第8話

【王視点】

 文官がスケジュールを読み上げる。


「今日のスケジュールは会議の後午前中はすべて学園入学試験の視察、その後は」

「ん、今日が学園入学試験の視察か」

「はい」


「ゼロの紋章も入学は出来るよな? 間違いはないか確認はしてあるか?」

「はい、ゼロの紋章はこの世界に1人しかいない貴重なサンプルです。仮に試験結果が悪くともよっぽどのことが無ければ入学する事になります」


 学園の入学資格、その中で半分以上の得点を占めるのが紋章の装着者である事だ。

 紋章の苦痛に耐えられない人間は学園に入学できない。

 貴族の中には子供を鎖に縛り付けて強引に紋章を取り付けて泣き叫んでも助けずに紋章が定着するまで監禁を続ける親もいる。


 それにより心が壊れる子供も出てくる為、紋章を取り付ける前に苦しい訓練を課して痛みに慣れさせるのが通例だ。

 それでもなお脱落者が出る為兵士になれる人材は貴重でハーレム婚も可能だ。

 紋章の貼り付けは国の補助により無料で行える。


「……ライか」

「王は何度もお会いしていましたね? 無才にもかかわらず努力を続けているのだとか。もっとも努力を出来る時点で天才とも言えるでしょう」


「……うむ、天才錬金術師アルクラの孫にして雷滅のアルトの息子。通常の紋章を遥かに超える苦痛を耐え、寝たきり状態から這い上がったライ・サンダースか」

「何か気になる事でもあるのですか?」


「どうした?」

「王の言葉がわざとらしいので」

「お前、王に向かって何を言う」

「王を正しき道に導くのが私の務めです」


 こいつめんどくさいな。

 どうでもいい細かい公務はもういい。


「会議は中止(会議をやりたくない)だ。ライを迎えに行く(外に出たい)」

「王自らですか!?」

「王自らだ」


「し、しかし今日はただの入学試験です」

「入学式よりも試験の方が大事だと考えている。未来を担う兵士は国防の要だ」

「ごくり、ぜ、ゼロの紋章に、いったい何があるというのですか!?」


「ゼロの紋章だけではない。試験を全部見たいのだ」


 俺は護衛の兵士を連れてライの家に向かった。



「ええ、まだ試験まで3時間以上余裕があるんだけど?」


 家に着くとライが不服そうな顔で俺を見た。


「ははははは、早く行くぞ」

「またサボって」


 ガシ!

 俺はライの口を塞いだ。


「おっと、その発言は不謹慎だ」

「あ、母さんが一緒にご飯を食べて行こうだって。それと兵士のみんなにサンドイッチとスープを作るって」


 食事を終わらせてバイクで学園に向かう。

 だが何故かアルクラもついてきた。


「アルクラ、何でいる?」

「孫の試験じゃ、それに学園の試験で戦うゴーレムはワシが作ったからのう」


 その瞬間にアルクラとライが笑った。

 俺はピーンときた。

 こいつら、なにか仕込んでいるな。

 

「あれ? 道に人が倒れている!」


 ライがバイクを止めて少女に駆け寄った。


「うう、ここ、は?」

「大丈夫か?」


 ライが少女を起こすと俺は口角を釣り上げた。


 瞳は常にサーチ魔法をかけ続けている為赤く光っている。


 紫色の髪でショートカット。


 両手足に腕輪を付けて能力を封印しているその姿。


 間違いない。


 学園入学の要注意人物。


 エムルだ。


「はあ、はあ、僕は、ああ、修行の為に力を封印して歩いていたら立ち眩みがして倒れたんだね。はあ、はあ」

「無理はしない方がいい」


「君の名前は?」

「俺はライ・サンダースだ」

「あの名門の」


「そう、名門の中で唯一の落ちこぼれ、無才のライ・サンダースだ」


 ライはまた嘘をついた。

 逆転勝利を狙う種を蒔いてやがる。


「……そう、無才なんだね」


 エムルが口角を釣り上げた。

 気づいた、エムルは常にサーチの魔法を使い続けている。

 そして能力は高い。

 

「ああ、おかしいだろ? 名家に生まれながら無才で一切芽が出ていない。それでも努力を続ければ、ゼロの紋章で努力を続ければ強くなれるって証明したいんだ! キリ!」


 ライは能力がバレた事に気づいていない。

 うまくいったと勘違いしてやがる。

 ライ、アルトの雷魔法と回復魔法以外も学んでおくべきだったな。

 オーラ系の感知では半分しか見切る事が出来ない。


 エムルのサーチは強力らしい。

 なんせずっと目を光らせる変人だ。

 俺の勘が告げる。

 絶対に何かが起きる。


「王様、何で笑ってんの?」

「美少女を助ける微笑ましい光景だと思ってな。恋の花が咲くかもしれないだろう?」

「はっはっは、まだ学園に入学すらしていないのに恋とか、王様は冗談がうまいなあ。ははははははは」


「ははははは、何も気づいていないのはある意味幸せかもしれないな。今だけは幸せだろう。はははははははは!」

「ライ、僕をバイクに乗せてくれないかな?」

「いいぞ」


 エムルがライの背中に抱き着いた。

 そしてライの体を触る。

 起用にライの体をまさぐる。


「ちょ、そういう冗談は危ない」

「ごめんごめん、たくさん鍛えているみたいだね」


 間違いない、エムルは気づいた。


 ドMのエムル、西の厄災、西のエムル、様々な呼び方で呼ばれてはいるがこいつはくせ者だ。


 ライはすでに目を付けられている。


 面白くなりそうだ。

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