第77話 変人に囲まれて
「魔王教!? あの変態集団がどうしたってのよ!」
さっそく学園にてサラのことを話したところ、メイリスさんから盛大なツッコみを受けた
「や、やっぱり変な人たちなんですか?」
「変。すっごく変。頭おかしい奴ばっかりよ。魔王教なんてトラブルメーカーの代名詞みたいなもんじゃない」
サラさんに関してはたしかにそんな気がする。
会話がほとんど成り立たなかったし、こっちの話も八割くらいは聞いていなかった。
「うーん。このままプレグの村に連れてっていいのかな……」
「プレグの村って、廃村になった後、あんたやサイオンがコソコソなんかをやってるところ?」
「こ、コソコソじゃないですよ。ふ、普通に魔族の人たちを一時退避させているだけです」
「あんたってお人好しよねぇ。普通魔族にそこまで肩入れする?」
「い、いいじゃないですか別に」
「まあいいけど。で? なんでそこに魔王教が関係してくる?」
「なんか魔王教の方たちに居場所がないみたいで、安住の地を探しているみたいです」
「そりゃそうでしょうね。あいつらはどこからも忌み嫌われてるから」
「そんなに変な人たちなんですか……」
「いや、えーっと……。正直に言えば本当に変な奴はごく一部よ。人族だけど魔王が好きって人らはだいたい変な経歴を持っている人が多いってだけ。性格は普通な奴も多いって聞くわ」
「そうなんですか! じゃあこのまま連れて行ってもいい気がしますね!」
なんて具合にルンルンしていると、サイオンさんから横やりが入る。
「そんなわけないだろ」
「サ、サイオンさん。おはようございます。えっと、魔王教の人らを連れてくと何かまずいんでしょうか……?」
「人の性格うんぬん以前に、村の運営ってのはそんなに簡単じゃない。その魔王教とやらが何人いるのかは知らないが、百人いれば百人分の食料や物資を供給できるようにしなきゃならない。確かにあの村は家や農地こそ余っているが、作物だって実るまでに時間はかかる」
「あぅぅ、そっかぁ……。じゃあ無理かなぁ……」
私が落ち込んでいると、サイオンさんがため息をつきながら仕方がないとばかりに口を開く。
「なければ買ってくればいいだけだ」
「え゛!? で、でも、私そんなに買い物できるほどのお金ないですし……」
「金がないなら調達する。貴族の基本だ。君もサートンバゼル家に養子入りしたんだろ? ならこれくらいはできるようになっておけ」
「お、お金を、調達……!? ってどうやってやるんでしょう……」
「まあ、君にはまだわからないだろう。だから今回は僕の方で調べておいた」
そう述べて、書類の束を私に手渡してくる。
「えーっと、これは……」
「プレグの村はこれまで宿場町だった。だが、魔族が住まう村をそのまま宿場町にするというわけにはいかない」
「人族からするとあまり寄り付きたくないからですよね?」
「その通りだ。そこで別の産業を用意して外貨を稼ぐ必要がある。今回に限っては簡単だ。そこに書いてある物が村から少しはなれた場所で採掘できる。それを加工して売ればいい」
「グラズ鉱石とシュリアの薬草ですか? そこまで特別な物ではない気がするのですが……」
「最新の研究で、この二つは細かく砕いてすり合わせると爆発性の物質に変わることがわかっている。トンネル工事や鉱山採掘なんかでの応用が期待されている物だ。これらを加工して売っていくだけで外貨を大量に稼げる。それを使って村人を食わしてやればいい」
「おおっ! そうなんですねっ! ありがとうございます、わざわざそこまで調べて頂いて」
そんな風にお礼を述べる私に対し、メイリスさんは訝し気な表情を浮かべてくる。
「サイオン、あんたってホントにサイオンよね……?」
「なんだいきなり」
「あたしの知っているサイオン・レイミルはそんなおいしい話があったら、採掘権をぶんどって自分のものにしに行くと思っただけよ。よっぽどミュリナのことが好きなのね」
「か、勘違いするな! これはレベルカがミュリナさんの世話になってきたから、あくまでその謝礼の一部だ!」
「ふーん。まっ、そういうことにしとくわ」
「と、とにかく! ここから先は村長である君の仕事だ。実際に村人の割り当てや手配は君がやることになる。さすがにそこまではやらないぞ」
「いえいえ、ここまででも十分です。何から何までありがとうございます」
頭を下げると、それだけ見届けてサイオンさんは自分の席に戻っていった。
レベルカさんの事件があって以降、彼との関係は良好だ。
「んま、なんにしても魔王教には気をつけなさい。いい話を聞いたことはないわ」
