンスターの気配がする。
でも俺が言うのは自分に能力がある感じになってしまうので言いたくない。
森の茂みにゴブリンがいるんだ。
早く誰か気づいてくれ。
スカウトの兵士、そろそろ気づけって。
「王よ、モンスターん気配があります! お気を付けください」
やっと気づいたか。
9体のゴブリンが現れた。
「モンスターは俺が倒す!」
俺は前に出た。
兵士に止められたけど王が「じゃあ頼むわ」と言って俺が戦う事になった。
今から苦戦して何とか倒す部隊が始まる。
俺がバイクから降りるとエムルが話しかけてきた。
「ライ、君はどうして戦うのかな?」
ナイスアシストだ。
「俺は才能がない、そんな俺でもじいのゼロの紋章があれば立派に戦えるって証明したいんだ! キリ!」
兵士がざわつく。
「お、おい、ゼロの紋章って出来損ないのあれだよな?」
「あ、ああ、禁止魔法に指定されている。ほとんどの人間が装着の痛みに耐えられず、痛みが引いても今度は寝たきりから再スタートらしい、他の紋章のように特定の能力をサポートして成長を助ける感覚も無いみたいだぜ」
「危なくね?」
「でも、王様が言ってるんだ。見ていて危なくなったら助けるしかないだろ?」
最高だ。
最初は頼りない俺がゴブリンにすら苦戦する、そして「しょうがない、助けに行くか」となった頃合いで俺のプチ覚醒が始まり感動の勝利を演出する。
だがエムルの笑顔に邪悪な何かを感じるのは気のせいだろうか?
それと王様がにやにやし過ぎなんだよなあ。
だがここで今までの特訓。
その集大成を見せる時だ。
俺はじいとアイコンタクトをして2人こくりとうなずいた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は大げさに叫んでゴブリン1体に斬りこんだ。
そして1体を倒す。
ゴブリンが魔石に変わって霧のように消えた。
ゴブリンは兵士なら誰でも簡単に倒せるモンスターだ。
だが学園に入る前の俺は1体を倒している内にゴブリンに包囲させる。
そして適度に包囲された所で包囲を突破するように1人に斬りかかる。
そして自然と自分の死角にゴブリンを誘い込んで斬りかからせる。
「危ない! 回り込まれているぞ!」
「え?」
兵士の言葉に驚くように反応してゴブリンの短剣が俺の背中を斬りつけた。
ナイスだ。
「ぐああああああ! 斬られたあああああ!」
俺の悲鳴で兵士が前に出ようとした。
「待て! ライにやらせろ。ライの目はまだ死んではいない」
「しかし王!」
「もう少し待て」
俺は何度も攻撃を受け、そして何度も地面を転がりながらゴブリンを残り3体になるまで倒した。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
場の空気が変わる。
王に抗議していた兵士は次第に俺を応援し始めた。
「あああ、あと3体、だ!」
「無茶だ! 攻撃を受けすぎている! いつ倒れてもおかしくないぞ!」
「だが、引き付ける何かがある、応援したくなる何かが彼にはある」
「あれだけ傷を受けて諦めない意思、彼が天才ならばどんなに良かった事か」
「なんでだ? 無才の彼に、俺は鳥肌が立っている!」
俺とじいは何度も練習してきた。
この時の為に!
じいが前に出て叫んだ。
「ライ! お前は何度もゴーレムに殴られて頑張って来たんじゃろうが! 後3体じゃ! 頑張って倒すんじゃああああああああああ!」
じいが泣きながら叫んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ザン!
「ぐぎゃあああああ!」
1体を倒すと残ったゴブリン2体が俺を攻撃した。
「があああああああ!」
「ああああ! 腕に攻撃を受けて! もう無理だ、助けに入ります」
「待て! まだだ!」
「これ以上戦えば命にかかわります!」
「まだだ!」
俺は片膝を地面についた。
左手はだらんと地面に垂れる。
そして右手で剣を杖にするようにして何とか立ち上がろうとする。
「立つんじゃああ! 立つんじゃあああ! らああああああああああああああああああああああああああああああああああい!」
じいが泣きながら叫んだ。
ここまでの流れは完璧だ。
1体のゴブリンが飛び掛かってくる。
その瞬間に俺はナイフを取り出して片手でゴブリンを倒すが勢いに押されて突き飛ばされたようによろめいた。
最後のゴブリンが短剣を突き立てるように飛び込んできた。
ガキン!
ガキン!
ガキン!
何度もナイフと大剣で火花が散って俺は攻撃を受ける度によろめく。
兵士のみんなが俺を応援する。
歓声が増す。
「ふー! ふー! ふー! 俺は、才能がない。分かってるんだ。でもなあ、じいの付けてくれたこのゼロの紋章を俺は誰よりも信じている」
ガキン!
ガキン!
ガキン!
「俺と違ってじいは天才だ。才能の無い俺は、ここまでしなきゃ前に進めない!」
ガキン!
ガキン!
ガキン!
残ったゴブリンと打ち合い徐々に押していく。
「はあ、はあ、並の才能があればゴブリンなんて簡単に倒せるんだろ? ここで立ち止まるわけには、行かないんだああああああああああああああああ。うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ガキン!
ガキン!
ガキン!
ガキン!
ガキン!
ガキン!
ゴブリンが短剣を落とすと俺もすかさずナイフを落とした。
そしてゴブリンと取っ組み合いになり殴り合う。
ゴブリンの蹴りを受けてそれでも不器用に見せる演出で右の拳を叩きつける。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ゴス!ゴス!ゴス!ゴス!
ゴブリンが魔石に変わると俺は地面に倒れ込んだ。
兵士をちらっと見ると目じりに涙を浮かべている。
じいが泣きながら俺に抱き着くと舞台は最高潮に達した。
「よくやった! 本当によく頑張ったよ」
「君は絶対に強くなる!」
「涙が出てくる、俺も、もっと頑張ろう」
俺が無才である噂は最高のスパイスになった。
ゴブリンでも逆転勝利で感動できる。
苦戦して、そこからのプチ覚醒によるギリギリの勝利、
苦戦の上で頑張って倒した感があれば人の心を揺さぶる。
観客は1人だけでもいい。
泥にまみれてもいい。
最高の舞台だった。
だが、俺を見るエムルの目が赤く光り、何故か寒気がした。
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