第2話・そんな訳で学園です。
そんな訳で4か月後。
この世界が『しちこく』最新作と判明し、ついでにゲームのメイン舞台である『学園』に、寮費、授業料免除(ここ重要)の特待生として入学する事となった。
ちなみに学園は『聖〇〇』とか『ヒゥムディーラ王立』とか付く訳でもなく、ただ『学園』とだけ呼ばれている。
何故か。
それはこの学園の創設理由、ひいてはこの世界の歴史そのものと大きく関係している。
この世界にある七つの種族の七つの国の四つ、海を挟んだ大陸を領とする魔国シャイターン、
長く争っていた四つの国は同盟を結び、その証として、種族は異なれど同じ盟を掲げる朋である若者達の自由かつ平和な学びの場たれ、とこの『学園』を設立した。
なお、魔国との同盟の下りはシリーズ四作目『魔国の聖女』に詳しい。
ヒロインが魔族で舞台が魔国、という前作までのシリーズの敵側になる、というシュチュエーションと練り込まれたシナリオで今でも『シリーズ最高傑作』と呼び声が高い……が、二世代前のゲーム機専用のソフトである事が祟って今では入手困難となってしまい、せめて中古をと思っても〇mazonで物凄い値段が付けられてる、という有様。
私も前世で新シリーズを買う度に同封されてたアンケート葉書に
『魔国の聖女の復刻を!』と書いたもんだった。
アプリ版の最新作では公式サイト詣では封印していたから、
『魔国の聖女の復刻お願いします』ってのはついに出来なかったけれど。
SNSでも毎年『魔国の聖女』が発売した日になる度に、ファンの間でハッシュタグで『#魔国の聖女復刻祈願』とか『#魔国の聖女の思い出』とかが流れては新作の情報『#しちこく』と並んでトレンド入りしてたっけ。
……と、話がずれてしまった。
兎も角、魔国出身の聖女とその仲間の英雄達(イケメン)の活躍によって戦乱に終止符が打たれ、平和の象徴たる学院設立も決定し。
その後に問題となったのは、立地と名前だった。
内地に住んでいる森人と地人の王は口を揃えて『海を越えるのは怖いから嫌じゃ』と内陸のかなり奥まった場所を、魔国の王は『海を越えた上にまたそんな奥地まで行けと?うちの若者コロす気か?』とキレかかりつつ己の大陸を示し、そして、地図の上でも席順でもその両陣営に挟まれた位置にある我らがヒト族の王は『港とか街道とかきっちり整備しますんで、何卒、何卒』と左右に頭を下げ。
そういう経緯を得て、港湾都市でもあり、海を挟んだ
そして、さあ名前を付けようかとなったが、何れの国の英雄の名前を付けようとすれば何れかの国の甚大な被害が浮かび上がり、ではそちらの国の、と言えば此方の恨み辛みが浮き彫りになり、という感じで平和の学園の命名会議の場は、過去の遺恨の展示会場状態になってしまい、余りにも深く暗い歴史の重さにずっしりと頭を押さえられ精根尽きた4つの国の代表者達は誰ともなくこう言ったという。
もう、名前は付けずにただ『学園』でいいじゃないか。
どうせ、此処しかないんだし、と。
ちなみに聖女の名ではどうか、という案も出たが本人から断られてしまったとか。
……まあデフォルト名がないから、そういう風にはなっちゃうよね。
3作目と『魔国の聖女』までは同じゲーム機だったからセーブデータを読み込んで前作聖女の名前が神殿や施設の名前になるというサービスもあったけど、『魔国~』の次の、学園が初登場する5作目が同時に出た次世代機対応だったもんだからそういうやり取りが出来なくなっちゃって、まあ『魔国~』をプレイしたユーザーが『学園にうちの聖女の名前を付けたかった』と嘆く事嘆く事。
…………まあ、私も突っ伏して嘆いたユーザーの一人だったんだけれど。
まあ、そんなこんなで設立された『学園』は4つの国の様式を細かく取り入れつつも色は何処にも染まらぬ白一色というその姿を、魔国を擁する大陸を望む青い海を背に浮かび上がらせていた。
前世で世界遺産とか建築様式とかを詳しく知ってたら『〇〇様式っぽい』とか楽しめたんだろうけど、如何せんそっち方面への興味知識は乏しかった為『なんか綺麗』などという5歳の子の様な説明しか出来ない自分がちょっと悲しい。
自分の印象で言うと森人国の様式はそこはかとなく和風、ヒゥムディーラの様式は西洋のお城や教会風、魔国は中東っぽかった。あと、地人国は良く判らないけど固そうだった。雰囲気的に。
この『学園』は前世でいう所の『高校』みたいなもので、此処で3年間学んで己の適性や希望する進路を探す。卒業後はそのまま社会に出て働くも良し、各国にある『学院』(これにはそれぞれの国で名前が付けられている)に進学して技術を極めるも良し、というシステムになっている。
ちなみに此処の学費はとっても高い。高価な魔法道具やら武具が使い放題な代わりに高い。高難易度の試験を突破するか、仕事で使える程度の読み書き計算と礼儀作法が出来てSSR級のレア能力を持っている事を実証するかをすれば学費免除で通えるが、いずれにせよ狭き門である。
私は幸い、聖属性魔法を持っているので後者で通る事が出来た。
が、最低限の礼儀作法は必要と、ここへの入学が決まってから4カ月間、神殿に通って、きっちりしっかり教えられた。
何で神殿かって?
