第3話 その鳥、なに?

 ゆっきーは手を振って彼女を見送り、後ろ手で出入り口のドアを閉めた。

 そしてコンテナハウスの右、左と見まわす。


「おい。どこ隠れてる」


 ゆっきーの声が空しくひびく。コンテナハウスの中はしーんとしている。

 何も反応がない。


「こら。もう協力しないぞ」


「マ、待テ」


 合成音声のような妙な声が生じた。

 ゆっきーが上を見上げる。

 何段にも組まれたパイプ棚のはじっこ、そこに紫色の羽根をしたド派手な『鳥(?)』が頭をひょこっと出した。


「おまえ、どっから入った」


「クケッ。怒ルナ、ユッキー」


 姿を現したのは、見た目も大きさもオウムのような鳥。

 緑のなかに紫が混じる、彩度の高いビビッドな見た目だ。南国の鳥をほうふつとさせる。

 そいつは機械がしゃべるような声で、しかし流暢にしゃべった。


「外、暑インダ。ドウシテモ中ニ入リタカッタ」


「中のもの、勝手に触ってないだろうな」


「ナイ、大丈夫」


「で? どっから入ったんだ」


 オウムは、ぷいっと横を向くと翼に生えた爪でぽりぽり後頭部を掻いた。

 目があからさまに泳いでいる。


「まさか、壁に穴開けたりしてないよな」


 オウムみたいな鳥は、ごまかすようにクチバシを動かして鳴いた。


「るるー、ぴーちくぴーちく、ぐぎゅぐぎゅ」


「こら、ふざけんな」


 今さら普通の鳥みたいな振りをするなという話だ。


「ウウ……分カッタ」


 鳥にうながされるままコンテナハウスの外へ出る。

 鳥はすいーっと音もなく飛んで旋回し、出入り口の真上にある小さな窓枠に止まった。


「ココダ」


「あ、ちょっと外れてる。こじ開けたな?」


「スマン、スマン」


「中の温度が変わるし、外から羽虫が入ってくるだろう」


「グギュッ、面目ナイ」


 ゆっきーはため息をついた。

 しかたない、早く直そう。


「トコロデ、ユッキー。サッキノ女、最近ヨク来ルナ」


「まーね。桜子はカブトムシとかクワガタが好きなんだよ」


 はっと、ゆっきーは思い出した。


「そう言えば、おまえ、あいつに変なこと言ったな。やめろよ、バレるだろう」


「イヤァ、アンマリ興奮シテルモンダカラ、ツイ」


 鳥は小窓から離れて、ゆっきーの肩に止まった。

 不格好なほど大きな頭を寄せて、上目遣いの目をぎゅう~っと細めた。


「ユッキー、アノ女ニ『アッチ』モ手伝ッテモラッタラドウダ?」


「それはやめとく」


「どうして?」


「一人ジャ大変ダロウ。誰カ一緒ニヤッテクレタホウガ助カルンジャナイカ?」


「いろいろ面倒なんだ。秘密のままでいい」


「へー。秘密、あるんだ」


「っ!!」


 ゆっきーは思わず口から悲鳴が出そうになるのを飲み込んだ。

 バッと勢いよく、振り返る。


「忘れ物、取りに来たんだけど……」


 キレのいい黒髪を夕風になびかせて、桜子が立っていた。


「その鳥、なに?」


 肩でクックックッ、と鳥が下卑た声で嗤った。

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