第67話 あの女が学院に戻ってきます

2人に気持ちを伝えられてから早1ヶ月。特に進展もないまま、あっと言う間に月日が過ぎてしまった。


そして今日は、ついに停学処分になっていた3人が戻ってくる日だ。そう、あの女が戻ってくるのだ。既に色々と策は考えているが、油断はできない。


ただでさえ2人の事で、色々と思い悩むことも多いのに、一番の悩みの種と言っても過言ではない人物が、また学院に戻ってくるのだ。本当に憂鬱でしかない。


きっとあの女、この3ヶ月で私への憎しみを募らせているのだろう。今度はどんな方法で、私に嫌がらせをして来るのだろう…


正直気が重いが、逃げるだなんていう選択肢は私にはない。こうなったら徹底的に戦ってやろうと思っている。あわよくば、あの女に一泡吹かせてやりたい。そんな野望まで抱き始めているのだ。


そんな思いで馬車に乗り込み、学院を目指す。


「今日からヴァイオレット嬢が復活するね。あの子が反省しているとは思えない。もしかするとまた、ルージュに酷い事をしてくるかもしれない。僕がルージュの事を絶対に守るからね」


ギュッとグレイソン様が私の手を握っている。グレイソン様も警戒している様だ。私も気を引き締めていかないと!


学院に着くと、まっすぐ教室へと向かう。ヴァイオレット、もう来ているかしら?そんな思いで教室に入った。


すると…


いたわ。1人静かに自分の席に座っているヴァイオレットを見つけた。特に誰かと話すことなく、俯いて座っている。あのような事件を起こしたのだ。さすがに気まずいだろう。そう思っていたのだが


「おはようございます、グレイソン様。今日からまた、私も学院に通いますのでよろしくお願いします。私、3ヶ月も学院を休んでおりましたので、授業に付いていけるか心配で…どうか私に、お勉強を教えてくださいますか?」


それはそれは嬉しそうな顔で、グレイソン様の元にやって来たのだ。この子、何を考えているの?まるで自分が犯した罪を無かったかのように、グレイソン様に話しかけている。


「ヴァイオレット嬢、おはよう。その…なんというか…僕は…」


あまりにも当たり前にヴァイオレットに話し掛けられたから、完全に動揺している様だ。


「ヴァイオレット様、おはようございます。グレイソン様が困っておりますわ。さあ、グレイソン様、参りましょう」


グレイソン様の手を取り、ヴァイオレットの傍を離れた。


「ルージュ様、グレイソン様が困っているとは一体どういう意味ですか?私はただ、グレイソン様と仲良くしたいだけですのに」


グイっとグレイソン様の腕を引っ張るヴァイオレット。この人は本当に、何を考えているのかしら?


「だから、グレイソン様が困っているのが分からないのですか?そもそもあなた、あのような事件を起こしたのに、謝罪すらしていらっしゃらないではないですか?まずは謝罪が先ではありませんか?」


「ルージュ様ったら、嫌ですわ。もう3ヶ月も経っているのに、未だにその話を蒸し返して。慰謝料も支払ったのに、まだ私に何かしろと?それとも私がグレイソン様に話しかけたから、嫉妬していらっしゃるのですか?グレイソン様もクリストファー殿下も、自分のものとでも思っているのですか?まあ、なんて浅ましい性格をしていらっしゃるのでしょう」


何なのよこの女!こみ上げる怒りを必死に堪える。きっと化けの皮がはがれ、評判がガタ落ちになった今、もう自分を偽らずに思うがまま生きる作戦に変更したのね。


それにしても腹が立つ。


「ヴァイオレット嬢、ルージュの事を悪く言うのはやめてくれ。それにルージュは間違った事を言っていない。僕も我が家の大切なメイドが被害にあった事を、今でも根に持っているくらいだ」


「まあ、グレイソン様はお優しいのですね。ルージュ様に話しを合わせるだなんて。そもそもあなた様は、養子とお伺いしました。きっと色々と気を使って生きて来たのでしょう。お可哀そうに…」


「それはどういう意味だい?義父上も義母上も、僕の事を一番に考え、僕の好きな様にさせてくれている。もちろん、ルージュも僕の事をとても大切にしてくれているよ。僕の大切な家族を悪く言う事はやめてくれ」


グレイソン様も、ヴァイオレットに対し怒りをあらわにしている。でも…


「いいのですわ。私の前で無理に今の家族を庇わなくても。私は全て知っておりますので。私があなた様を、窮屈な世界から解放してあげますわ」


全く人の話を聞いてないヴァイオレット。それどころか、自分の都合の良い話に変えているうえ、自分の世界に入ってしまっている。


この人、3ヶ月の停学生活で、頭がおかしくなってしまったのかしら?それとも元々こんな性格なの?


さらにパワーアップしているヴァイオレットに、戸惑いを隠せないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る