メイリスさんの忠告を聞き、教室に先生が入って来たので授業となった。
放課後、今日は珍しく一人で帰宅することとなる。
すると――、
「教祖様。本日もご機嫌麗しく」
「うわぁ!? ど、どこから出てきたの!?」
周囲に人が隠れられるようなスペースはないというのに、彼女はいきなり私の前に現れてきた。
「何をおっしゃいますか。学園にいた時からいざという時のためにずっと傍についておりましたよ」
「えっと……、ごめん、どゆこと?」
そんなはずない。
学園には気配探知に優れた者もいるし、私だってパッシブ展開している魔法がいくつもある。
「あなたの傍仕えたるもの、気配など気合で消せて当然でございます」
「一体いつ私の傍仕えになったんですか……」
「もちろん、あなた様のお噂を聞いて、あなた様が魔王様であることを見出したその日からでございますよ」
「あー……。サラ? だったよね? できればもう少し普通に接してほしいんだけど」
「普通? あっ! も、申し訳ございません! 神たるあなた様にはもっと隷属すべき立場にあるというのに。このように馴れ馴れしく話しかけてしまい、申し訳ございませんっ!」
「違う! 全然違う! 傍仕えとかじゃなくてもっと対等な立場でいいって言いたかったのっ!」
「対等に……? ああ、なるほど、そういうわけですね。あなた様の正体がバレるわけにも参りませんので、そういうふりをしろというわけですね」
どこがなるほどだ。
全然違うわ。
「うん。違うかな」
「そうですか……。やはり神たるあなた様の深淵を理解することなど、常人の私では不可能というわけですね……。私としては――」
とそこで、サラは言葉を止めて、背後へと振り返り、ある一点を凝視する。
「そちらに隠れておられる方。私には見えておりますよ。出てきなさい」
私の探知網には一切引っ掛かっていなかったというのに、ぬるりとそこからタカネさんが姿を現わした。
「あーしのハイディングを見破るたぁ、すげぇなお前」
「……勇者タカネ。七百年前の勇者ですか」
そう述べると、タカネさんが少しだけ真顔になる。
「てめぇどうやってあーしの正体を見破った?」
「私には【スキャン】のスキルがあります。勇者の【鑑定】スキルの上位スキルですよ」
「はんっ! 千里眼持ちってわけか。ますます面白れぇ。つい戦いたくなっちまうくらいだ」
そんな邪悪な笑みを浮かべながら、タカネさんは剣を引き抜いていく。
「ちょっ! タカネさん! やめて下さい! ――サラもやめて!」
サラもサラでどこにしまってたんだという人間大サイズの巨大ハンマーを手にしていた。
「良いだろ別に。ちょっと試してみてぇだけだ」
「教祖様にご迷惑をおかけしている輩とはあなたのことですね。成敗します」
「あ、あのね、二人ともちょっと話を――」
私の言葉なんて無視して、二人はそのまま戦闘を開始してしまった。
街中で普通に迷惑だし。
私の話は全然聞かないし。
なんで戦っているのかも意味わかんないし。
「むぅぅぅぅ、こらー!! やめろーーー!!」
なので私は普通に二人を叱ることにした。
大量の魔法陣を出現させて、脅しとばかりに杖を向ける。
すると、二人は今まで戦っていたことを忘れ、私の魔法を唖然と眺めているのだった。
「これは教祖様、大変失礼いたしました」
「相変わらずてめぇはすんげぇ魔力だな。マジでおもしれぇわ」
ケタケタ笑うタカネさんに眉を寄せながら、二人の間に割って入る。
「なんでいきなり戦うんですか! 意味わかんない!」
「こいつの強さに興味があったからだ」「教祖様に害を為す存在だと思ったからです」
どっちの理由も意味わかんないし。
「とにかく、二人とも武器を降ろす! じゃなきゃ私の最強魔法をお見舞いするからねっ!」
「おいおい、んなこと言われたら見てみたくなっちまうじゃねぇか」
「ああっ! 教祖様の魔法ぅ! 是非浴びてみたいです!!」
「なんでそうなんのっ!?」
二人とも全く常識が通用しない。
「はぁ……。まったく。それでタカネさんは、今日は何をしに来たんですか?」
「そうそう、てめぇに用があったんだよ」
「なんですか。どうせあなたのことですから変なこと言うんじゃないんですか?」
「いやいや、普通だって」
「今まで普通だったことが一度もないんですけど……」
なんて述べる私に、タカネさんは居住まいを正してこんなことを言ってくるのだった。
「ミュリナ、てめぇの家にあーしも住まわせろや」
「……はぁ?」
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