第4話

 俺は寝たきり生活をしてから数か月で車いす生活に切り替わった。

 じいと一緒に街に遊びに行った。

 街を歩くとご婦人グループが話しかけてきた。

 俺とじいはレアキャラみたいな立ち位置らしい。

 一応侯爵家ではあるがそこはじいのキャラのおかげでみんなが気さくに話しかけてくる。

 

「ライ君、その車いすかっこいいわね」

「じいが作ってくれたゴーレムの車いすなんだ!」


 ご婦人が内輪で話し始めた。


「確かこの前も寝たきり生活に耐えられず1人ゼロの紋章を剝がした人がいるのよね?」

「そうみたいね、凄く苦しいのにそれが終われば今度は寝たきり生活よ。先が見えない中続けていくのは苦しいと思うわ」

「まあ、今ゼロの紋章を付けているのは何人なのかしら?」

「21人じゃな。すべての生活を保障して実験サンプルになって貰ってもそれでもどんどん脱落しておる」


 300人以上がセロの紋章を張り付けようとしたけど、痛みに耐えられるのは10人に1人だったらしい。

 しかも通常の紋章を付けて兵士として活躍している人がゼロの紋章に挑戦して今も脱落者が増え続けている。


「ライ君は大丈夫なの?」

「大丈夫、最初は寝たきりだったのが車いす生活になったから!」


 ご婦人が哀れんだ目で見た。

 この流れはチャンスだ!


「僕に才能が無くてもじいは凄いから! じいの作ったゼロの紋章は絶対に凄いから! キリ!」


 俺は子供っぽい言い方で自分の才能がない事をアピールしつつ努力キャラの種を蒔く。

 最初から強いキャラは駄目だ。

 不器用で中々芽が出ないキャラがいい。

 でも努力を続けて敵と戦い苦戦をして覚醒して勝利する、この流れの土台を作る!


 じいも俺の演出に乗る。


「孫はワシの紋章を、ゼロの紋章を信じておる。ライが目をキラキラさせながら聞いてくるんじゃ。父さんみたいに才能が無くてもじいの紋章を付けて頑張れば強くなれるよね? と目を輝かせながら聞いてくるんじゃ。ワシはいつも出来ると、出来るとしか」


 じいは目に手を当てながら上を向き涙を流した。

 最高のサポートだ。

 ご婦人たちも可愛そうなものを見るような目で俺を見る。

 いい、最高だ。

 どんどん種まきが進んでいく。


 ご婦人たちはオートで俺の噂を流してくれるだろう。

 このご婦人はインフルエンサー並みに王都に噂をばら撒くだろう。

 ここで更に俺は言った。


「次は歩けるようになるぞ!」


 目をキラキラさせながら子供の言い方で言う俺を見てご婦人は目じりに涙を溜めた。

 世の中を分かっていない5才の少年が前にある苦難を知らずに目をキラキラさせながら笑う。

 完璧な種まきだった。


「じい、帰って歩く練習をしよう」

「そうじゃのう。帰るかのう」


 2人で家に帰った。



【8才】


 家の地下室で大人サイズの人型ゴーレムを向かい合う。

 剣を握って気合を入れた。


「はあああああああああああ!」


 ザン!

 ゴーレムが真っ二つになり動きを止めた。

 その様子を王とじいが眺める。

 この前家族以外に王にも俺の力がバレた。


「アルト(父)の息子は凄まじいな」

「ひっひっひ、まだまだじゃ、次はゴーレムの関節を強化して運動性を高めてあるぞい。行くんじゃ!」


 スパン!

 ゴーレムを真っ二つに斬った。


「ライ、どうじゃった?」

「うーん、少しだけ、反応が良かった気がする」

「ひっひっひ、いいのう。実験し放題じゃわい」


「アルクラ(じい)、壊れたゴーレムの修理もやってくれよ」

「分かっとるわい、休憩じゃ」


 じいの工房に入ると壊れたゴーレムが山のようにあった。


「これは改造して修理して、この旧式は溶かして最新型に作り直した方がええのう」

「じい、次の訓練は?」

「アルクラ、すぐにゴーレムを仕上げてくれ。やかましい文官と話をしたくないからな」


「まつんじゃ、わかったわい、そうじゃのう、ライはこの玉っころと遊んでおれ、タマA、タマB、タマC、ライと訓練モードじゃ」

「俺も訓練を見に行くぜ」


 丸いゴーレム3体が起動して浮かび上がった。

 訓練場に戻ると俺は目隠しをした。


「準備出来た」


 丸いゴーレムが空中を不規則に飛び回りながら俺に魔法弾を撃つ。

 目隠しをしていても見える!

