第9話

【エムル視点】


 僕は周りとは違っていた。


 みんなは怒られる事がいやで僕は怒られるのが好きだった。


 みんなはお仕置きを受けるのが嫌で僕はそれが好きだった。


 みんなは人を怒らせないようにしていたけど僕は人を怒らせることに何の抵抗も無かった。


 そして親に愛想をつかされた。


『エムルは人を怒らせてばかりだ』


『エムル! 人の迷惑になる事はやめなさい!』


『もう手に負えない』


『エムルに言っても無駄でしょ?』


 学校の先生にも言われた。


『お前は頭がいいんだから人の役に立つことをしなさい! 人を怒らせるのはやめなさい!』


『またエムルか! 怒られてにやにやするな!』


 学校の生徒にも言われた。


『お前見た目は良いのにやってることはゴミだよな』


『あーあ、エムルの性格がまともならなあ』


『うわあ! 西の厄災が来たああ!』


 僕は周りとは違っていた。


 そんなある日、僕と同じ年齢の子供がゼロの紋章を張り付けて苦痛に耐えた噂を聞いた。

 同じドMなら僕の事が分かるだろう。

 僕は親に紋章をねだり怒られた。

 仕方がないので1人で紋章の貼り付け所に行き紋章を張り付けて貰おうとして追い出された。


 それでもあきらめなかった。

 紋章を張り付けて貰い痛みを貰う、最高だ。

 ドMの僕なら耐えられるはずだ。


 僕は諦めず毎日貼り付け所に紋章の貼り付け所に通った、そんなる日。


「帰れ! エムル帰れ!」

「はあ、はあ、紋章」


 突き飛ばされながら笑顔を浮かべて言った。


「うわ! 気持ちわる!」

「どうしたんじゃ?」

「アルクラ様、実は……」


 背の小さい老人が丁寧に話を聞いていた。



「ふむふむ、そうか、うむ、よかろう、痛みを知れば懲りるじゃろう」

「しかしエムルはまだ10歳の子供です」

「じゃがワシの孫は5才でゼロの紋章を張り付けた。それに駄目なら懲りる。どっちでもいいんじゃよ」


 僕は適性検査を受けて錬金の紋章を手の甲に張り付けて貰った。

 ゾクゾクゾクゾク!


 ああ、痛みがやってくる。


 この切ない思い。


 この苦痛。


 気持ちいい。

 

 朦朧とする意識の中で紋章を剥がすか聞かれた。

 紋章の貼り付けは拷問にも使われる。

 それでも気持ちいいこの想いを無しになんてできない。

 僕は首を横に振り続けて気を失っていた。



 ◇



 親から愛想をつかされていた僕は無償の寮に入った。

 学校を飛び級で卒業して家を出た。

 住み込みで働く錬金術士の見習いになった。

 国の錬金術師は指導が厳しく最高の体験をする事が出来た。


 でも慣れてくる。


 もっとだ。


 もっともっともっと、圧倒的な力でねじ伏せられたい。


 運命の人に手足を強引に掴まれて色んなお仕置きを受けたい。


 僕は女を磨いた。


 強い男を引き寄せる魅力が無ければ男は寄ってこない。


 笑顔も、服装もすべて研究に研究を重ねて15才になった。


 自分の力を抑える拘束具を両手両足に取り付けて自分を追い詰めるごっこ遊びにも飽きていた。


 国の錬金術師から「もう出て行ってくれ、戻ってくるな」と言われて学園の試験を受ける事になった。


 そして見つけた。


 ライ・サンダース侯爵子息。


 ずっと探していた強者。


 5才でゼロの紋章を張り付け耐え抜いた男。


 バイクの後ろ祈ってボディチェックをして筋肉の発達を確認した。


 本物だ。


 学園の試験を受けるまでの間色々と情報を聞き出した。


 ライの態度・言葉・動き、すべてを分析して答えを導きだした。


 ライは『自分が弱いと思われたがっている』何かの目的の為に。


 やる事は絞られてきた。


 ライの希望を知る。


 そして僕を無視できないような何かを掴み取る。


 ああ、ライ、楽しみだよ、


 僕を奴隷にしてくれる運命の人をついに見つけたんだから。


 ライ、君はドMじゃなかった。


 ドSの目。


 SとMは惹かれあう運命なんだ。


 僕とライはSとMで結ばれる運命だったんだ。

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