第86話 古代の遺跡
グレドさんのところへ戻ると、ミナトさんが合流していた。
「ミナトさん。無事でしたか」
「ああ。この通り無事だ」
「えっと、そしたら――」
と喋ろうとしたところで、グレドさんが酷く挙動不審な動きで私を見つめてくる。
「あ、あの? えっと、どうかしましたか?」
「あ゛!? い、いや、べ、別に何でもねぇよ」
「そ、そうですか。……えっと、この先で亜人たちが大きな避難陣地を形成しています。ここにいる亜人の方々をそちらまで移送しようと思います」
「お、おう。わかった」
蜂人たちの避難誘導をしながら、二人に新たに発見した情報を共有していく。
「少しいいですか? この辺りを探索してたら奇妙な祠を見つけたんです。光を帯びていておまけに祠そのものが移動をしています」
「その祠なら俺も見たが、移動しているとはどういうことだ? 足でも生えているのか?」
「いえ、言葉通りです。たしかに地面に建っているんですが、間違いなく移動しています。いちおう探査魔法で位置をマーキングしてあるので、後でいきましょう。もしかしたらあれがメルグナの太陽かもしれません」
「わかった。ただ、他のメンバーはどうする?」
「一応先ほど花火を上げました。この辺りにまで来てくれれば合流できますが……」
「あの二人は戦闘力が恐ろしく高い。先の魔物に襲われても何とか切り抜けられるだろう」
とりあえず亜人たちの移送を最優先ですることにし、それらを終えて祠を見つけたところで再び今後の方針を議論することに。
「ええっと、そしたらどうしましょうか」
祠は腰の高さくらいまでしかないもので、相変わらずほんのりと光を帯びていた。
パッと見では確かに移動していないのだが、長い時間を眺めていると徐々に地面を移動していることがわかる。
「タカネもリーリアもどうしたんだろうか」
「リーリアさんはともかく、タカネは結構自分勝手だから、花火を見ても単独行動する可能性はありますよ」
悩む私たちに対し、グレドさんが魔法を唱えて空中へと飛びあがる。
「【ブラストバーン】」
爆発力を起点に大ジャンプをして、周囲の様子を観察しようという算段か。
着地してきた彼に早速様子を聞いてみる。
「どうでした?」
「周囲で戦闘が起こっているような感じはねぇな。あくまで目視観察レベルだが。ただ、気になるもんが東側にあった。明らかに人工建造物だ」
「人工建造物……?」
この森に住まう亜人たちはどちらかというと天然の木や岩や洞窟をそのまま住居として用いるケースが多い。
ぱっと見でわかるような建造物なんてあるのだろうか。
「行ってみましょうか。二人がいるかもしれません」
移動してたどり着いた先には、遺跡の入り口のようなものが存在していた。
しかも、この建築様式は――
「古代遺跡……。たしか、向こうの世界の人類の建物とかってタカネは言ってましたっけ?」
「……ああ。俺からすると元の世界の未来の話だが、ところどころ馴染のある建物に見える」
となると生命の泉に関連している可能性が高い。
「行ってみましょう」
三人して地下へと続く階段を降りていく。
歩きながら、私は一つだけ気掛かりなことを悩んでいた。
初代魔王が滅ぼそうとしていた人族というのは、ミナトさんたちの世界から来た人々のことを指すのであろうか?
