第2話 霧の中の囁き
葡萄園の霧は、夜が深まるにつれてさらに濃くなり、旅人の視界を完全に奪っていた。彼が持っていたのは、わずかな月明かりと、ほのかに輝く星々だけ。しかし、それさえも霧によって遮られ、周囲は完全な闇に包まれていた。
旅人は不安と恐怖に駆られながらも、必死に出口を探し続けた。しかし、どれだけ歩いても、景色は変わらず、ただ無限に広がる葡萄畑と、深く沈黙した森の中を彷徨うばかり。彼の耳には、風が運ぶかのような不可解な囁きが聞こえ始める。
「逃げられない…」
その声は、空気を切り裂くようにして、旅人の心の奥底に突き刺さった。声はどこから来るのか、誰の声なのか判然としない。しかし、それがこの場所からの脱出が容易ではないことを示しているように感じられた。
旅人は急に立ち止まり、辺りを見回した。霧の中、何かが動く気配を感じる。しかし、それが何なのか、彼には全く見えない。不安が高まる中、彼はもはや霧が自然のものではないことに気づき始める。この霧は、彼をここに留め置くためにあるかのようだ。
「誰かいるのか?!」旅人が声を上げると、突如として周囲が静寂に包まれ、かすかに聞こえていた囁きも消え去った。彼は、この場所がただの葡萄園ではない何か特別な力を持っていることを確信する。
時間が経過するにつれ、彼の心理状態はさらに不安定になり、恐怖は増すばかり。そして、彼は気がつく。この霧はただの霧ではなく、この葡萄園の秘密の一部なのだと。それは彼を導くかのように、そして同時に彼を試すかのように行動している。
絶望感に苛まれながらも、旅人はふとした瞬間に、霧の向こう側に微かな光を見つける。それは遠く、とても小さな光だが、彼にとっては希望の光のように映った。光に向かって進むことを決意した彼は、霧を切り裂くように歩を進める。
しかし、その光が何なのか、そしてそれが彼を救いの道へと導くのか、さらなる迷いへと誘うのかは、まだ誰にもわからない。旅人の運命は、霧の中、未知の力によって翻弄されていた。
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