第61話 後悔の日々~クリストファー視点~

「あら、もう公爵家から帰って来たの?随分と早かったわね」


「そうですか?ルージュ嬢にはきちんと挨拶も出来ましたし、そこまで早くはないと思いますよ」


母上の問いかけに適当に答え、急いで自室に戻ってきた。まだ心臓がドキドキしている。ルージュはあの時計を見た時、物凄く驚いていた。


やっぱりルージュは、1度目の生の時の記憶があるのか?


今日僕が贈った時計は、1度目の生の時、僕の14歳の誕生日にルージュが贈ってくれた時計と同じものだ。既に僕はあの頃、あの女の虜になっていた。


僕から冷たくあしらわれていたルージュだったが、それでも手の込んだ時計をプレゼントしてくれたのだ。


“クリストファー様、この時計は私がデザインしたのですよ。あなた様を思って。知っていますか?時計には、ずっとあなたと同じ時を刻んでいきたいという意味があるのです。私はあなたの妻として、ずっとあなたを支えて行きたいですわ”


少し恥ずかしそうに、そう言って時計を渡してきてくれたルージュ。それなのに僕は、中身を空けることなくずっと放置していたのだ。


初めてこの時計を開けた時は、ルージュが殺され、全てが明らかになってからだ。この時計を見た時、僕はルージュを思って泣いた。この時計には、ルージュの想いがたくさん詰まっていたからだ。


時計はルージュの好きな花、キンシバイをイメージして作られていたのだ。キンシバイは僕たちの思い出の花。ルージュが好きだと聞いて、僕が王宮にキンシバイ畑を作ったのだ。それはそれは喜んでくれて、時間があると、いつもキンシバイ畑に行っていたルージュ。


僕もルージュを追って、よく2人でキンシバイ畑を眺めながら、お茶を飲んで過ごしていた。


きっとルージュは、あの時の楽しかった思い出を思い出しながら、この時計をデザインしたのだろう。


さらに時計の外枠には、僕とルージュの瞳の色の宝石が、交互に付けられていたのだ。通常相手と自分の瞳の色の宝石を使う場合、1つずつ使う事が多い。でもこの時計には、これでもかというくらい付いていたのだ。


きっと僕がヴァイオレットなんかにうつつを抜かしていたから、不安からこんなにも沢山の宝石を付けたのだろう。


ルージュの気持ちを思うと、胸が張り裂けそうになった。僕は本当に最低だ。あの時のルージュの気持ちを、今度は大切にしたい。そんな思いから、記憶を頼りに、ルージュが贈ってくれた時計と同じものを作った。


あの時のルージュの気持ちに応えたい、僕も今度こそ、君と同じ時間を生きたい。そんな思いが込められている。


ただ、僕はこの時計を、ルージュの13歳のお誕生日に渡す予定で作ったのだ。でもあのお茶会以降、ルージュに会う事は出来なかった。それでも母上が何度か王宮主催のお茶会を開いてくれたのだが、ルージュはあれっきりお茶会に参加してくれなかったのだ。


ルージュの13歳のお誕生日も、家族だけでひっそりと済ませたと聞く。そんな中、僕たちは貴族学院に入学した。今度こそ絶対に失敗しない!そんな思いで挑んだ入学式。


久しぶりに見るルージュは、やっぱり可愛かった。


ただ…


僕の目に映ったのは、あのにっくき女、ヴァイオレットだ。あの女は僕と目が合うと、嬉しそうに微笑んできたのだ。1度目の生の時は、その可愛らしい顔にノックアウトされが、もうあの笑顔には騙せれない!


プイっとあちらの方向を向いてやった。


ただ、そんな事で諦める様な女ではなかった。僕はあの女の前の席だったのだ。1度目の生の時は、それが嬉しくてたまらなかったが、今回は嫌で仕方がない。こんな女が後ろにいると思うと、おちおち勉強もしていられない。


その上、あろう事か僕やグレイソン殿に色目を使って来たのだ。その事でルージュを巻き込み、トラブルになってしまった。


なんとあの女は、ただ謝っただけのルージュが暴言を吐いて来たと涙ながらに先生に訴えていたのだ。あまりの理不尽さに、怒りを爆発させてしまった。


でも…


1度目の生の時の僕は、そんなあり得ない程の理不尽な話を鵜呑みにし、ルージュを悪者に仕立て上げたのだ。きっとルージュは、呆れていただろう。こんな愚かな男が婚約者だなんてと、嘆いていたかもしれない。現に2年になってからは、僕にはもうほとんど話しかけてこなくなっていた。


その為、15歳の僕のお誕生日の時は、当たり障りのないシンプルなネクタイピンだった。きっとこの頃にはもう、全てを諦めていたのかもしれない。


そう思うと、ルージュには本当に申し訳ない事をしたと、つくづく思った。


でも僕はもう、あの時の愚かな僕ではない。1度目の生の時の記憶が残っている分、あの女がいかに冷酷で残忍な女なのかもわかっている。


見た感じ、1度目の生の時と同じく、ルージュに敵意を向けている様だ。とにかくルージュを守らないと。それに、グレイソン殿も。彼がもしまたヴァイオレットの虜になったら、面倒だ。


そう思って動こうとしたのだが、なぜかヴァイオレットは翌日、ルージュたちに謝罪をし、彼女たちのグループに加わったのだ。

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