第62話 気持ちが抑えられなかった~クリストファー視点~

あの女はきっと、何か企んでいるに違いない。そう思った僕も、その輪に加わった。もちろん、ルージュと少しでも一緒にいたいという思いもあったからだ。


ただ、僕がルージュと少しでも話をすると、物凄い形相で睨んでいるヴァイオレットを何度も見かけた。きっとルージュを陥れるために、このグループに入ったのだろう。


ヴァイオレットは非常に強欲な女だ。きっと今回の生でも、僕と結婚する事をもくろんでいるはずだ。僕がルージュを庇ったから、怒りの矛先がルージュに向いてしまったのだろう。


そんな事で?世間一般ならそう思うだろう。でもあの女にとっては、そんな些細な事でも、憎しみの対象になるのだ。だからこそ僕は、あえてルージュに近づかないようにした。これ以上ヴァイオレットを刺激して、ルージュに直接の被害が及ぶことを避けるためだ。


僕の目論見通り、やはりヴァイオレットは動いて来た。あろう事か令息を利用して、自分の教科書とノートをびりびり破き、その罪をルージュの専属メイドに擦り付けようとしたのだ。


ただ、その悪事は全てバレ、彼らは3ヶ月の停学処分になった。


ヴァイオレットが3ヶ月間ではあるが、貴族学院から姿を消した事で、僕も本格的に動き出すことにした。ルージュが1度目の生で好きだった料理を持ってきて、ルージュに食べさせたのだ。


料理を食べた瞬間、それはそれは幸せそうに頬張ったのだ。そう、この顔。僕が大好きだった顔だ。ルージュはこの料理を食べると、いつもこうやって幸せそうに微笑んでいたな。僕はこの笑顔が見たくて、毎日色々な料理を持ってきた。


さらに1度目の生の記憶を使い、ルージュが困っているとさりげなく助けた。僕がルージュの事を一番よく知っている、それがなんだか嬉しかった。


そんな日々を送っているうちに、気が付けばルージュの14歳の誕生日が迫っていた。この日ルージュは、デビュータントを迎える。1度目の生の時は、僕がエスコートした。でも、あの頃の僕は本当に愚かで、ルージュをエスコートするとさっさとヴァイオレットの元にいってしまったのだ。


そのせいでルージュは、ファーストダンスを誰とも踊れなかったと聞く。きっと悲しくて辛かっただろう。


出来れば今回の生でも、僕がエスコートして、ファーストダンスを一緒に踊りたい。そう思い、密かにヴァレスティナ公爵に打診したのだが。ルージュのエスコートは、義兄でもあるグレイソン殿が行う事になっていると、断られてしまったのだ。


きっと公爵は、自分の後を継いでくれるグレイソン殿とルージュを、いずれ結婚させたいと考えているのだろう。グレイソン殿はきっと、ルージュの事が好きだ。少し彼と話す機会があったが、どうやら昔、ルージュに助けられたらしい。


“今の僕があるのは、全てルージュのお陰なのです。彼女は僕に生きる希望を与えてくれました。彼女のお陰で僕は、生きていけると言っても過言ではないくらい、大切な人なのです”


そう言って恥ずかしそうに微笑んでいた。でも僕は、グレイソン殿にルージュを渡したくはない。僕の手で、今度こそルージュを幸せにしたいのだ。


そして迎えた、ルージュの14歳のお誕生日当日。今日こそは、この時計を渡そう。そう思い、公爵家に向かった。ちょっと準備に手間取っていた為、既に夜会は始まっていた。楽しそうに貴族たちと話すルージュ。


どのタイミングで話しかけよう、そう悩んでいると、一気に令嬢たちに囲まれてしまった。僕はまだ婚約者がいない事から、夜会などに参加すると、一気に令嬢たちに囲まれてしまうのだ。


困ったな、どうしよう。そう思っていると、ルージュが貴族との話を終えたのだ。今しかない、上手く令嬢を巻いて、ルージュの元へと向かった。


そしてダンスを申し込む。一瞬大きく目を見開いたルージュだったが、すぐに笑顔になり僕の誘いを受けてくれた。


それが嬉しくてたまらない。1度目の生の時は、結局一度もルージュとダンスを踊らなかった。何度ルージュからダンスに誘われても、断り続けていたのだ。僕に断られて、悲しそうな顔をするルージュが、今でも脳裏に焼き付いている。


そんな中今日、2度目の生でやっとルージュと踊る事が出来たのだ。ルージュと初めて踊ったが、とても上手で踊りやすい。そんな思いでダンスの事を褒めると


“昔、猛練習をしたので”


そう言って悲しそうに笑ったルージュ。もしかして、1度目の生の時に?なんだかそんな気がして、無意識に謝ってしまった。


そんな僕を、不思議そうに見つめるルージュ。しまった!そう思い、上手くごまかしたのだが…


やっぱりルージュも、1度目の生の時の記憶があるのか?いいや、そんな事はないはずだ。だって、そんなそぶりはほとんど見せていない。ただ…1度目の生の時のルージュと今のルージュは、僕に対する態度があまりにも違いすぎるのだ。


やっぱりルージュは…

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