第83話 森の探索
大森林の中を歩きながら、目的となるメルグナの太陽を探していく。
と言っても、これは一体どんな姿かたちをしているものなのだろうか。
途中何度か魔物と遭遇したが、このパーティだとほぼ瞬殺ですべてが終わった。
タカネさんが相変わらず戦わないのは言わずもがな、ミナトさんやグレドさんは普通に強いし、リーリアさんに至ってはその二人よりも強いんではないかと思えるほどの戦闘力を有していた。
「リーリアさん……滅茶苦茶強いんですね」
「え? そ、そう? えへへ。実は私、
「金神剛?」
「亜人部族連合において、三年に一度開かれる武術大会の優勝者は月の精霊と戦うことができるんです」
「月の精霊??」
「ええ。かつてこの地には金神剛と呼ばれる亜人を生み出した神様がいて、月の精霊と呼ばれていたの。その方を呼び出す召喚装置? みたいのがあって、あっ、もちろん本人じゃないのよ。幻影みたいのを呼び出して戦うの。それに勝つと金神剛の称号を授与されるの!」
「へえ! じゃあリーリアさんってすごいじゃないですかっ!」
「へへ。頑張ってるんだぁ。亜人は人族でも魔族でもなくて立場が弱いから、もっと発言権を得られるように武術では負けないようにしてるの。でも、そう言うあなたこそすっごく強いじゃない。魔王が出て来ても勝てそうなくらい」
「あー……ははは」
いや、魔王なんですけどね……。
長槍を扱う彼女はバランス良くスキルと魔法を使用でき、近距離戦闘、遠距離戦闘、支援バフから回復魔法に至るまで、なんでもこなすオールラウンダーだ。
「終わったか? パバルくれぇさっさと倒せよ」
「文句言うくらいならタカネが戦ってよ」
「んなことしたら大森林が焼野原になっちまうぜ?」
「手加減だって上手にできるくせに」
こんな具合に魔物との戦闘を繰り返して、森の中心辺りに到着したであろうか。
「さて、こっからどうすっか。メルグナの太陽とやらが何なのか分かんねぇ以上、手分けして探すしかねぇな」
「先に聞いておきたいんだが、君たちはどうして霊魂の泉を――いや、生命の泉を探しているんだ」
「えっと、私は単純に学園の課題をこなすためです。生命の泉を発見できれば内申点が得られると思って」
「俺も同じだ。不本意だがミュリナと被っちまったな」
グレドさんがそんな風に肩をすくめる。
「私は学術的興味からよ。兎人の文献はほとんど解読ができないから」
「あーしは単純な興味だ。知っておく必要があると思った。危険なら破壊する。ミナト、てめぇはどうなんだ?」
「俺は……、俺も興味に近い。かつての人類のことを理解するためにも知るべきだと思ったからだ」
「ってことは、手分けをしたときに、抜け駆けするとしたらミュリナとそっちの――グレドだったか。どうなんだ? 仮に手分けした際に、てめぇらは抜け駆けすんのか?」
「わ、私はそういうことはしません。手分けをしても私が最初に見つけたら、皆さんに必ず合図します」
「俺もだ。本来ならミュリナとは競争関係にあるが、すでに外部の奴が三人も入っちまってる。学園にバレれば即ルール違反だ」
そう言えば、この課題は一人でこなせというお題だった。
メイリスさんに言わせれば、みんなバレないように隠れて協力者を用いるとのこと。
「同罪だなミュリナ。お互い裏切らないようにしようぜ」
「むぅぅ」
なんだか悪い気がしてきたが、こればっかりは仕方がない。
というか一人でやるといってもこの人らは勝手についてきそうだ。
「そしたら、ここからは別行動でいきましょうか。各々メルグナの太陽と思しきものを見つけたら何かしらの手段で合図してください。私の場合は花火を上げると思います」
全員で散り散りとなって森の探索を始めるのだった。
*
森を進んでいたところで、ミナトは背後に気配を覚えて振り返り剣を構える。
この森は魔物が多数生息しているため、気を抜くことはできない。
「誰だ」
「――リーリアよ。攻撃しないで」
「……別行動じゃなかったのか?」
「あの、えっと……ちょっとお話したいことがあって」
ミナトは剣を納めて、手頃な岩の上に腰掛ける。
「一体なんだ? 俺で答えられるようなことであればいいが」
「ミナトって勇者一行とかってもう候補を出してたりするの?」
「いや。そもそも選抜はまだ先の話だ。今は勇者学園で足切りのラインを決めているところだろう?」
「え、ええ。でも、ほら今回だって二人きてるじゃない。二人ともすごく優秀だし。学園がある程度選抜してくれるとはいえ、あなたから見ても、この人良いなとかってあるんじゃないの?」
「……たしかに、二人とも高い戦闘力を持っているな。まあ、ミュリナは別の意味で選び辛いが」
「や、やっぱりワンナイトラブ?」
「違う!」
「で、でも、ミナトさんとミュリナさんってなんだか本当にただならぬ関係に見えるわ……。わ、私でも可能性があるんだったら、それくらいはやぶさかでもないけど」
なんて言いながら、リーリアは上着に手をかけて服を脱ぎ始める。
「やめろ! 脱ぐな! なんでそんな話になるんだ! というか、君はそもそも学園の生徒ですらないだろう!」
リーリアが少しだけ畏まって、ミナトの前で
「……あのっ。私を勇者一行の選抜に何とか組み込んでもらえませんか?」
「いきなり何の話だ?」
「私は村の決まりで十六の成人を迎えるまで村から出ることができなかったの。この前ちょうど成人を終えたばかりで、勇者学園への入学試験には参加することができなかった。でも、本当はすごく参加したかったの。お父さんともそれで大喧嘩して……」
「たしかに、君は戦闘力が非常に高い。古文書の解読をやっていたあたり、頭もきっといいんだろう。勇者一行に必要な素養は持っていそうだな」
「じゃ、じゃあ――」
「だがそれを決めるのは俺じゃない。むろん俺の意見も参考にはされるが、勇者学園というシステムはもっと根が深いと俺は見ている。一言俺が口添えしたところで影響を与えられるかはわからない」
「それでもっ! 伝えるだけでも伝えてほしいの! 私、どうしても勇者一行になりたいのよっ!」
「……どうしてそこまで勇者一行にこだわるんだ?」
「魔族が私のお母さんを殺したからよ」
殺意のこもった瞳となるリーリアにミナトは目を細める。
「復讐のため、か」
「いけない?」
「いや、もっともらしい理由だと思っただけだ。……いちおう話してはみるが、なんの確約にもならないぞ?」
「ううん。いいの。ありがとう」
「はぁ……。彼女がその理由を言ってくれば、わかりやすい異世界だったのにな……」
「え? 何か言った?」
「いや、なんでもない」
とそこで、二人は少し後方の方に祠のようなものがあることに気付く。
「……祠? え? こんなのあったかしら??」
「今の今まで気付かなかった。それに歩いている際も何かないかと気を払っていたはずだ」
その祠が光を持って輝いていく。
「なんだ!?」
「なにか、危険な気がします!」
「ああ、いったんここから――」
そう言おうとした瞬間、地面が大きく揺れた。
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