第66話 友人たちに背中を押され気持ちを伝えたけれど…
考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。
「また思い詰めちゃって。まあ、急に気持ちを伝えられて混乱する気持ちもわかるわ。ルージュ、私たちはいつでもあなたの味方よ。だから、何でも相談して頂戴」
「ありがとう、私はやっぱり、このまま有耶無耶にして、2人に長時間待たせる事なんて出来ないわ。出来るだけ早く結論を出したいと思っているの」
あまり2人を待たせて、2人の婚期を逃してしまっては大変だ。特にクリストファー殿下は、王太子なのだ。どのみち私は、殿下を受け入れるつもりはない。だからどうか私の事は諦めて、他の令嬢を当って欲しいのだ。
「ルージュらしいわね。それならその気持ちを、2人に伝えたらいいのではなくって?あなたがどう考えているのか、どうしたいのか話すだけでも、気持ちが軽くなるかもしれないわよ」
今の素直な気持ちを伝えるか…
確かに今の気持ちを素直に伝えるだけでも、気持ちが落ち着くかもしれない。特にクリストファー殿下に関しては、早々にお断りした方がいいだろう。それが私に出来る、精一杯の誠意だ。
「そうね、私、一度2人に素直な気持ちを話してみるわ。特にクリストファー殿下との結婚は、正直考えられないし」
「ルージュ、クリストファー殿下と何かあった?なんというのかしら?あなた達を見ていると、以前恋人同士でしたみたいな雰囲気が出ているのよね」
ミシェルがポツリと呟いたのだ。この子、どこまで勘がいいの。確かに私とクリストファー殿下は、1度目の生の時婚約までしていた。私はその時の記憶が残っているため、どうしても彼を見ると、1度目の生の時の記憶が蘇って来てしまうのだ。
でも、そんな事は言えない。
「な…何を言っているの?そんな訳ないでしょう。クリストファー殿下とは王宮主催のお茶会で初めて会って、その次に会ったのは貴族学院の入学式の時よ。それ以外には一切会っていないわ」
私は間違った事は言っていないのだ。
「そう、ルージュがそう言うのなら、私は信じるわ」
どうやら信じてくれた様だ。
「ルージュの気持ちも少し落ち着いたみたいだし、せっかくだからこの後、少し街を見て回らない?色々なお店も増えたみたいだし」
「それはいいわね。見て回りましょう。ルージュもいいわよね」
「ええ、もちろんよ」
美味しいケーキを食べた後は、皆で時間が許す限り、街を目いっぱい楽しんだ。きっと私が悩んでいる事を知って、今日街に連れてきてくれたのだろう。本当に彼女たちには感謝してもしきれない。
ありがとう、皆。あなた達のお陰で私、少しだけ前に進める気がするわ。そっと心の中でお礼を言ったのだった。
屋敷に戻ると、まずはグレイソン様を呼び出した。
「グレイソン様、昨日のお話しなのですが」
「返事はまだいいと伝えたよね?ルージュ、どうかそんなに思い詰めないで欲しい」
そう言って少し困った顔をしているグレイソン様。でも私は、今の気持ちを伝えたいのだ。
「グレイソン様、私もグレイソン様の事が大好きです。グレイソン様の笑顔を見ていると、私もとても幸せな気持ちになれます。ただ…正直あなたの事を家族として見ていた部分も大きいため、異性として共に歩みたいかと言われれば、よくわからないのです」
「うん、知っているよ。でも今、少しずつ僕の事を異性として意識し始めてくれているよね。いつかルージュが僕を異性として好きになってもらえる様に、僕は頑張るつもりでいるよ。だからどうか、もう少し僕に時間をくれないかい?君を振り向かせるための時間を」
「私がグレイソン様に時間を与えるのですか?私が返事を出すために、時間を頂くのではなくって?」
「今のルージュはきっと、どんなに考えても結論が出ないだろう?きっとまだ僕の努力不足だと思うんだ。だから、ルージュに振り向いてもらえる様に頑張るから、その時間を僕に与えて欲しい。もちろん、それでも無理な時は、また考えるよ」
「分かりましたわ…」
なんだかグレイソン様に、丸め込まれた気がするが…
気をとなり直して、次は殿下だ。翌日、殿下を呼び出した。
「急に呼び出してごめんなさい。私のお誕生日の時の件なのですが、私は殿下との婚約は考えられません。どうか私の事は忘れ、あなた様を愛してくれる令嬢との婚約をお考え下さい」
殿下にはっきりとそう伝えた。
「知っているよ、君が僕と婚約したくない事も。僕に嫌悪感を抱いてることも。でもね、僕はルージュ嬢が好きなんだ。そう簡単に諦められるほど、僕は聞き訳が良くない。悪いけれど、君が他の令息と婚約するまでは、僕は絶対に諦めないから」
そう言うと、足早に去って行った殿下。
「お待ちください、殿下…」
そう叫んだものの、全く振り向いてもらえなかった。どうしてなの?殿下に至っては、はっきりと気持ちを伝えたのに。どうしてここまで殿下は私に執着するのかしら?
結局自分の気持ちを正直に伝えたものの、特に進展はなかったのだった。
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