第65話 勘のいい子たちです
お店に入ると、すぐに一番奥の広い個室へと案内してくれた。貴族の部屋の様になっており、立派なテーブルとフカフカのソファ。同じくフカフカなイスが置いてある。
それぞれが好きなところに座った。
「実はもう予約してあるのよ。好きなケーキを好きなだけ食べましょう。ここのケーキ、本当に可愛くてとても人気なのよ」
「ミシェルがそこまで言うなら、期待できるわね。一体どんなケーキが運ばれてくるのかしら?」
皆で待っていると、次々とケーキが運ばれてきたのだ。1口サイズのお上品なケーキは、まるで芸術品の様に美しい。
「見て、このケーキ、壺の形をしているわ。ちゃんと模様まで付いているわよ」
「こっちのケーキはバラよ。細かいところまで再現されているのね、これはすごいわ」
「まさに芸術品ね。食べるのが勿体ないわ」
本当に食べるのが勿体ないくらい、細かく作られているのだ。
「見た目だけじゃないわよ、味も一流なのだから」
ミシェルが美しい壺ケーキを半分に割り、口に入れたのだ。あぁ、壺が…
そんな声が聞こえてきそうなくらい、皆半分に割られた壺ケーキを見つめていた。
「とても美味しいわ。あなた達もそんな顔をしていないで、早く食べて。まだまだたくさんあるから」
確かにいつまでも眺めていても仕方がない。私は近くにあったバラを頂く事にした。
「このバラ、本当に美味しいわ。クリームがとてもなめらかで、口の中で溶けてしまいそう。苺の風味もとても強くて、まるで苺を食べている様な感じね。こんなケーキ、初めて食べたわ」
「本当ね、口の中で溶けてしまうわ。これがケーキなの?信じられない」
あまりにも画期的なケーキに、皆次々に食していく。
「さて、お腹も満たされた事だし、本題に入りましょうか」
ナプキンで口を拭いたミシェルが、そんな事を言いだしたのだ。本題?一体何かしら?今日はケーキを食べに来たのではないの?
「ルージュ、あなた昨日、クリストファー殿下に告白されたでしょう」
「ど…どうしてそれを?」
「昨日たまたま聞いてしまったの。もしかしてだけれど、グレイソン様からも何か言われた?」
「グレイソン様の事も知っているの?でもグレイソン様は、皆が帰った後だったのに、どうして?」
「やっぱりそうだったのね。グレイソン様の方は、確信は持てなかったのだけれど、今日のルージュ、ずっと2人を見て考えていたから。もしかしてと思ったの」
この子は本当に人を良く見ているのね。凄いわ!…て、感心している場合ではない。
「ミシェルの言う通り、昨日クリストファー殿下とグレイソン様から、気持ちを伝えられたの。お2人とも今の関係を壊すつもりはないみたいで。グレイソン様は返事が貴族学院を卒院するまででいいとまで言ってくれていて。でも私、2人の気持ちを知ってしまった以上、なんだか落ち着かなくて。私、どうしたらいい?やっぱり2人の事を、真剣に考えた方がいいわよね」
「ルージュ、少し落ち着いて。はい、お茶を飲んで」
メアリーが私にお茶を渡した。今はお茶なんて飲んでいる場合じゃない。とにかく話を、そう思ったのだが、無理やり飲まされてしまった。このお茶、とても美味しいわ。なんだか少し落ち着いた。
「ルージュ、少しは落ち着いた?あなたが混乱する気持ちもわかるわ。でもね、2人があなたを好きなことなんて、今に始まった訳ではないのよ」
「それはどういう意味?」
「だから、ずっと昔から2人はあなたが好きだったの。初めてグレイソン様にお会いした時に、既に私たちは気が付いていたわ。クリストファーに至っても、あなたが初めて彼に会った時には、なぜかもうクリストファーはあなたに好意を抱いていた。知らないのはあなたくらいよ」
そうだったの?まさかみんな気が付いていただなんて…
「きっと2人とも、全く自分の気持ちに気が付いてくれないルージュに、少しでも意識して欲しくて気持ちを伝えたのだと思う。まあ、グレイソン様は殿下に刺激されて…というのが大きいかもしれないわね。だから今更ルージュが焦って結論を!なんて考えなくていいとも思うわよ」
「そよう、焦ったって、どうしていいか分からないのでしょう?そんな中、無理やり答えを出したとしても、2人に失礼よ。自分が納得いく答えが出た時に、初めて返事をすればいいと思うわ」
「でも私、納得いく答えなんてだせるのかしら?」
少なくとも今の段階で、殿下との結婚は考えられない。かといって、グレイソン様と結婚…というのも、あまり実感がわかないのだ。
「大丈夫よ、きっと答えが出るときが来るわ。それに、どちらかを選ばないといけない訳ではないのよ。2人とも断ってもいいのだし。とにかく、あなたが納得いくまで悩むといいわ。ルージュはまだ14歳なのだから。貴族学院を卒院するまでは、婚約者を作らないという貴族もいるくらいだし」
確かに貴族学院在院中に、婚約者を見つける人も多いし、中には卒院後本格的に婚約者を見つける人もいる。それでも我が国の貴族は、20歳までには結婚するのが一般的なのだ。
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