第68話 あなたの鉄のメンタルには構いません

「おはよう、ルージュ嬢、グレイソン殿。ヴァイオレット嬢も、今日から学院に来ているのだったね。どうしたのだい?またもめ事かい?」


やって来たのは、クリストファー殿下だ。きっと私たちが騒いでいたから、心配して見に来てくれたのだろう。


「クリストファー殿下、おはようございます。今日からまた学院に戻って来ました。この3ヶ月、ずっと部屋に閉じ込められていて本当に辛くて…それに3ヶ月も授業に出られなかったので、授業に付いていけるか心配で…どうか私に、手取り足取りお勉強を教えてください」


上目使いで殿下を見つめ、さらに手まで握っている。ただ、すぐに手は振り払われていた。


「君が学院に来られなかったのは、君が犯した罪に対する罰だからだろう。それに君は侯爵令嬢だ、君の家では家庭教師を雇えない程、困窮しているのかい?勉強なら、家庭教師に教えてもらえばいいだろう?」


そう冷たく言われていた。


「そんな、酷いですわ。私は今回の事件で、クラスでも浮いた存在になってしまいました。ですから少しでも皆様と仲良くしたいと思い、勇気を出して話しかけたのに…」


再び上目使いで殿下を見つめている。そんなヴァイオレットを冷ややかな目で見つめる殿下。


「それは申し訳なかったね。でも僕は、君と仲良くするつもりはないから、他を当ってくれるかい?それじゃあね」


笑顔でヴァイオレットにそう告げると、さっさと自分の席に座っていた。


「殿下は照れ屋さんなのですね。そんな殿下も素敵ですわ。でも、確かに他の方とも仲良くなった方がいいですわね。殿方の皆さん、どうかこれからも仲良くしてくださいね」


そう笑顔で殿方たちに語り掛けたのだ。ただ、皆苦笑いをしている。きっとヴァイオレットは、あの事件の後、他の令息にもアプローチしていた事を知っているという事実を、知らないのだろう。


クラスの令息ほとんどに声を掛けていたことを知った令息たちが、完全に引いている事など、全く気付いていない様だ。


冷ややかな視線を受けているヴァイオレットだが、当の本人は全く気が付いてない様だ。


“ルージュ、私たちも席に着きましょう。それにしてもヴァイオレット様、凄い性格をしているのね。まさか何事もなかったかのように振舞うだなんて”


“それもグレイソン様と殿下に狙いを定めて話しかけるだなんて。明らかに2人を狙っています!と言わんばかりの行動ね”


“もしかしたら、全てが上手くいかなかったショックで、頭が少しおかしくなってしまわれたのかもしれないわね。だとしたら、お気の毒だわ…”


“マリーヌは考えが甘いのよ。きっともう開き直ったのでしょう。ルージュにも今後、敵意をむき出しにするかもしれないわ。十分気を付けるのよ”


いつの間にか私の傍まで来ていた友人たちが、小声で話しかけてきたのだ。


“ええ、分かっているわ。何をして来るか分からないから、十分気を付けるわね”


本当にヴァイオレットは、何を考えているのだか…


「皆さん、何を騒いでいるのですか?席に着いて下さい」


先生がやって来たので、急いで席に着いた。


「今日から停学中だった3人が復帰しました。彼らはこの3ヶ月、非常に反省したと聞いております。どうか昔の話を蒸し返すことなどはせず、今まで通り皆仲良く過ごしてください。それでは授業を始めます」


非常に反省ねぇ…


確かに令息2人は相当反省していた様で、少しやつれているようにも見える。でも、ヴァイオレットは、全く反省している様には見えないのだが…


その証拠に


「先生、さっき早速ルージュ様が3ヶ月前の事を蒸し返し、私の事を責めてきましたわ。本当に酷いです」


そんな事を言いだしたのだ。確かに責めたかもしれないが、それはあまりにもあなたが反省していないからでしょう?


「お言葉ですが先生、私はあまりにもヴァイオレット様が反省をしていない様だったので、少し注意をしたまでです」


この際なので、私も反撃する事にした。やられっぱなしでは癪に障るものね。


「君たち、落ち着いて下さい。とにかく喧嘩は止めて下さい。ヴァイオレット嬢、確かに君は反省している素振りが見えませんでした。ただ、ルージュ嬢も過去の事を掘り返すのは、あまり褒められた事ではありませんよ。とにかくもうこの話しは終わりです。授業を始めます」


なぜか私まで先生に怒られてしまった。なんだか癪に障るが、確かに3ヶ月前の事を蒸し返すのは良くなかったかもしれない。もうあの時の事は、水に流そう。


でも、次に何かしたら、絶対に許さないのだからね。

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