第52話 この女が憎い~ヴァイオレット視点~
銀色の髪をしたさえない女が飛んできて、急に私に謝罪したのだ。何なの、この女。どうしてこの女に謝られなければいけないのよ。私はこういった通称“いい子ちゃん”が、大嫌いなのだ。
無意識にこの女を睨みつけた。
すると
グレイソン様がこの女の事を、“ルージュ”と呼んだのだ。何ですって、このさえない銀色の髪の女が、噂のルージュなの。こんなさえない女が、あろう事か貴族世界で一目置かれているですって。
なんて生意気なの?
そんな中、必死にさえない女、ルージュが謝っている。謝られれば謝られるほど、腹が立とつ。こうやって“私はいい子です”アピールをして、株を上げているのね。なんて女なの!
さらにあろう事か、殿下までルージュを庇いだしたのだ。どうしてこんなさえない女を庇うの?この女が、公爵令嬢だからなの?
こうなったら、泣き落としよ。男は女の涙に弱いもの。特に可愛いい私が泣いたら、皆イチコロ。そう思っていたのに、殿下は全く動じないどころか、さらに酷い言葉を投げかけてくる。グレイソン様も、苦笑いをしていた。
何なのよ、どうしてよ。そんなにルージュがいいの?こんな女のどこがいいのよ!今まで感じた事のない怒りがこみ上げて来た。私が世界一可愛いのよ。だからこのクラスの中心は、常に私。それなのに、どうして私が悪者にされているの?
全てこの女のせいよ!
怒りで震えていると、ちょうど先生が来たので、私はルージュに酷い暴言を吐かれたと泣いて訴えた。あの女、先生に怒られるといいわ。そう思っていたのに。
なぜか殿下とグレイソン様に猛列に攻められ、ルージュの友人と思われる令嬢たちからも怒られ、挙句の果てに先生にまで呼び出されてしまった。
当のルージュはというと、クリストファー殿下とグレイソン様に守られ、涼しい顔をしていた。どうしてあんな女が2人に守られているの?本来2人に守られるべき人間は、私なのに!
どうして私がいるべき場所を、あの女が奪っているの?憎い、あの女が憎くてたまらない。
家に帰ってからも怒りが収まらない。どうして私の様な美しい令嬢がこんな酷い目にあって、あんなさえない女が、クリストファー殿下とグレイソン様という、非常に優秀な殿方たちに守られているの?
本当に憎らしい女。
そうだわ、あの女から全てを奪ってやればいいのよ。あんな女には、クリストファー殿下やグレイソン様は釣り合わない。それにあの女の傍にいた令嬢たち、確か2人が公爵令嬢で、残り2人が侯爵令嬢だったわね。侯爵令嬢の2人の内の1人は騎士団長の娘で、もう1人は、裁判長の娘。
どうしてそんな権力を持った家の令嬢とばかり、友達でいるのよ。それがまた腹立たしい。ついでのあの女から、友人たちも奪ってやろう。全てを奪われて絶望するルージュの顔。
想像しただけで、笑いが止まらないわ。
翌日から私は、昨日の事を反省するふりをして、ルージュとその友人たちに近づいた。とにかく信用を得ないとね。そんな思いで、半年もの間、彼女たちと一緒に過ごしたのだ。
正直女になんか興味がないが、あいつらといるとグレイソン様はもちろん、クリストファー殿下とも交流が持てるのだ。
非常に腹立たしいが、クリストファー殿下もグレイソン様も、ルージュに好意を抱いている様だ。私の方が一億倍可愛いのに、なぜか私には見向きもしない。それがまた腹が立つ。
絶対にルージュから全てを奪ってやる。増々やる気が出てきた私は、すっかり私に心を許した友人たちに、ルージュが悪口を言っていると吹き込んでやった。
ただ…なぜか皆、ルージュから離れていかないのだ。それどころか、私を警戒する様になってきた。
このままではまずいと思い、遊びで適当に付き合っていた令息を使って今回の件を思いついたのだが、グレイソン様によって暴かれてしまったのだ。
どうしてこうもうまくいかないのかしら?
ルージュの友人たちといい、グレイソン様といい、どうしてそこまでルージュを信じるのよ。あの女のどこにそんな魅力があるの?
確かに一緒に過ごしている時、やたらと私にもお節介を焼いて来たが、はっきり言ってうざいだけだった。
私はああいう世話焼きが一番嫌いなのだ!
やっぱり私は、あの女がこれからものうのうと生きているのが許せない。私はあの女のせいで、3ヶ月の停学処分に処されたのに。
どうして私がこんな目に合わないといけないのだろう。私はただ、クリストファー殿下とグレイソン様を手に入れ、クラスの中心的人物になり、誰もが羨む素敵な令嬢になりたいだけなのに。
こんな当たり前な事を望んだだけで、こんな仕打ちを受けるだなんて。全てルージュのせいだわ。あの女だけは絶対に許さない。何が何でも、地獄に叩き落してやるのだから!
※次回、ルージュ視点に戻ります。
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