 今からやるのは動くスイカ割りだ。


 剣を振ってボールを剣で叩こうとするがタマは攻撃を避ける。

 まだ周囲がボヤッとしか見えていない。

 もっとはっきり見えるように訓練をして芯を狙う一撃を放つ必要がある。

 俺はまだ訓練不足だ。

 

「それ子供がやる訓練じゃねえだろ、優秀なスカウトが感知強化でやるような訓練だ」

「まだまだ!」


 紋章は基本的に4つが使われている。

 剣の紋章(戦士)

 魔の紋章(魔法使い)

 速の紋章(スカウト)

 錬金の紋章(生産)


 ゼロの紋章はまだ成功例が無い為好んでつける人はいない。

 ゼロの紋章は無限の可能性、4つすべてを鍛える事が出来るように作られている。

 剣の紋章に慣れてきた。

 今は速の紋章を鍛えている。

 出来るだけ強くなっておかなければ逆転勝利のチャンスを逃がしてしまう。


「王様」

「ん?」

「国に危機とか起きてない?」

「無い、いたって平和だ、あ」


「何? 何かあるの?」

「平和じゃないのは文官だな。ブチ切れて紙を叩きつけてくる。怖いぞお」

「それだけかあ、ふう!」


 王はにやにやしながら言った。


「平和が嫌か? 兵士になるなら大歓迎だぜ?」

「兵士は考えておくよ」

「窃盗団と戦える」

「そう言うのじゃないんだよ、平和を脅かす敵に逆転勝利したい」

「強盗ならいる。お前ならすぐ捕まえて終わりだろうがな」


 この世界は思ったより平和だ。

 モンスターは兵士とゴーレムが倒す。

 強盗はも兵士が捕まえる。

 街は日本並みに平和なのだ。


「あ、事件と言えばゼロの紋章を付けている奴が5人を切った」

「ゼロの紋章は結構いいんだけどな」

「普通の人間にはつらい。大富豪になってから財産を没収されて1から始めるのは嫌だろ? それと同じだ」


 ゼロの紋章を付けるのは他の紋章を付けた実績のある人だけらしい。

 その時点でエリートだし尊敬される立場だ。

 わざわざ今までつけていた紋章を外してゼロの紋章を付ける。

 その状態から寝たきりになってゼロからスタートするのが皆にはきついらしい。


 紋章を外せば強さは元に戻るけどまた成長サポートのある元の紋章を張り付ける時は痛い。

 ゼロの紋章で誰も結果を出していないからゼロの紋章を張り付ける人はでていない。


 少し計画がずれてきた。

 こんなに他の人がゼロの紋章から脱落するとは思わなかった。

 これだとゼロの紋章を付けているのが特別みたいになってしまう。


 俺が目指すのはチート天才キャラじゃない。


 不器用な努力型だ。



【13才】


 チュドーン!


 ガラガラガッシャーン!


「あ、やっべ!」


 雷の魔法を斜め上に放ったら壁を突き破ってしまった。

 土煙が止むと上から日の光が降り注ぐ。

 地下室だと思って油断した。


 父さんと母さんが様子を見に来た。


「あの壁を破壊したのか!?」

「ライ、ケガはない? 体は大丈夫なの?」

「大丈夫だけど、ごめん」


「ひっひっひ、壁はまた直せばええ、ライ、気にせんでええ。ゼロの紋章はつけ続け、訓練を続けさえすれば強くなれる。ワシの思った通りじゃ」


 その後兵士が集まってきて敵の襲撃があったと勘違いされた。


 じいが爆弾を使ったと言ってごまかしそれで済んだ。

 じいがやったと言えばみんなそれだけで納得する。


 じいはマッドサイエンティスト的な普通の人ならやらない行動を取る人間だ。


 俺は両親よりじいに似ているとよく言われる。


 豆腐ハウスを破壊してじいの事は何も言えないなと思い知った。







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