第4話 魔界の使者、マジョルカ登場

 ゆっきーは肩に止まるオウムに似た鳥を指して言った。


「こいつは『マジョルカ』」


「まじょ?」


 桜子は首をひねった。

 同じ向きに鳥も首をひねる。桜子と鳥が斜めの視線で見つめ合う。


「ねえ、この鳥、別世界の生き物じゃないの?」


「ご明察」


「いったい、どういうことなの、説明して」


 ゆっきーは正直に話すことにした。見られた以上、言い逃れはできない。


「半年くらい前に、いきなりやって来てお願いをされたんだ」



 去年の年末、雪がちらつく寒い日のことだった。

 ゆっきーはその日、夜遅くまで虫の世話をしていた。

 一段落ついたので母屋へ戻ろうとすると、敷石の上に一羽の鳥がいた。

 冴え冴えとした冬の月明かりを受けて、緑と紫の羽がきらめいていた。


 オウムかな。

 でもなんか妙な感じだな。


 そんなふうに思っていると、そいつはいきなり声をかけてきた。

 ボカロを思わせる、機械で作ったかのような声だった。


「カブト、クワガタ、好キミタイダナ。見タコトナイ虫、育テテミナイカ?」


 ゆっきーはその鳥をまじまじと見た。

 緑の羽毛におおわれた体。

 紫の派手なトサカ。

 知性の光を宿す瞳。

 ニヤリと笑う表情。

 肉厚な翼には、鋭い爪が三本。

 足の指は太く長く、まるで猿の手のよう。

 明らかにオウムなんかではない。

 そいつは自らを『マジョルカ』と名乗り、『第六階層』から渡ってきたと語った。

 『第六階層』は別名、魔界と呼ばれている異世界だ。

 そんなところからわざわざ出向いてきた理由はなんと、絶滅危惧種の虫のブリード(人工繁殖)法を探すためだと言う。

 魔界は度重なる戦争で自然が荒廃し、多くの種が存続の危機に立たされているのだとか。

 特にカブトやクワガタなどの甲虫は、森が減ったせいで激減しているらしい。

 ゆっきーは、マジョルカから魔界のカブクワの繁殖を依頼されたのだった。



「なんかもー、どっからツッコんだらいいかわかんないけど」


 桜子は両手でほっぺたを押さえて、困惑顔をした。


「なんでそんな淡々としてんのよ。おどろいたりとかしなかったわけ?」


「そりゃおどろいたよ。魔界にもカブトムシっているんだなあって」


「そっちぃ?」


 桜子はビシッとマジョルカを指した。


「別の世界の生き物よ! まずはこっちをおどろくでしょ!」


 ゆっきーはまあまあとなだめ、桜子の指を横からつまんだ。

 そしてそのままひっぱっていく。


「な、なによ」


「立ち話もなんだから。それに忘れ物はコンテナの中にあるんだろ」


「まあ、そうだけど」


 コンテナハウスの出入り口は、母屋の縁側と相対している。

 こんなところで話し込んでいては、家にいる誰かに見られてしまうかもしれない。

 しゃべる異界の鳥の存在は、家族にさえ内緒なのだ。

 出入り口のドアを閉めたところで、マジョルカが桜子に話しかけた。


「気ニシテルノハ、別ノ階層ノ生キ物ガ、ココニイルコトダロ?」


「え、ええ。そうよ」


 桜子は鳥に話しかけられて、少し戸惑っているようだ。


「本来、イルハズガナイノニ、ドウシテイルノカ不思議ナノダナ」


「その通りだけど……」


「珍シクハナイ。階層ハ『穴』デ繋ガッテイル。生キ物ハ、簡単ニ行キ来デキル」


「ウソ。信ジランナイ」


「おーい、桜子までボカロ声になってる」


「だってえ」


「その話、ぼくも最初は信じられなかったけど、今では本当なんじゃないかって思ってる」


 桜子はゆっきーのほうを振り向いて、唖然と口を開けた。

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