第75話 帰って来た日常?
ミストカーナへと帰って来て、いつものように教室でメイリスさんやレベルカさんと雑談を始める。
最近はそこにニアさんが加わった形だ。
彼女は世間的に公爵令嬢から私の奴隷となっているため、周囲の反応は様々となる。
ただ、ほとんどの者は身分が変わったことで彼女と距離を取るようになっていた。
「とりあえずは解決したの?」
メイリスさんからそんな風に問いかけられる。
「そうですね。一旦目の前の問題は解決したって感じでしょうか」
ミナトさんに魔王であることがバレている点や、神父風の男が逃亡中な点は気になっているが、今のところ大事にはなっていない。
「で、今はニアも一緒に暮らしているの?」
「ええ。――といってもあの家も元サイオンさんの家ですけどね」
なんて話していると、ニアさんとレベルカさんが会話に混ざって来る。
「わたくしはどちらでも構いませんわ。ミュリナさんに身体を捧げるまでです」
「ちょっとニア様、勝手にミュリナさんを盗らないで下さい。私のです」
レベルカさんとニアさんが両サイドから私の腕をがっちりと掴んでくる。
家だとここにエルナまで加わって、けっこうどうしようもないことになる。
「あんたら、ホント仲いいわね……」
「むろんですわ。ミュリナさんとは二人っきりで熱い交じり合いをした仲ですので」
「ちょっとおおお! ニアさん! 語弊がだいぶありますっ!」
「あら、ミュリナさんったら。わたくしもうミュリナさんの体を隅々まで触ったことがございますのよ」
「「隅々まで……っ!?」」
「ええ、普段では絶対に見せないようなミュリナさんの秘密の花園の形もしっかりと思えておりますわ」
レベルカさんとメイリスさんの黄色い声が飛ぶ。
「ちょおおおお、ニアさん!」
「そ、そんな嘘だわっ」
「そうよ! ミュ、ミュリナが、そんなことするなんてっ!」
「嘘ではございませんわ。ねえミュリナさん」
私の肩を後ろから抱いて来る。
「い、いや、ここで私に振られても……」
「わたくし、隅々まであなたの体を撫でまわしてあなたの甘い吐息を聞いて。あぁ、今でももう一度試したいくらいですわ! 今晩やりましょう、ミュリナさん!」
「白昼堂々、教室のど真ん中で恥ずかしいことを言わないで下さい! いちおうあなたは元公爵令嬢なんですよ!」
「むしろ今は肩の荷が下りてすごく自由な気分ですわ。こうして好きな人の傍にもいれるわけですし」
ほっぺを腕にぐりぐり押し付けてくる。
「ニア……。あんた変わったわね」
「そうですわね。正直に申しますけど、わたくしミュリナさんに惚れてしまいましたわ」
「知ってる。なんていうか……ミュリナって女たらしよね」
「え゛!? な゛、なんでそんな話になるんですかっ」
「だってそうじゃない。あんたの周りにいる女子はどんどんあんたに落とされていくわけだし。まあ、今時同性愛なんて珍しくもないけどね」
そういうものなのだろうか。
「あっ、そうそう。ミュリナさんったらとんだエロ娘さんなんですのよ。学園でもわたくしたちクラスメイトのあられもない姿を想像されていて――」
「わー!!! ダメ! 言っちゃダメ!」
「どうしてですの? 別にいいじゃないですか」
「だ、だってぇ~」
小さくなる私に対し、メイリスさんとレベルカさんが身を乗り出す。
「一体何の話?」
「詳しく教えて下さい」
その後、アルベルトさんとミナトさんに関する恥ずかしい勘違い暴露され、私はひたすらに顔を赤くすることとなるのであった。
*
「えっと、そしたら次は魔力の練り方に関する基礎を――」
最近、私は暇があればエルナ、レベルカさん、ニアさんの三人に魔法の特訓をつけている。
レベルカさんとニアさんは一時的に魔適合物を体内に取り込んだことで特殊な能力を授かっており、魔力も大幅に向上している。
むろん魔適合物を使った行為そのものはあまり褒められたものではないが、おかげで二人とも戦闘力が飛躍的に向上しているのだ。
とくにニアさんは、一度は諦めていた勇者一行を再び目指すきっかけにもなっており、精神的にもだいぶプラスにはたらいている。
「レベルカさんは環境系統の能力でしたっけ?」
「ええ。元々他人の無意識を操作するスキルを持っていたのもあるけど、魔適合物を取り込んでからはかなりいろんなことができるようになっているわ。周囲の背景と同化して姿を消したり、周り全部をマグマにしたり、あとは天候を操作したりもできるの」
「レアですね。環境魔法って空間魔法なみにレアらしいですよ」
「でもミュリナさんは両方使えるんでしょう?」
「え、ええ。まあ」
レベルカさんにジト目を返されてしまう。
「え、ええっと! ニアさんは身体強化系でしたっけ?!」
「ええ、体を粘性体に変えたり触手を生やしたりできますわ。ミュリナさんが興味津々な男性器も恐らく生やせますわよ」
「なっ! きょ、興味ないですって!」
「あら、そのようなことないでしょう? あれほどまでに妄想が得意なのですから」
「ち、違いますって!」
全力で否定しておく。
「むぅぅ。ミュリナがレベルカさんやニアさんとばっか話してつまんない。あたしの嫁なのに」
「ちょっとエルナ、変なこと言わない」
「だってだってぇ~」
と三人がわちゃわちゃとしだして訓練が疎かになっていく。
「こらっ、集中! 訓練中は気を散らさない!」
「「「はーい」」」
そんな風に訓練を継続していると、家の来訪を告げる魔導ベルの音が響いた。
三人にはそのまま訓練を続けさせ、私の方で対応を行う。
来客なんて珍しなと思いながら扉を開くと、そこには金の刺繍が入った純白の修道服を着る美しい少女が立っていた。
少女は私のことを確認するように眺めたのち、その目に涙を浮かべていく。
「え……? あ、えっと、え? どうされたんですか?」
「やっと、やっと見つけました」
そう述べながら少女は顔を高揚させていく。
そして、こんなことを言ってくるのだった。
「我らが教祖様。何卒、我らに教えを賜り下さい」
「…………は?」
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