第41話 拘留
勇者学園では毎日のように生徒が襲撃され、すでに九名もの負傷者を出していた。
幸いにも死者は一人も出ていないのだが、事態を重く受け止めたベルメイア学園長は学園に警備隊の派兵を決定し、緊急事態宣言が発されることとなった。
また、学生たちには貴族が多いため、個々の勢力が保有する騎士団や兵士団の随意に用兵してよいとのことである。
「期末試験ができるか、微妙なところね」
そんな中、私は二回も第一発見者になったという経緯からメイリスさん、レベルカさんと行動を共にしていることが多かった。
二人は最初こそいがみ合っていたが、今では普通に話してくれるようになっている。
「やらないという可能性もあるんでしょうか?」
「こう事件が立て続けに起こってると、さすがにできないでしょ。まだ入院してる人だっているわけだし」
「しかし、どうして犯人は捕まらないんでしょうね」
「よほど隠密が得意と見えるわ。ミュリナの魔法すらも欺いているから、何か特殊な技術を使っているに違いない」
私が基準でいいのだろうか……。
そんなことを思っているところに、ニアさんがやってきた。
「ミュリナさん、少しよろしくて?」
メイリスさんたちはニアさんに対して警戒こそしているが、話はさせてくれるようだ。
「今回の事件について、わたくしなりの考察を少しお話したいと思っておりますの」
「考察、ですか?」
「はい。今回の件、結論から申し上げると、何者かがあなたに罪を着せようと画策されております」
罪を……?
「ど、どういうことでしょうか?」
「今までの被害者はいずれも次の期末テストの団体戦で有力チームとされるチームのメンバーです。ミュリナさん、あなたは今回レベルカさんとの二人チームで臨もうとされているのでしょう? 今回の被害者はあなたにとって都合の良い方ばかりなのです」
「……つまり、私がこの犯行を仕組んでいるかのように見せかけている事件、というわけでしょうか」
ニアさんが頷く。
「わたくしの得た情報では、警備隊や学園側もその線で捜査を進めているそうです。ミュリナさん、次何かあったら問答無用で逃げなさい。でなければあなたは捕まることになりますわ」
「で、でも、私違います。犯人じゃないです」
「今の状況はミュリナさんが犯人であるかどうかはあまり関係ないです」
その言葉を言われて、思わず眉をひそめてしまう。
「関係ないってどういうことですか?」
「今この街の住人は大きな不安に包まれています。警備隊もとりあえず住民を安心させるためにも可能性の高い容疑者を逮捕してしまいたいと思っていることでしょう。加えて、犯人の目的がもしミュリナさんを貶めることであれば、あなたが逮捕された段階で目的は達されます。警備隊の思惑すらも犯人の狙いなのではとわたくしは睨んでおります」
「そんな……」
「いずれにしても、誰かと一緒にいる時間を増やすことをお勧め致します。一人で行動するほどリスクが高まる一方、誰かと一緒であればあなたが犯人ではないとわかりますので」
「ニアさんは私を疑わないんですか?」
「あなたがそのようなことするはずがないでしょう」
それだけ述べて、ニアさんは行ってしまうのだった。
「そういうことね。私たちと可能な限り一緒に行動しましょ」
「ミュリナさんにくっついていれば問題ないというわけですね」
メイリスさんとレベルカさんが両サイドから腕にがっちりとくっついてくる。
「あの……。しがみつく必要性はないと思うのですが……」
この日はトイレに行くのも二人に付き添われ、個室にまでいれろと言われて大変だった。
さすがにトイレはお互い嫌でしょ……。
おまけに夜、寝る時間になったころには、
「ミュリナさん、一緒のベッドで寝ましょうか」
なんてレベルカさんが言ってきた。
過敏になり過ぎな気はするが、この日は仕方なく彼女と一緒に寝ることにした。
*
次の日、学園は立て続けに起こる事件を理由に休校となってしまったため、私たちは三人でお出かけをすることにした。
今までの事件はすべて学内で起こっていたため、学外であれば問題ないだろうという判断からだ。
ちなみに、気にしないようにしていたのだが、二日目にサイオンさんたちに囲まれて以降、何となく彼らの監視の目がついていることは気付いている。
「今日もクシャール行く?」
「あー……。あの、私にはちょっとあそこは高過ぎて買えないというか、なんというか……」
「じゃあウインドウショッピングにしましょう」
三人してミストカーナの街に繰り出していく。
ちなみにエルナも誘ったのだが、家にいたいとのことで彼女は出掛けなかった。
学校ではいつ殺人鬼に出くわすかわからない緊張感があったため、こうして羽を伸ばせるのは精神的に休まる。
「あ、そう言えば、ちょっとペルンバで買っておくものあるから、待っててくれる?」
「わかりました~」
「レベルカ、ミュリナと二人っきりだからって変なことしないでよ?」
「外じゃしませんよ」
逆に屋内だったら変なことする気なの!?
