第40話 次なる事件
事件が起きた、次の日。
学校はいつも通りに再開し、不安を抱える中での授業が再開した。
何となく身の入らない午前中が過ぎて、ようやくの昼休憩に少しだけ気を抜くことができる。
「ミュリナ、お昼食べよー」「ミュリナさん、お昼を食べましょう」
なぜなら、この二人から同時に昼を誘われて、またいつものいがみ合いを始めたからであった。
メイリスさんとレベルカさんの三人で食堂へと移動して昼食を始める。
ちなみに、私とレベルカさんはエルナのつくったお弁当で、メイリスさんは専属シェフの料理だ。
私たちもシェフを雇えば厨房を使って料理を出してくれるのだが、そんなお金があるわけもない。
「昨日はどうだった? やっぱり大変だった?」
「とっても疲れましたよぉ。同じ話を何人にもして、いろんなところに連れていかれて……」
「でも拘束されなくてよかったわね。警備隊に捕まったら大変よ」
「そうなんですか?」
「警備隊にもメンツってもんがあるからね。捕まえた以上、犯人であってほしいってのもあるみたいで、自白を強要されたりするわ」
「うわぁ……。やっぱり大声出されたりとか机を叩かれたりとかですか?」
「そんなの可愛い方よ。聞いた中で一番酷いのは、興奮作用とか媚薬作用のある食事を取らされて、喋るまで拘束され続けたとかね。けっこう辛いそうよ」
「び、媚薬!? ですか?」
「要は正常な思考をさせなくするって方法ね。拷問手法の一つよ」
いずれにしてもその手法自体が違法な気がするが……。
「ミュリナさん、私と一緒に媚薬の耐性訓練でもする? な、なんなら、そのあとそのまま――」
「はぁ?!」
レベルカさんがモジモジしながらそんなことを言ってきた。
なんかレベルカさんがどんどん過激になっている気がする……。
昨日も勝手に私と付き合っているとか言い出すし。
「あんたら、あたしの前でイチャイチャしないでほしいんだけど」
「どちらかというと、メイリス様に見せつけるという方が正確です」
「なお悪いわっ!」
そもそも付き合ってすらいないんだけどなぁ、なんて私の言葉は風に溶けてしまい。
昨日の事件や取り調べがどうだったとか犯人がどうだとかの雑談をご飯を食べながら続ける。
「あ、そういえば私、教員室に寄らなければならないので、先に教室に帰っててください」
「わかったわ。また後でね」
二人を見送り、廊下を歩いていく。
今回の事件で提出しなければならない書類がけっこうたくさんあり、その準備のために教員のところにいかなければならない。
なんとも面倒なことに巻き込まれてしまったなと思いながら、角を曲がったあたりで違和感を覚えた。
あれ……。
ここの廊下って、こんなに人がいない場所だったっけ?
