第63話 君も1度目の生の時の記憶があるのかい?~クリストファー視点~

そんな事を考えているうちに、ダンスが終わってしまった。ダンスが終わると、急いで僕の傍から去って行こうとするルージュ。


待って!僕はどうしてもこの時計を渡したいんだ。たとえ付けてもらえなかったとしても、僕の気持ちを伝えたい。そんな思いからルージュの腕を掴み、人気の少ないホールの端に行くと、時計を渡した。


時計を見た瞬間、今にも泣きそうな顔をしているルージュの姿が…その顔を見た瞬間、ルージュに対する気持ちを吐き出してしまった。


とはいえ、僕が伝えたい事の10分の1も伝えられていない。それでもどうしても、彼女に気持ちを伝えたかったのだ。僕はずっと、君の事が大好きだという事を…


ただ、ルージュの気持ちを聞くのが怖くて、すぐにその場を後にしてしまった。人に気持ちを伝えるのは、こんなにも勇気がいる事なのだな。


自室のソファに座り、今日の事を思い出す。今日ルージュと一緒に踊れて、本当に幸せだった。やっぱり僕は、ルージュにはいつも笑顔でいて欲しい。1度目の生の時、傷つけてしまった分、尚更。


ただ…


今日時計を渡した時のルージュの反応。さらに“昔ダンスの猛練習をした”というルージュの言動。それらを考えると、やっぱりルージュも、1度目の生の時の記憶があるのではないかと勘繰ってしまう。


もし1度目の生の時の記憶があるのなら、初めて会った時僕の事を怖がったのも、説明が付く。彼女にとって僕は、家族と自分を死に追いやった人間なのだから。


きっと僕とは極力関わりたくないと思っていたのだろう。それなら尚更、僕がルージュに受け入れられるのは、厳しいかもしれない。


それでも1度目の生の時に、ルージュが好きだった野菜のロールを食べた後の彼女は、涙を流していた。もしかしたら、僕との楽しかった時の思い出を、思い出してくれているのかもしれない。


そんな自分勝手な事を、つい考えてしまう。僕は少なくともヴァイオレットと出会うまでは、間違いなくルージュを愛していた。彼女との時間も大切にしていた。


その事を、ルージュが思い出してくれていたとしたら…


自分でもびっくりするくらい、プラス思考なのはわかっている。都合よく考えすぎなのも分かっている。でも、まだ何とかなる気がするのはきっと、僕が諦めたくはないからなのだろう。


それにまだ、ルージュが1度目の時の記憶が残っていると決まった訳ではない。まずはその件を確かめないと。


もし1度目の生の時の記憶が残っているのなら、僕はあの時の事をしっかり謝りたい。もちろん、許してもらえるとは思っていないが、それでもしっかり謝罪したいのだ。


謝罪したうえで、ルージュとしっかり向き合っていきたい。そしてもし、ルージュが僕を選んでくれたら、今度こそ僕の手でルージュを幸せにしたい。


ルージュに贈った時計の様に、お爺様やおばあ様になってからも、ずっと一緒にいられる様に。


それが僕の願いだ。


ただ、あと1ヶ月もすれば、またあの女が戻って来る。きっとまた、ルージュに何かしでかすに決まっている。あの女はそういう女だ。今度こそあの女を、僕の手で叩きのめしてやる。もう二度と、ルージュに酷い事はさせない。


僕の手で、絶対にルージュを守りたい。


この命に代えても必ず。



※次回、ルージュ視点に戻ります。

よろしくお願いしますm(__)m

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