ぎょっとしながらメイリスさんを見送り、二人で駄弁っていたのだが――、
またもあの違和感が漂い始めた。
周囲の魔素がおかしい。
何か異常なことが起こっている。
「!? 何?! レベルカさん!」
「ええ、なにか変だわ!」
「あれ……人が……?」
あれほど多くの人が通りにはいたというのに、なぜだか一人もいなくなっている。
何かあったら自分が守ろうとレベルカさんをできる限り背中の方へと隠していく。
「どうして!? 一体何が――」
「がぁっぁ……っ!」
「え?」
うめき声が聞こえたと思って振り返ったら、もうそこにはフードを被った人物が立っており、レベルカさんの腹部に短剣を突き立てていた。
「レベルカさん!!」
崩れ落ちる彼女を支えながら、短剣が刺さったままの傷口を押さえる。
犯人はすぐさま逃走を開始していた。
「待て! 逃げるな! 【ホールドクラスト】」
拘束魔法を放つも、その魔法はするりと犯人をすり抜けてしまった。
魔法のすり抜け!?
どういうこと!?
混乱気味になりながらも、レベルカさんの治療に専念する。
「レベルカさん、治療のために剣を抜くけど、我慢してね」
「ぅ、ぅん」
痛みにまみれたうめき声を聞きながら、なんとか剣を引き抜いて治療魔法を施していく。
「レベルカ!?」「レベルカさん!」
必死に治療を施していると、別々の二方から声がかかった。
一方は買い物をしていたはずのメイリスさんで、もう一方は恐らく私を監視していたであろうサイオンさん本人であった。
二人とも彼女を心配して走り寄って来る。
とくに、サイオンさんは酷く狼狽しているような様子であった。
「レベルカ、レベルカ大丈夫なのか!? レベルカ!」
「サイオン……様、大丈夫……です……」
「ミュリナ・ミハルド! お前がやったのか!」
「ちょっと待って下さい! 私じゃありません! 先ほど犯人を見ました。フードで顔を隠した者があちらへ逃げて行っています!」
「そんなはずない! 周囲は僕の仲間たちに見張らせてある! すぐにわかることだ!」
レベルカさんがサイオンさんの手を取る。
「サイオン、様。彼女じゃ、ありません。私は、別の者に、刺されました」
「レベルカ……。だが……」
サイオンさんが顔を伏せてしまう。
「サイオン、お仲間たちから情報を集めて。もしミュリナの言っていることが本当なら、犯人を見た人がいるはずよ」
メイリスさんの言葉に、サイオンさん舌打ちをして、仲間たちを呼ぶ。
その間、私は治療魔法に専念することでなんとかレベルカさんの傷を塞ぐのだった。
*
「それで? あんたんとこのは誰も見てないの?」
「ああ。犯人はおろか、レベルカが刺される前にはここに誰も出入りしていない」
「誰も……? そんなはずないでしょう? 大通りじゃないにしても真昼間の商店が並ぶ通りよ」
今も多くの人が通りを行き交っていて、血痕の残るこちらを何事かと眺めている。
「ミュリナを犯人にするために嘘をついているんじゃないでしょうね?」
「本当だ。嘘をついたって仕方がないだろう」
メイリスさんが今度はこちらに問いかけてくる。
「ミュリナ、犯人の特徴は?」
「フードを被っていて顔は見えませんでした。背格好は私より少し背が高いくらいです。あと、拘束魔法を放ったんですが、すり抜けられました」
「すり抜けって?」
「言葉通りです。拘束魔法は弱ってない相手であれば簡単に逃れることができます。ですが、今回の相手はそれ以前に相手を触っている感じがしなかったんです」
「触っている感じがしない?」
「つまり、非実体の相手なのではないでしょうか」
「非実体ねぇ……。そんなことってあるの」
「あります。アストラル系統の魔法には自身の身体を非実体化する魔法があります。私の魔法探査に引っ掛かりにくかったのも説明がつきますし、もしかしたら透明化の付与とかもされたら目視では発見できません」
メイリスさんが考え込むと、今度はサイオンさんが口を開く。
「現実的に考えて、その犯人というのは君なんじゃないのか?」
「え? なんでですか! わたし、レベルカさんを刺したりしません!」
「そういう意味じゃない。そのアストラル系統の魔法というのはあまり知られていない魔法だ。使える者がいれば僕の人材情報網に引っ掛かると思う。だが、僕の知る限りその魔法は君から初めて聞いた」
待ってよ、とメイリスさんが突っかかる。
「ミュリナがもし犯人なら、そんな重要情報をここで漏らす方が変じゃない」
「そうだが、じゃあ一体誰が犯人だっていうんだ」
「まだ現状だと結論は出せないわ」
そんな議論をしているところに、ようやく警備隊が到着した。
前回同様、各署へ説明しなきゃいけないのか……。
なんて呑気に思っていたら、警備隊の人たちが私の両腕を掴んでくる。
「ミュリナ・ミハルド。三回目の第一発見者ということで、重要参考人としてこのまま拘束。拘置所まで連行する」
「……え?」
思ってもみなかった事態にぽかんとしてしまいながら、私は拘置所へと連行されることとなった。
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