タカネさんは夢幻郷のことをたしか旧人類の住居と呼んでいた。
そして初代魔王からもたらされた情報には『夢幻郷の破壊方法』というのもあった。
ということは、やはり初代魔法は異世界人を目の敵にしていたということになりそうだ。
「ミュリナ、どうした?」
悶々と悩んでいる私にグレドさんから声がかかる。
「え? あ、いえ、ちょっと考え事をしていただけです」
地下へ到着すると数多くのガラス製の器具のようなものが散乱していた。
ほとんどは破壊されていて、機能を失っている。
「なあ、おかしいと思わないか?」
「なにがですか?」
「リーリアは元々生命の泉のことを文献で知っていたんだろう? ならこんな遺跡があったら真っ先に心当たる場所だと思う。けど、彼女は心当たりがないといっていた」
「たしかに。隠されていたか、あるいは何かがキーになって出現したとか?」
「そのへんだろうな。リーリアの姿が見えないのも気になるところだ」
「変な勘繰りはやめましょう。彼女だって単に足止めをくらっている可能性もあり得ます」
「そうだな」
ミナトさんが破壊された設備を眺めながら手を握りしめている。
「ここ、何の設備だか心当たりはありますか?」
「……わからない。見たこともない設備だらけだが、一つ気になることがある」
「気になること……?」
「俺はこういう設備を映画やアニメの中でしか見たことがないんだ。だから実物も同じなのかは知らない。……だが、もしその通りであるとするなら、ここは生物実験設備のように見える。中でも――」
ミナトさんが俯く。
「――人体実験設備」
「人体……実験……!?」
ふと、魔適合物のことが脳裏に浮かぶ。
あれは人と魔を融合させるアイテムであった。
「ミナトさん、お聞きしたいんですが、向こうの世界には魔法って一般的に存在するものなんですか?」
「……いや、魔法やスキルは空想上のものだ。向こうには存在しない」
「やっぱり……。そしたら、もう一ついいですか?」
「なんだ?」
「前に対峙した神父風の男や、それとアルベルトさんも持っていましたが、『魔装兵装』というのは向こうの世界の武器なんでしょうか?」
「……恐らくそうだと思う。だが、俺は見たことがなかった。少なくとも俺が生きていた時代にはなかったと思う」
「こちらに来てから開発されたという可能性は?」
「こちらに?」
「魔の名を持つということは、あの武器には魔法的な要素が組み込まれていると思います。実際に武器として使用されている際も私は魔素を感じ取っていました。向こうの世界に魔法という概念がなかったのであれば、こちらに来てから作られたと考えるべきではないですか?」
「……!? たしかに」
「少し気になったんだが――」
今度はグレドさんが口を開く。
「王家には過去の人族から引き継いでいる重要な情報や武器があるそうだ。それらに関してはたとえ貴族であったとしても決して教えてもらえないと聞いている。それも何か関係しているのか?」
「私の推論になるんですが、かつてミナトさんの世界からやってきた人族はこの世界で魔族と争った。魔法という概念を知らない彼らは、魔適合物や魔装兵装を生み出し、果てには勇者を召喚するようになったんではないでしょうか」
「あり得るな。だが、今はその魔適合物とか魔装兵装なんてほとんどないぜ」
「タカネさんはそれらを危険なものだと言っていて、回収して破棄しているみたいなことを言ってました。もしかすると、世界にそれらの技術が出回るのを防いでいる方もいるのではないでしょうか」
「ふーむ。まあなんにしても進んでみよう。ここが怪しいことには変わらない」
三人して内部を進んでいき奥部へと到達する。
「管理室か何かだろうか?」
ミナトさんが何やら機械のような物に触れると、ランプが一気に点灯していった。
「まだシステムが生きているのか!?」
「何!? 何が起きているの! 周囲で魔力反応がたくさんあるわ!」
そこかしこから魔力反応が発生し、焦ってしまう。
「大丈夫だ。恐らくこれらの照明や機器が魔力で駆動しているだけだ」
「で、でも、何かすごく巨大な魔力が下の方で蠢いていますよ!」
「下……? 動力か何かでもあるんだろうか」
次の瞬間、異音が鳴り響いた。
今度は一体何だというのか。
『警告、魔族が施設内部に侵入しています。魔族が施設内部に侵入しています。迎撃システムを起動します』
床やら壁やらから鋼鉄製の人型の何かが現れて、明らかにこちらへ――というより私に対して敵対的態度を取っている。
「なに……これ……?」
「ルミナベータだとっ!? マズい! 逃げろ!」
ダァン!!
恐らく攻撃されたのであろう。
眼にも止まらぬ速さの攻撃が私へと到達し、爆発してそのまま視界が奪われる。
「ミュリナ!!」
「くそっ! グレネード……あんなの直撃したら、木端微塵だ……」
「そんなっ!」
失意の声が響く中で、ルミナシリーズと呼ばれた者たちの声も聞こえてくのだった。
『敵性勢力排除完了』
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