第3話
「待つんじゃ、紋章は15歳以上になってからじゃ」
「そういう決まりは無いよね?」
15才になってからつけるのが暗黙の了解にはなっている。
でも決まりではない。
「子供では痛みに耐えられんのじゃ」
「付ける。ゼロの紋章をつける」
ゼロの紋章と言った瞬間に俺は兵士に囲まれた。
「ゼロの紋章は普通の紋章より痛いからやめておこう」
「心が壊れてしまうから危ないんだよ」
「痛くて泣いちゃうよ?」
色々言われたが俺は引かなかった。
「ふう、分かった。痛い思いをして、耐えられるか確かめて見るでの」
俺はすっと左手を差し出した。
じいが俺の左手の甲にゼロの紋章を張り付けた。
「おお、ついに紋章、あ、がががががががががががががががががががががががが」
痛みはあるけど耐えられないほどじゃない。
でも、思うように口が動かせないのだ。
「雷を受けたように痛みが走っているはずじゃ。徐々に紋章が定着すれば歩く事さえ出来なくなる。赤ちゃんからやり直しじゃな」
「だ、い、じょう、ぶ。いけ、りゅ、あ、ががががががががががががが」
何とか言葉を口にすると周りにいた兵士がざわついた。
「バカな! 通常の何倍も苦痛を受けるゼロの紋章を張り付けて、大丈夫だと!」
「これが何代にもわたって英雄を生み出し続けたサンダース家か!」
「これが、サンダース家!」
今がチャンスだ。
父さんやじいのように才能が無くても努力で強くなれるって証明したいんですって言おう。
才能は無いけど努力キャラである事を定着させるチャンスだ。
「おでええ、さいのうはあいけど、どりょくでえ」
「もういいんじゃ! しゃべらんでええ!」
じいが俺を抱きしめた。
「ライはのう、ワシが作ったゼロの紋章が認められない事が嫌だったんじゃ。ワシは孫に満たされておると言うのに、それでもライはワシの作ったゼロの紋章が認められないのが嫌だったんじゃ」
じいが泣きながらキャラを演じる。
しまった。
持って行かれた。
くそ、口がうまく動かない。
今は種まきの為に不器用で努力するキャラを作るチャンスだった。
失敗だった。
紋章の貼り付け前に『父さんやじいのように才能が無くても努力で強くなれるって証明したいんです』と言っておけばよかった。
その上で頑張っても中々芽がが出ない俺を演出し、モンスターの危機と共に、無才の俺がモンスターに向かって行きやられると見せかけて覚醒してのギリギリ勝利をする事で舞台は輝く。
いや、まだチャンスはある。
寝たきりになってから、もしくは車いす生活になってから巻き返しは可能だ。
俺は気を失った。
◇
目が覚めると父さんと母さんがいた。
母さんが俺の手を握った。
「ライ、大丈夫? 無理ならおじいちゃんに紋章を外してもらいましょう」
「だい、じょう、ぶう」
うまく口が回らない。
本当に能力が赤ちゃん並みになるのか。
でも思考は出来る。
父さんが俺を説得するように言った。
「ゼロの紋章は多くの人が付けようとしてほとんどの人が強すぎる痛みに耐えられず紋章を外した。更に痛みに耐えて痛みが引いたとしても歩く事さえ出来ない生活から再スタートだ。他の成功例が無いまま、先が見えないまま、未来が見えないまま訓練を続ける事になる」
「だい、じょう、ぶ」
「強くなる以前に歩けるようになるところから訓練を始める事になる。ライは痛みに耐えたかもしれない。だがその先に待っているのは先が見えない精神的な苦痛だ。ライが諦めてもバカにされる事は無い」
父さんは俺にゼロの紋章を外して欲しいんだろうな。
でも、外してはいけない。
俺の立ち位置的に恵まれすぎている。
優秀な者を多く輩出してきた歴史を持つサンダース家に生まれた、この時点でチートだ。
更に俺の身体能力や魔法適性もチートレベルだった。
そういうのじゃないんだよ。
敵が出てきました、余裕で倒しましたとかそういうのじゃないんだ。
敵が出て来て苦戦してからの逆転勝利、これこそが最高なのであってサクッとドラゴン倒してきます、はい終わりましたとかそういうのは駄目だ。
チートが揃いすぎている俺はみんなが分かりやすいハンデを背負わなければいけないんだ。
俺がゼロの紋章をつける事で貴族チートが輝く。
『名家に生まれながら才能が無くゼロの紋章でうまくいかずそれでも努力を続けた末の逆転勝利』
この設定があってこそ貴族チートが輝くんだ。
『え? 名家なのにお前落ちこぼれなのかよ?』と言われたうえで逆転勝利をした時の盛り上がりは物凄い事になるはずだ。
ゾクゾクゾクゾク!
「あれえ? この子は大丈夫そうねえ。遊んでるわよ」
「はあ、また逆転勝利の事を考えていたな? 心配をして損をした」
父さん、母さん、心配してくれてありがとう。
でも今が楽しいんだ。
逆転勝利の芽をばら撒く案がどんどん浮かんでくる。
体はうまく動かない。
でもベッドで横になり次の日が来るのが楽しみで仕方がないんだ。
人って、明日が楽しみで眠って、朝起きたらよしやるぞと思ってワクワクしながら起きるのが一番幸せだと思うんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます