第5話
【王(アシュライトラップ・ダブルフェイス)視点】
アルト(ライの父)の家じゃ人の目を気にせず素で接しているが今は王としてふるまっている。
今は会議中でライの父とじじいがよく視線を逸らしているのが面白い。
「王、何がおかしいのですか?」
文官の男が俺に鋭い視線を向けてくる。
こいつはキレ症で面倒だ。
怒ると持っている紙を投げつけてくる。
優秀ではあるんだが口やかましい。
「いや、何でもない。続けてくれ」
「はい、ゼロの紋章を今でもつけ続けているのはサンダース家当主アルト殿のご子息、たった1人となりました」
「アルト(ライの父)、ゼロの紋章についてどう思う?」
「あの紋章は人の事を考えられた作りではありません。条件付きで禁止魔法に認定すべきでしょう」
「アルクラ(じい)、作ったお前はどう思う?」
「ワシも同じ意見じゃ」
「だそうだ。私も同じ意見だ」
「はい、ではゼロの紋章を禁止魔法に指定します。理由は装着者の負荷が大きすぎる事、数年程度の訓練では芽が出ない事、でよろしいですね?」
「それでよい」
「所で、現在ただ一人になったゼロの紋章装着者についてはどうなさいます?」
「現状維持だ」
「現状維持です」
「そのままでええ」
俺とアルト、アルクラが一斉に言った。
「しかし、どうして1人だけゼロの紋章に耐えられたのでしょうか?」
「名家サンダース家の血とアルクラの教育がまともなわけが無いだろう」
ライのじじい(アルクラ)はこの国の錬金術師の中で最高の力を持っている。
特にゴーレム作りに関しては他国を圧倒し作業から兵力の増強、更には物流までも変え異世界のスマホまで魔法で再現してみせた。
だが一方で鉱山の山をたった1つの爆弾で更地にした事がある。
轟音と巨大なキノコ雲を見た時は焦ったが本人は『これで地下にある鉄鉱石が掘りやすくなったのう』とか言って笑ってやがった。
その後俺は内政で苦労したがじじいはけらけらと笑ってやがった。
さらに最近は四角くて硬いあの家を爆弾でぶち抜いた。
あの壁はじいの作った特別製だ、普通に破壊できる壁じゃねえ。
要するにだ、けらけらと笑っているあのじじいは頭のねじが吹っ飛んでいる。
じじいが何かやらかすたびに兵士が敵の襲撃と勘違いしたり、天変地異と勘違いする。
その度に民を落ち着かせるのに苦労したものだ。
今思い出すと腹が立って来た。
ライの親父(アルト)は今は丁寧な言葉で対応しているが俺が王になってからも親友でよくケンカをしている。
この前は盗賊のアジトを発見して人質がいないことが分かるとアジトに雷魔法を落として一瞬で片を付けていた。
アルト(ライの父)はアルクラ(じい)よりまともではあるがアルクラ(じい)が目立っているだけだ。
アルト(ライの父)も普通ではない。
やることが極端でしかも圧倒的な結果を出している。
要するに言いたいことは、ライはサンダース家の血を引いている。
ゼロの紋章を付けてケロッとしているあいつは異常値だ。
それ以上の理由はいらない。
「た、確かに、サンダース家の血と教育なら不可能を可能にしても不思議ではありません。もしアルト殿の子に才能があれば今頃アルクラ殿とアルト殿を超える逸材となっていたでしょう」
ライに才能がないはデマなんだよなあ。
ライはじじいが作った大型のゴーレムを素手で殴り倒せる。
剣の紋章も、魔の紋章も、速の紋章も、錬金の紋章も全部兼ねていてすべての能力を使いこなす。
ゼロの紋章は最後まで鍛えれば最強と言えるだろう。
ゼロの紋章は通常の紋章を遥かに超える苦痛を耐えて更に寝たきり状態から10年、いや、ライは才能があるから普通の人間なら30年もすれば結果が出るか?
ゼロの紋章は明らかに実用性は無い。
ライ以外には使いこなせないだろう。
だがこれを言うと話がおかしくなる。
俺がライの秘密をばらすわけにはいかない……
言わないし逆転勝利に協力すると約束しちまったからな。
「もう、会議は終わりだ。アルト、ライは何才になった?」
「15です」
「そろそろ、様子を見に行ってみるか、じじい、最新のバイクを使わせてくれ」
「王、まだ政務は残っています」
文官が眉間にしわを寄せた。
「そんなに皺を寄せていたらふけるぞ」
笑いが起きると文官が周囲を睨みつけ笑い声が静まった。
「それよりも、ゼロの紋章をこの目で見たい。サンダース家なら何か光るものがあるかもしれない」
「ですが彼は無才です」
「おいおい、またアルトの前でそれを言うのか? 」
「それは……失礼しました」
「構いません」
アルトは目を逸らしながらぼそっと言った。
その瞬間に吹き出しそうになったが堪えた。
本当はライは天才だ。
なのに文官が謝ってるんだからな。
「何もせずにできる天才もいるが、努力を続けられる天才もいる。ゼロの紋章に10年耐えたライを見に行く」
「バイクに乗ってサボりたいだけでしょう」
俺は文官を無視してじじいと話をする。
うるさい、俺は風になるんだよ。
大体、本来は王なんてガラじゃねえ。
「アルクラ、バイクを出してくれ」
「ひっひっひ、物凄く速い最新型があるでの」
俺は口やかましく行ってくる文官を無視して城を出た。
ライの強さを俺がばらすわけにはいかない。
秘密にすると約束してしまったからな。
だが、俺以外の誰かがたまたまライの強さに気づいてバレる分には何の問題無いだろう。
俺自身は約束を守っている。
ライはそろそろ学園に入学する年か。
俺は何もしない。
だが学園の誰かがライの強さを見抜きばらされても俺のせいにはならない。
その時のライの顔を思い浮かべると顔が緩んでしまう。
アルトが素の話し方で声をかけてきた。
「ライで遊ぼうとしているな?」
「いや、俺は何もしないがライの強さはバレる。あいつはどうでもいい嘘をつくしあの設定には無理があるだろう」
「私もいずれバレるとは思っている。今までバレなかったのは家で訓練が出来たからだ」
「ああ、立ち入り禁止の地下室のおかげでバレなかっただけだ」
「アシュ、人をからかって遊ぶのは悪い癖だ」
「学園に通えば、くくくく、ぷくくくくくくくく、あの設定は無理があるだろ。くくくくくく、絶対にバレるぜ」
「まだライの強さがまだばれてもいないのにそこまで笑うか?」
「くくくくくくくく、あんなの無理だろ、俺には分かるんだよ」
「ほれ、いくでの」
「俺はこれにする」
アルトのバイクに跨った。
「それは私専用のバイクだ。壊すなよ」
「壊したらアルクラに直してもらう」
「ひっひっひ、もっと高性能にして直してやるわい」
「壊したらではなく壊さないと言ってくれ」
「おし! 行くぞ!」
「おい、話を聞け!」
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
アルトの声はバイクの轟音にかき消された。
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