第54話 二人の関係は?

 しばらく待っていて、さすがに暇だったので、すぐ前に見えている中庭へと出る。

 ニアさんがお父さんといる部屋を常に視界へと入れながら、舞踏会場にはこんな綺麗な場所もあるんだなと気を休めることに。

 すると、アルベルトさんもちょうど中庭へと入って来るのだった。


「えっと、ア、アルベルトさん、ですよね? こんにちは」


 ヤバい。

 ほとんど初対面だから緊張する。


「ああ、ミュリナか。ニア待ちか?」

「え、ええ。そ、そちらの部屋で、お、お父さんとお話しされているようで」

「そうか。ニアの彼女というのも大変だな。それとも彼氏か?」

「え゛!? えと、それは……」

「まあ、ミュリナはどちらかというと彼女っぽいよな」


 なんて具合にからかわれてしまう。


「ア、アルベルトさんこそ、ミナトさんのことが大切なんですか?」

「……あいつの事、気付いたのか?」

「え、ええ。まあ」


 気付いたというか本人が言っていたというか。

 まさかこの人にも男色があったとは。


「んま、やっぱ勇者学園の生徒なら気付くよな。彼が大切か大切じゃないかで言ったら、当然大切に決まっているだろう。四六時中一緒にいるしな」


 やっぱり、二人ってそういう関係なんだ。

 一部の女性にはきっと大ウケすることであろう。

 なにせ二人とも超美形なのだから。


「当然ではあるが、あいつと出会ったころ、ミナトは右も左もわからない様子でな。ほとんどを俺が手取り足取り教えてやったんだぜ?」

「て、手取り足取り……!?」


 図らずして、アルベルトさんがミナトさんに手取り足取り教えているピンク色の世界を妄想してしまう。


「そうさ。こっち側のことは何もわかってなかったからな」

「こっち側って、そっちの側のことですよね」

「ん? あ、ああ。向こうの世界じゃ棒すら持ったことがなかったらしいぜ」


 棒!!? 男性の棒って言ったら一本しかないじゃん!

 たぶん隠語だけどほとんど隠語になってないっ!


「そんなあいつも今では立派な剣を持つようになったもんだ」

「り、立派、なんですね」

「ああ、よく訓練をするんだが、あいつもかなり腕をあげてきていてな。あいつの剣は見た目以上に力強いんだ。たまに怪我してしまうこともある」

「怪我!? い、一体どんな訓練をしてるんですか! というか訓練するものなんですか!?」


 聞きたくないけど聞いてみたい。


「まあ簡単なので言うと、剣と剣での打ち合いとかだな」

「打ち合い!!? 痛くないんですか!?」

「え? いや、まあ痛いときもあるが、そりゃ仕方ないんじゃないか。訓練なんだし」


 うわぁ……。

 思わずその光景を妄想してしまう。

 男性の世界って大変なんだなぁ……。


「俺は何だかんだ何度も本番をしたことがあるからな」

「本番!!」

「あ、ああ。そんなに驚くことか? あれはあれでかなり辛い。できることならミナトにはあまり辛い思いをさせたくない」


 てっきり二人とも気持ちいいものなのかと思っていたが、なんだか想像してたのとはだいぶ違いそうだ。

 次々と明らかになる新事実に心臓をバクバクさせてしまう。


「そういえば、ミュリナは勇者学園の生徒なんだろう? どうだ、俺と訓練してみないか?」

「ええ!? 嫌ですよ! 何言ってんですか!」

「そう邪険にしないでくれ。騎士団長と言ったって、俺も常に新たな世界を求めてるんだ」


 何言ってんのこの人。

 普通に変態じゃん。

 顔を歪めながら、自然と彼との距離を開けていく。


「? ずいぶん驚いた顔をしているな」

「え、ええまあ。内容が内容だけに……」

「まあそれはさておき、ミュリナもあいつのことを少しは気遣ってやってくれ。なんなら手伝ってくれてもいいぞ」

「嫌ですよ!」

「そう言えば、昨日街中を歩いてただろ? その時、偶然ミュリナのことを見つけていてな。ミナトの奴、お前のことを見つめてたぜ?」

「み、見つめてた?」

「ああ、俺の見立てだが、たぶんミナトはお前のことが気になっているな」

「はあ!?」


 いやいや! さっき恋敵宣言をされたばかりだし、そもそもミナトさんって男性が主なターゲットなんじゃないの!?

 なんて思っているのも束の間、アルベルトさんがこちらに顔を近づけてくる。


「で?! どうなんだ?! ニアとミナト、お前的にはどっちがいいんだ!?」

「いやいやいや! なんでそんな話になるんですか!」


 そもそも二人は性別が違うじゃないか。

 どうもここらへんは私と感覚が違うのだが、同性愛って普通のことなの!?


「なんだ隠すなよ」

「べ、べつにどちらも――あっ、じゃなくて、ニアさんが好きに決まってるじゃないですか!」

「ふーん。好きなやつって聞かれて、パッと頭に思い浮かぶのがやっぱりニアなのか?」

「え、ええ、まあ……」


 なんて歯切れの悪い返事をすることに。

 ちなみに、パッと思い浮かんだのはタカネさんの顔であった。

 雄々しさを持つという観点は魅力的だか――、よく考えたら彼女は暴力的だし言動も乱雑だし、おまけにすぐ手が出る。

 しまいにはぶっ殺すそとか叩き切んぞとか言ってくる始末だ。

 うん、ないな。


「というかあなた、ほとんど私と初対面なのにそんなこと聞いてこないで下さいよ。失礼です!」

「はっはっはっ! すまんすまん! あのミナトが興味を持つ女性ってだけで、俺からすると気になってしまってな」


 うーん、そういう問題じゃない気がするんだが……。


「まあなんにしても、仲良くしてやってくれ」

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