今は昼休憩の時間で生徒たちは比較的教室外にいるものだ。
なのに、少なくとも視界には人が一人もいない。
それに、何かの気配のようなものを感じる……。
「【ナロウソナー】」
瞬時に危険を察知して局所探査魔法を発動してみるも、周囲に何も発見できない。
……いや、微弱な魔力変化がある。
隠蔽魔法は物や人への認識を消すことはできても、物や人における魔力の流れまでを変えることはできない。
なにかそれに似たような変化があるのだが、正体を掴み切れずにいる。
「どこ!? どこにいるの!?」
かなりの使い手のようで、完璧には相手の気配を追い切れない。
それを追いかけて廊下を曲がった先でまたも倒れている人を発見した。
腹部を刺された女性が倒れている。
たしか、ニアさんの派閥にいた人だ。
「なっ! 大丈夫ですか!?」
「うぅ、ぐぅ……」
刺され方からして、背後から逆手に持ったナイフで一突き。
でも、これなら治療魔法で治せる。
「頑張って、今、治しますから」
涙ながらに頷くのを見て、ゆっくりとナイフを引き抜く。
うめき声と血液が溢れてくる中で治療魔法を施していき、傷口を塞いでいく。
「一体誰がこんなことを……」
学内でしかも昼間の時間に堂々と犯行が行われているのが一番の気掛かりだ。
相手はよほど自分の隠密能力に自信があると見える。
「動くな!」
なんて思っているのも束の間、複数の者たちが武器を掲げながら私たちを取り囲んでいく。
声を発したのは、この前まで気さくに私へと挨拶をしてくれていた実力派閥のトップであった。
「現行犯だ。ミュリナ・ミハルド、傷害罪で逮捕する」
「なっ! ちょ、ちょっと待って下さい、サイオンさん。私も今ここを通りかかって、彼女の治療をしていたんです」
「いや、君が犯人だな。君以外にあり得ない」
「そんなっ!」
「僕は君のことを密かに監視していたんだ。学内は常に見張らせてある。この廊下を君以外に出入りした者はいないそうだ」
「待って下さい! 先ほど探査魔法を使ったら、魔力の違和感がありました。隠密能力に長けた方がこの犯行をしていはずです」
「さてそれはどうかな。捕まえてみればわかることだ」
サイオンさんとその派閥の人たちが迫る。
「待ちなさい!」
もうダメだと思ったところで、メイリスさんの声が響いた。
隣にはレベルカさんもいる。
「サイオン、何をやっているの!?」
「ミュリナさんが、そこにいるセナ・クラードを背後から刺した。それを現行犯逮捕したまでだ」
「刺したですって?」
メイリスさんたちが近づいてきて、彼女の容態を見る。
「……治療されているわ」
「たぶん、僕に見つかったから大急ぎで治療したんだろう。言い逃れのためにね」
「ミュリナはさっきまで私たちと食事をしていたのよ。どうやってセナを狙うの? ずっとつけていたならまだしも、偶然にもほどがあるわ」
「無差別に生徒を狙った犯行かもしれない。この廊下は僕の派閥の者が見張っていた。二人以外に出入りした者はいない」
「あなたやあなたの派閥の者が犯人ではないという証拠は?」
「必ず二人一組にしていた」
「でも身内みたいなものでしょう? それにニアの派閥とは敵対していたじゃない。あなたが過激な手段に出ても不思議はない。第一、あなたが言っていることは間接証拠のみでミュリナが犯人だという直接的な証拠は一つもないわ」
しばらくの睨み合いが続き、やがてサイオンさんの方が折れる。
「ふんっ。行くぞ」
そう述べて、彼らは退散していくのだった。
案外すんなり引いていくものだ。
あるいは弁舌が尽くされたということであろうか。
「ミュリナ、大丈夫?」
「はい。メイリスさん、助かりました。でも、どうしてこちらに? 教室に戻ったのでは?」
「彼女がね」
そう言いがら、レベルカさんの方を指す。
「派閥の者がただならぬ雰囲気でしたので、何かあると思って……」
「そうだったんですね」
「しっかし、サイオンの野郎、ちょっと前までミュリナのことを狙ってたくせに、今はミュリナを目の仇にしてるじゃない。そんなにレベルカのことが大切だったのかしら」
え?
ちょっと待って、私サイオンさんに狙われてたの??
というかそもそも――、
「あ、あの、私、そもそもレベルカさんを取ったりした覚えがないんですけど……」
「私は取られた覚えがあります」
なんてレベルカさんはまたも腕にべったりとくっついてきた。
メイリスさんはそれを面倒くさ気に無視してくる。
「とりあえず警備隊と教師に報告しましょう。今日もまた殺人未遂ね……。授業がなくなりそうだわ」
昨日と同じように各所へと説明を行う必要が出て、結局この日も何もすることができなかった。
おまけに早く事件が終わりを迎えて欲しいと思っていたのに、そこから一週間、私は第一発見者にこそならなかったものの、この生徒を狙った傷害事件が毎日起こることとなってしまうのだった。
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