第51話 どうしてあんな女が~ヴァイオレット視点~

「ヴァイオレット、学院から連絡が来て、3ヶ月の停学処分との事だ」


「どうして私が停学処分にならないといけないの?悪いのはルージュなのに!」


怒りに身を任せ、お父様に詰め寄った。


「きっと学院側も、ヴァレスティナ公爵に忖度したのだろう。本当に学院側も情けない。たかがメイドを陥れようとしたくらいで、大げさな」


「本当よね。そもそもヴァイオレットは、ずっとルージュ嬢に虐められていたのでしょう?その事に関しては、何のお咎めがないだなんて。可哀そうなヴァイオレット」


お母様が私を抱きしめてくれた。両親は私の言う事を、何でも信じてくれるのだ。今回の協力者だった令息たちだって、私の言う事を信じ動いてくれた。


ただ…


なぜか私が一番手に入れたいクリストファー殿下、その次に気になるグレイソン様は、全く私を相手にしてくれないのだ。


皆あの女、ルージュに好意を抱いている。どう見ても私の方が美しくて令嬢として上なのに。どうしてあの女ばかり…


「お父様、お母様、私は何も悪くないのに、こんな仕打ちを受けるだなんて…貴族とは恐ろしい生き物なのですね…」


ポロポロと涙を流し、その場に座り込んだ。


「可哀そうなヴァイオレット。あなた、何とかならないの?」


「私だって何とかしたい。とにかく、一度ヴァレスティナ公爵に話しをしてみるよ。ヴァイオレット、もし君が王都にいるのが辛いというのなら、領地に戻ってもいいのだよ。別に貴族学院なんて、行かなくてもいいのだから」


貴族学院に行かないですって?それは嫌よ。私はやっぱり、クリストファー殿下やグレイソン様を手に入れて、あの女をギャフンと言わせたい。その為にも、貴族学院には通わないと。


「貴族学院には通いますわ。それが貴族としての私の義務ですので…今日はちょっと疲れましたので、お部屋で休みますね」


そう伝え、自室へと戻ってきた。


「何なのよ、ルージュの奴!」


近くにあったぬいぐるみを力いっぱい投げつけた。それでも怒りが収まらない私は、ルージュの写真を張り付けたぬいぐるみを、ナイフでズタズタに引き裂く。


憎い、憎い!憎い!!!ルージュが憎くてたまらない!!


怒りを爆発させた後、少し落ち着いて来た。


「あの女、本当に目障りなのよ。一体何なのよ!私がいるはずの地位を、あの女が横取りしたのよ。絶対に許せないわ!」


体が弱かった私は、ずっと領地で過ごしていた。王都にいる両親とも中々会えず、ずっと寂しい思いをしていたのだ。ただ、たまに会うと、とても可愛がってくれた。


私の言う事は、何でも聞いてくれたのだ。


“ヴァイオレットは本当に美しい。きっと全ての令息が、ヴァイオレットに惚れるだろう。全ての令息は、ヴァイオレットのものだ”


会うたびにお父様はそう言ってくれた。さらにお母様も


“あなたは私に似て、本当に美しいわ。きっと殿下の心を射止める事が出来るはず。将来は王妃様ね”


なんて言って笑っていた。


私が王妃様か…悪くはないわね。私は誰よりも美しいのですもの。きっと全ての令息が、私の事を好きになるわ。


あぁ、早く王都に戻りたい。王都に戻ったら、全ての令息たちを虜にしてやるわ。そうだわ、今のうちに、めぼしい殿方のリストでも作っておこう。


そう思い、早速王都の様子を、使用人に事細かに調べさせた。その結果、今人気の高い令息は、王太子殿下でもあるクリストファー殿下、さらに公爵令息のグレイソン様の名前が挙がったのだ。


特にグレイソン様は、非常に優秀で、勉学も武術も優れているらしい。騎士団にも所属しており、令嬢たちからの人気も高いのだとか。ただ、彼の傍には、義理の妹のルージュと言う女がいるらしい。


ルージュはグレイソン様に負けず劣らず非常に優秀な女で、交友関係も広い。ルージュに一目置いている令嬢も非常に多いのだとか。


「ふ~ん、このルージュとかいう女、目障りね。でも、王都に戻り貴族学院に入学したら、私が一番に注目されて、クリストファー殿下もグレイソン様も私のものにしちゃうんだから」


ルージュという女がどんな女かは知らないが、私には足元にも及ばないだろう。その時はそう思っていた。


そんな中、私は王都に戻るとともに、学院に入学したのだ。今日から私は、学院中の人気者、そう思っていた。運がいい事に、前にはクリストファー殿下、後ろにはグレイソン様、狙った男に挟まれるだなんて、私ったら罪な女ね。


早速この男たちを、虜にしてやろう。まずは殿下から。そう思って話しかけたのだが、そっけない態度であしらわれてしまった。どうして?この私が話しかけているのに、信じられないわ。


もしかしたら、照れているのかもしれない。気を取り直して、後ろのグレイソン様に話し掛けたのだが…こちらはなぜか笑顔で、“気軽に手を触れるな。義妹のルージュに貴族としての立ち振る舞いを教えてもらえ”なんて事を抜かしたのだ。


ふざけないで、私のどこが、令嬢としての立ち振る舞いが出来ていないのよ!そう言いたいが、ここは泣き落としがいいか。そう思い、目に涙を溜め、訴えようとした時だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る