第11話 入学試験
十日ほどの馬車旅を経て、ようやく目的となるミストカーナが見えてくる。
立派な外壁の中には、お城のようなものも見えるが、あれが勇者学園であろうか。
見ているだけでワクワクしてしまう。
ちなみに勇者学園は今の時期だけ勇者随伴の仲間を選抜する学園となる。
普段は騎士養成所となっているらしい。
二人旅に不安はあったが、メイリスさんはとてもいい人であったため、十日間を共に過ごすことでだいぶ打ち解けることもできた。
「ミュリナ、見て!」
「うわぁ、綺麗ですねぇ」
「ようやくミストカーナにまで来れたわね! 受験までまだ数日あるわ。それまでに街を見て回りましょう」
街へと到着し、二人してまずは受験に関わる掲示板を見に行く。
そこには十日後までにススリナ草とゼンベガの角を持参して、西区の学園所有の建物に来るようにと記載されていた。
「さしずめ受験のための前提クエストといったところね。この程度も集められないようだと受験すらさせてもらえないのね。ただ、……それにしても簡単な内容ね」
たしかに、内容としては簡単すぎる。
と思っていたところ、ふと、その掲示板の隣の掲示板に目が行ってしまった。
何も書かれていないまっさらな掲示板だが、そこにはわずかに魔法の痕跡がある。
「ん? 【オブザーベイション】」
ためしに観察魔法を使ってみたところ、魔法による文字が書かれているのを発見する。
「メイリスさん、観察魔法って使えますか?」
「え、ええ」
空白の掲示板を指さすことで、彼女もそこに何が書かれているかを察する。
『真 勇者学園の受験要項 神無月の12日の正午の鐘が鳴り終わるまでに、東区の学園所有の倉庫に来るように』
「神無月の12日って、明日じゃない! ってことはあっちの普通に書かれている掲示は――」
「ダ、ダミーってことでしょうか……」
「たぶんそうだと思うわ。魔法文字の方が悪戯なら教師たちにすぐ見つかって消されるだろうし」
この程度の魔力痕跡も追えなければ、勇者学園を受験する資格すらもらえないというわけか。
「はぁ……助かったわ、ミュリナ。私だったら見落としてたかも」
「い、いえいえ、ぐ、偶然です」
「そしたら、いちおう会場の場所だけ確認しておいて、今日はしっかり休んどこっか」
「はいっ」
そのあと、宿を取って念のため会場の場所だけ確認し、その日はしっかりと休むことにした。
次の日、二人して試験会場へと向かっていく。
入場の際には試験番号札を配られ、それがそのまま受験番号となるらしい。
私の番号は987番で、会場にはすでにたくさんの人が集まっていた。
やはりこちらが本物の試験場で間違いないようだ。
正午の鐘が鳴り終わるのと同時に建物の門は閉ざされ、一段高くなっている台座に試験官と思われる人が登る。
「皆さん、念のための確認となります。本会場は勇者学園への受験を希望される方の会場となります。万が一間違われた方は直ちにご退場下さい。試験では殺し合いに類する内容も執り行う予定です。怪我をしたり障碍をおったり、下手をすると死ぬこともありますので、生半可な心持ちで来られている方も、今すぐお帰り頂きますよう、よろしくお願いします」
死ぬこともあるんだ……。
ちょっとだけ怖がってしまうも、せっかくここまで来たのだ。
勇者一行は百年に一度しかなれない。
ならば、ここで引き返すなんて選択肢はない。
「ミュリナ、覚悟はいい?」
「もちろんです。頑張ります」
「ふふっ、いい心掛けね。けど、試験中はたぶん一緒に行動できなくなるわよ」
「受験生同士ライバルですもんね。わかってます」
「お互い頑張りましょう、片方だけ受かってもお互い恨みっこなしよ」
「はいっ!」
試験官が説明を始める。
「それでは、第一次試験は基礎能力を試す試験となります。その名も――」
息を呑む。
「鬼ごっこ! です!」
「……へ?」
鬼ごっこ?
鬼ごっこって……、あの鬼ごっこ?
私は実家で冷遇されていたためやったことはないが、幼いころの兄弟がやっていたのを見た覚えがある。
「ルールは簡単。この会場にいる受験生は鬼でもあり子でもある。すなわち、誰でもいいので受験生の番号札を一つ奪って来てください。三日後、正午の鐘が鳴る一時間前にこの建物の門を開けます。鐘が鳴り終わる前までに自分の札と他人の札を持った状態でこの会場に来て下されば第一次試験は合格となります」
なるほど。
自分の受験番号札を守りながら、相手の番号を奪うと。
「ただし、この会場の敷地内において戦闘、盗みを行った場合には即座に失格となります。また、受験生と誤って一般市民を恐喝したり攻撃した場合も失格となりますのでご注意ください。鬼ごっこの範囲はこの街の外壁内。その番号札は魔法により生成されたもので、ミストカーナの外に出た段階で自動的に消失しますのでお気をつけください」
それでか。
この番号札から魔法的な因子を感じるのは気になっていたところだ。
「相手が受験生であれば、どれだけ攻撃しても構いません。ただし、相手を死亡させてしまった場合のみ不合格となりますのでご注意ください」
この試験は勇者学園に入れるか入れないかを決める大切なものなのだ。
勇者学園は魔族と人族の戦いにおける重要な戦力を選別するための場所。
想定はしていたが、やはり人間を相手に戦うことも覚悟しておかなければならない。
「一次試験の開始時間は今より一時間後。むろんのこと、開始前に相手の番号札を奪う行為は禁止です。それではみなさん、この会場は間もなく閉門となりますのですぐに退場していただきますよう、よろしくお願いいたします」
その言葉を聞くや否や、受験生たちが出口へと殺到し、我先に出て行くのだった。
あれ?
……なんでみんなあんなに大急ぎで出て行くんだろう?
「ミュリナ、あなたも急ぎなさい!」
「え? あ、はい」
メイリスさんに連れられて私たちも会場を後にする。
しばらく走って、人通りの少ない路地に入ったところで一息をつくのだった。
「あの、えっと、なんで皆急いで会場を出たのでしょうか……?」
と問いかけるも、メイリスさんは周囲を警戒している。
「尾行は……たぶんなさそうね。はぁ……、よしっ」
「メイリスさん?」
「あなたねぇ……。先に出たいのは、他の受験者を待ち伏せする方が有利だからに決まってるでしょう」
「え? で、でも、開始時間は一時間後ですよね?」
「そうよ。札を奪っていいのは一時間後。つまり、奪う以外のことはなんでもやっていいってことよ。相手を尾行するなり、捕らえるなりは禁止されていない」
「そ、そっか……。そうなんですね」
「さっ、そしたらここで別れましょう。ここからは勝負の世界よ。できればあなたとは戦いたくないけど、お互い頑張りましょう」
「あっ、そ、そうですね! 頑張りましょう!」
そう述べてメイリスさんはさっさと行ってしまうのだった。
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