此処は身分を問わず『きちんとした立ち居振る舞い』と『静かな所作』を要求される場所だからだ。
前世における、冠婚葬祭の場の雰囲気を想像して貰えば判ると思う。
ああいう所でのマナーが色んな場所で応用可能な事と同じだ。
とはいえ私は前世で冠婚葬祭の場に出る事は遂になかったので、想像で言ってるだけなのだけど。
狭き門とは言ったけど、特待生は毎年幾人か出て来る。
そういう人達は私もそうだが大抵が平民なので、貴族王族と相対する機会は殆どない(なお、学費が払える富裕層は例外)。
ので、彼等と混じって生活をしてもある程度は大丈夫な様に『身分問わず必要なマナー』を教えてくれる神殿に入学前に通うのだ。
なお、こういう『FT学園もの乙女ゲー』定番の『身分の低い特待生を虐める貴族』というのは、このゲーム、ひいてはこの『学園』では殆ど発生しない。
何故かというと他国の留学生が多数、下手すればその国の王位継承者なんかも身分を隠して『学園』には通ってきている場合があるからだ。
表向きは『学園のある国の者が、他国の若者に対して恥ずかしい姿を見せるな』、本音は『付け入る隙を見せるな』というのが理由である。
弱さを見せれば付け入れられる、亀裂を見せれば其処に毒を注がれる。
留学生を数多受け入れるという事は、『国』を値踏みされるのと同じ、という事なのだ。
平和の礎というのは聊かギスギスしている気もするが、それで貴族からの虐め等が無くなるなら平民としては大変に有り難い。
ただし、異種族間グループでの対立はあったが。
ゲームの中でも攻略キャラである第三騎士団長の息子と魔国の第一竜騎兵団長の息子とでそれぞれグループを作ってて、事ある毎に喧嘩をしていたので、そいつらのルートに行くと乙女ゲームではなくヤンキー漫画の世界になってしまっていた物だった。
スチルを回収するのにどっちも攻略したけれど、こいつらよりも、喧嘩になると必ず実力行使(←重要)で止めに来る先生(攻略対象)の方が正直タイプだったんだよね。イケオジだし。
まあ、どっちの息子も『学園で関わらない人』リストに入れておこう。
両方とも脳筋だし。
自分がヒロインかどうかが判らない上、医者の仕事を継ぐという当面の目標もある以上、攻略キャラとはあまり関わり合いにならない方がいいだろう。
攻略キャラの中には先生も二人いるから、これには関わらざるを得ないけれど『生徒』としての分を出なければ大丈夫だと思う。
前世でゲームをしていた頃は婚約者のいるキャラを攻略するのも逆ハーも普通に楽しめたけど、それはあくまでディスプレイを隔てた『フィクション』だったからだ。
だがリアルにこの『しちこく』世界に生きる人物となった状態で、そんな『人としてどうか』という様な事を繰り返して笑っていられる神経なんぞ、私は持ち合わせてはいない。
ゲームの中の世界だろうと此処で生きる以上は私は平和に穏やかに、出来るだけ周囲や己に恥じる事なく生きていきたい。
頭の中で『関わらない人リスト』を作り、心の内で読み上げる。
第三騎士団団長の息子アレクシス=クロイツ=エリルフレア
魔国竜騎兵団団長の息子ハファン=サディーク=アームラター
魔国皇子ヴァタール=ユシュフ=シャイターン
まあ、この三人は普通に過ごしている限りはそうそう関わる事もないだろう。
ゲーム中では恋人、婚約者なしのフリーな人達だったが、この世界ではどうか判らないので要注意ではある。
リスト上位『決して関わってはいけない人』には、
王太子レオナード=リオン=ヒゥムディーラ。
そして、リスト最上位の『何があろうと関わってはいけない人』。
侯爵令嬢エレンディラ=フアナ=リュースディアス。
彼女は王太子レオナードの婚約者であり、ヒロインのライバルである所謂『悪役令嬢』であり、何よりこの世界を危機に陥れるラスボスだった。
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