第87話 メルグナの太陽
煙にまみれながら、私はとても焦っていた。
うーん、どうしよう。
あの機械もどきは私のことを魔族だと宣言しながら攻撃してきている。
ミナトさんはともかく、このままだとグレドさんにも正体がバレてしまう……。
「くっ、ミュリナ。なんで、なんで俺が盾にならなかったんだ。俺はお前のことをこんなに想って――」
そこで煙が晴れてしまった。
「あー……。え、えっと! よ、よくもやったな! 【スパイラルレイ】」
十五の曲光魔法が飛び出し、複数いた機械を難なく撃ち抜いた。
それらが倒れ伏す中、あっけにとられるグレドさんの顔を目にすることとなる。
「よ、よしっ! き、機械もどきが変な事言ってたけど、これで万事オッケーね!!!」
なんて具合にテンションで乗り切ろうとする。
うーん、我ながら無茶がある。
こんなんであのグレドさんを騙せるとは思えない。
なのにグレドさんときたら、深刻な表情となりながら私に抱き着いてきた。
「う、うわぁ! グ、グレドさん!?」
「ミュリナ、無事だったのか。よかった。本当によかった」
「ぶ、ぶぶぶ無事ですよぉ! い、一体どうしたんですか!?」
男の人に抱きしめられたのが初めてであったため動揺を隠しえない。
いや、正確にはミナトさんとも舞踏会で一緒にダンスを踊っているが、あれはまた別物だ。
「あっ! す、すまない。お前がやられちまったかと思って……」
「グ、グレドさん、あの、さっきの、聞いてました?」
「さっきの? 何のことだ?」
「あっ、べ、別にいいです! 気にしないで下さい。えーっとそれで、グレドさんも何か言ってましたっけ?」
「なっ! 何でもない! そっちこそ俺がさっき言ったことは忘れてくれ!」
「え? た、盾にならなかったことですか?」
「ち、ちがっ……あっ、いや、それでいい」
それでいい?
他に何か言ってたっけ?
「さっきの攻撃、どうやって防いだんだ?」
「え? 普通に防御魔法ですけど」
「……。相変わらず、君の魔法は魔王並みだな」
「ちょっ!!」
ミナトさんが普通に魔王だとバラしてきたのかと思ったが――
「おいおいミナト、ミュリナの魔法がすげぇのはその通りだが、魔王並みってのはあんまプラスの言い方じゃねぇんじゃねぇか?」
「……。魔法の扱いにおいては最上の部類という意味だ。他意はない」
「まあいいけどよ」
うぅぅ。
心臓に悪い言い方しないでよ、もう。
「とりあえず遺跡の探索を続けようと思う。問題ないのか」
私へと問いかけてくる。
さっきの機械が言っていた魔族探知のことを言っているなら問題ない。
体から漏れ出る魔力の漏洩を隠蔽すれば、魔族であることは認識できないはずだ。
「はい、大丈夫です」
*
手分けして探索をしていると、ふと私はある機械が気になった。
真ん中にくぼみのような物があって、そこにちょうどスマホがはまりそうに見える。
さっそくはめてみようかと思ったのだが、先ほどの地震の例もあり不安になったため二人を呼ぶことにした。
「――このくぼみなんですが」
「ふーむ。たしかにスマホがピッタリはまりそうだな。まあやってみるしかないだろう。幸いなことに、亜人たちは先の騒動でみな避難所に移動している」
「じゃ、じゃあ、やりますよ」
スマホをはめ込む。
すると画面が勝手に点灯して暗証番号の画面になった。
そのロックを解除すると機械から音声が聞こえてくるのだった。
『東雲教授、ようこそエデンの園へ。未読のメッセージが二万三十七件、着信履歴が千六百二十二件あります。本日の天候は…………人工衛星ひまわり改と信号途絶。メルグナの気象情報を取得できませんでした。本日の予定はございません。良い一日をお過ごしください』
「……こ、これってなんですか?」
「おそらくは機械的なメッセージの類だ。東雲、というのがこのスマホの持ち主なのか?」
「たぶんそうだと思います。私が前に誤って音声を再生させたときも、たしか東雲愛花という名前がありました」
「この端末は俺でも操作できそうだ。少し待て」
ミナトさんが適当なパネルをタッチすると、再び音声が読み上げられていった。
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新生歴二十二年 七月八日
ようやく魔適合物のプロトタイプが完成した。
自我を保つことができないという大きな欠点はあるが、魔法適性を後天的に向上させられるという点では画期的である。
その過程で我々は複数の人類近親種を生み出すことに成功した。
原住民族との戦闘は激化の一途をたどっており、有用な存在として用途検討されることとなった。
とくに、兎との掛け合わせでできた種族は特殊な電波を蓄積、放出する能力が備わっており、生物でありながらデータ保管機能を有する。
これを生かし、メルグナの防衛機能に対する情報端末として用いることとする。
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「……これって」
映し出された画像に私たちは絶句してしまった。
そこには、亜人たちの――兎人や蜂人、その他この森で暮らす亜人たちの多種多様な姿が映し出されていた。
「創り出されたってことなのかっ、亜人たちは……っ!」
ミナトさんが次のパネルをタッチすると、今度は映像が流れた。
そこでは、数多くの魔適合物を摂取した者たちがのたうち回りながら死に絶えていく様や、歪な体となって壊れていく様が映し出されており、ここで過去に行われていたものが決して人道的なものではないことを示している。
あまりの惨たらしさに私は吐き気を催してみていられなくなった。
ミナトさんも同じ気持ちだったのか、途中で映像を止めて消してしまう。
三人とも無言となる中、最初に口を開いたのはグレドさんであった。
「人体実験設備ってのは間違っていなかったようだな」
「……当たって欲しくなかった」
「思うんだが、さっきの音声にあった原住民族ってのは魔族のことを指しているんじゃないのか? この設備はたぶんミナトたちの元の世界に通ずるものなんだろう? つまり人族の設備だ。そいつらが争っていたとすれば魔族だと思う」
「俺もそうだと思う。それへと対抗するために魔適合物が生み出され、その過程で亜人が生まれ、その祖先がこの地に住み着いたというわけか……」
「これが生命の泉の全貌ってわけかよ。おぞましいな」
死者を蘇らせる……。
皮肉な言葉だ。
たしかに新たな亜人という種をつくったのかもしれないが、それは多くの犠牲の上に成り立っているということになる。
「とりあえずどうする? この端末で継続して情報を集めてもいいが、さっきみたいに見るに堪えない情報も多いかもしれない」
「そうですね……。一旦ここを出ましょう。リーリアさんやタカネのことも気になりますし。合流できたらこの情報を共有したいです」
「そうだな」
そう述べて、三人は遺跡を後にするのだった。
*
誰もいなくなった部屋で、端末が自動起動する。
『霊魂魔法の反応を検知。魔王が施設内に侵入しています。本設備に致命的な危険が及んでいる可能性が発覚しました。これより、メルグナの太陽は最終防衛機能を起動シークエンスへと移行させます。メルグナの月を捧げて下さい』
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