第39話 学園事件
次の朝、学園へレベルカさんと二人で登校すると、サイオンさんが敵意を剥き出しにしながらこちらへとやってきた。
「ミュリナさん、やってくれるね。今のところはすべて君の手の内だか、レベルカは必ず返してもらう。首を洗って待っておけ」
「……え?」
ぽかんとした表情を返してしまうも、彼はそのままいってしまった。
いやいや、え?
どゆこと? レベルカさんを返す?
なぜに? 取ってないんだけど……。
「ミュリナ……。あんたもしかして、サイオンからその子を奪ったの?」
メイリスさんからも横からそんなことを言われてしまう。
「えっと、いえ、そんなことは――」
「はい、そうです。昨日からミュリナさんとお付き合いしてます」
「へ?」「はぁ!?」
レベルカさんの意味不明な発言に、私の頭は真っ白になってしまう。
「えええええ!?」
「ちょっ! ちょっとミュリナ!? どうゆうこと!? 説明しなさい!」
「いやいやいや、私だってわけが――」
レベルカさんが私の腕に抱きついてきて発言を遮る。
「説明するまでもないですよ。私がミュリナさんを選んで、ミュリナさんが私を選んだってだけです。同棲も始めたわけですし」
「同棲!?」
メイリスさんがワナワナと震えながら私の肩を掴んでくる。
「ミュ、ミュリナ、それってホントなの?」
「え、あっ、同棲を始めたのは本当ですが、付き合ってるなんてつもりは……」
メイリスさんが膝から崩れ落ちてしまう。
「そんなのもう付き合ってるも同然じゃないのよ!」
「えええ!? そうなんですか!?」
「そうに決まってんでしょうが! 若い乙女が二人で一つ屋根の下にいたら間違いが起こるに決まってんでしょうが!」
そんなわけないだろうと思っていたのに、レベルカさんまでもがまんざらでもないという顔をしていた。
ええええ!?
そういうものなの!?
というかサイオンさんといろいろあったからしばらくうちに来させてくれって話じゃなかったっけ!?
「ミュ、ミュリナさん?」
「ひゃい!?」
「私じゃ、嫌?」
モジモジしながらそんなことを。
「あぅぅぅ、か、考えさせて下さいぃ〜っ」
思考すらままならなくなった私は、一旦その場からダッシュでその場を逃げるという選択をするのだった。
*
ううう、なんでこんなことになってるの?
やっぱ私モテ期なのかな。
しかも女性にばっかりモテてる……。
特段それに拒絶感があるというわけでもないが、同性というのを想像してこなかったため、戸惑っているのも確かだ。
思わず教室を飛び出してしまったが、まもなく一限が始まるので、仕方はなしに廊下を大回りして教室へと戻る。
だが、折り返し地点に来た辺りで違和感を覚えた。
なに……?
なにか、変だわ。
周囲の魔力がおかしい。
それに異臭がする。
これ……血の匂い!?
大急ぎで廊下を進んでいくと、曲がった先で人が倒れているのを発見した。
血の池に沈んでおり、微動だにしていない。
「!? 大丈夫ですか!」
その人の元へと駆け寄って様態を確認する。
背中を短剣で刺されており、すでに息をしていない。
だが、今刺されたばかりなのか、体はまだ暖かかった。
「そん、な……どういうこと……?」
剣を引き抜いてすぐさま治療魔法をかけていく。
「ミュリナさん! どうしたの!?」
レベルカさんが私を追いかけて来たのか、こちらへとやってきた。
「わからないわ。この人が刺されていたの。治療を手伝って」
容態を確認し、レベルカさんの表情が曇る。
「で、でも、心臓を刺されているわ」
「これぐらい助けられる! 手を貸して!」
そう叫んで回復に専念する。
私は一度、魔物との戦闘で自分の腕がもげてしまったことがある。
それでも何とか治療をすることができた。
心臓を刺されたくらいで諦めたりはしない。
しばらくの介抱が続き、彼は何とか一命を取り留める。
「はぁ……。危機を脱したけど、まだ予断を許さないわ」
「ええ。でも、どうして。学内でこんな殺人まがいのことが……」
騒ぎを聞きつけた教師やら生徒やらが集まって来て、その後は目まぐるしく事態が進展していった。
先生に事情を説明して、警備隊がやってきて同じ説明をして。
当然今日の授業はなくなってしまい、第一発見者である私はいろいろなところへの説明に回らなければならなかった。
その最後に話す相手となったのはベルメイア学園長である。
学園長は口ひげをたっぷりと生やしたジェントルマンのような方で、礼儀正しくこちらへと挨拶をするとまずは紅茶を進めてくれるのだった。
「今回は災難でしたな。ミュリナ君」
「い、いえ、たくさんの方が弁護をしてくださいましたので、助かりました」
当初、私は第一発見者でしかもあの場所を歩いていたのが不自然だということで犯人にされそうになった。
だが、犯行に使われたナイフが私のものではなく、しかもあの場にいた理由をメイリスさんやレベルカさんが証言してくれたため事なきを得た。
「君のおかげで生徒の一人が一命を取り留めることができた。誠に感謝している」
「助かったようでよかったです。私も必死でしたので」
「……被害に遭ったのは知っての通り、サイオン・レイミル君の派閥に属する者だ。何度も聞かれたかもしれないが被害者との面識は?」
「挨拶を交わす程度にしか……」
「ふむ。実は、今回の件で多くの憶測が生徒たちの間で飛び交っておる」
「憶測……ですか?」
「知っての通り、勇者学園における競争は熾烈だ。有力者たちは自身の派閥をつくって団体でこれに臨んでくる。そんな中でも、今回の件は君とサイオン君の派閥争いが事の発端だとか」
え? 何それ……?
「ちょっと待って下さい! 私、そもそもサイオンさんと争ってなんていませんし、それに私は自分の派閥なんてものを持った覚えもありません」
「最近いざこざがあったという話も嘘だと?」
「私とサイオンさんとの間では何もありません」
しばらく学園長は考え込んだ後、納得してくれたようだった。
「ふむ。そうか。いや、本当にすまない。過去にも派閥争いが原因で生徒同士の暗殺合戦になってしまったことがあってね。将来的に魔族を相手にする以上、卑怯な手段も含めて学園で競争すること自体は大いに結構だと考えている。だが、それが行き過ぎた事態を招くことは防がなければならないとも感じているのだ。わかってくれ」
その言葉だけ送られて、私は退席することとなった。
何が起きているのだろうか。
これは誰かと誰かの派閥争い?
けど、私からすると誰もそれをしそうには思えない。
そんなモヤモヤとした思いを抱きながら、この日は帰っていった。
しかし、その不安をさらに拡大させるかのごとく、事件が立て続けに起こっていくのだった。
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