第53話 昨日の話でもちきりでした

「今日は来てくれてありがとう。気を付けて帰ってね」


門の前で5人が馬車に乗り込むのを見送り、手を振る。まさか友人たちが、あの女に苦しめられていただなんて。さすがに許すことはない。


こっちも本格的に手を打たないと。


「ルージュ、素敵な友達が沢山いてよかったね」


「ええ、最高の友人達ですわ。グレイソン様、彼女たちがヴァイオレット様に嘘を吹き込まれて悩んでいたことを、知っていたのですか?」


昨日グレイソン様が、意味深な発言をしていたことを思いだしたのだ。


「ああ…アルフレッドに色々と聞いていて…でもみんな、結局ルージュを信じてくれた様だし。それにしても、ヴァイオレット嬢はどうしてそこまでして、ルージュを嫌うのだろうね。何か心当たりはないかい?」


「正直ありませんわ。彼女と初めて出会ったのも、入学式の時ですし。それ以降も、ヴァイオレット様と2人きりになる事もなかったですし…」


あの女は自分より目立つ存在を疎ましく思っている様な女、きっと私がクラスの中心にいるのが気に入らないのだろう。そういう女なのだが、そんな事はグレイソン様には言えない。


「そうだよね。ごめんね、変な事を聞いて。さあ、僕たちも屋敷に戻ろう」


2人で屋敷に戻り、夕食を頂いた。どうやらまだお父様は帰って来てない様だ。ミシェルの家に行き、慰謝料の相場を聞くだけなら、そんなに時間はかからないはず。一体どんな話をしているのかしら?


結局お父様が帰って来たのは、夜遅くだった。真っ赤な顔をして酔っぱらって帰って来たので、きっとミシェルのお父様とお酒を飲んで盛り上がっていたのだろう。あの人、本当に何しに行ったのかしら?


明日ミシェルに謝っておこう。


翌日、いつもの様に制服に着替え、馬車に乗り込む。今日から3ヶ月間、あの女がいないのだ。この3ヶ月は平和に暮らせる。それがなんだか嬉しい。


「今日からヴァイオレット嬢が学院に来ない事が、そんなに嬉しいのかい?」


隣に乗っていたグレイソン様が、そんな事を言いだしたのだ。


「私は別に…」


「言い訳をしなくてもいいよ。僕もヴァイオレット嬢がいないと嬉しいよ。あの子、なぜか事あるごとに僕に絡んできて。胸を押し当てて来たり、手を握ってきたりして、正直気持ち悪かったんだよね…」


「そうだったのですか?ごめんなさい、私、全然気が付かなくて…」


やっぱりあの女、グレイソン様にもちょっかいを出していたのね。1度目の生の時と同じだわ。私ったら本当に何をしていたのかしら?グレイソン様には絶対にあの女を近づかせないようにと思っていたのに!


「大丈夫だよ。なぜか殿下が何度も助けてくれて…殿下もどうやらヴァイオレット嬢に言い寄られていたみたいだよ。でもあの人、物凄く嫌そうな顔ではっきりと断っていたよ。普段物腰柔らかいのに、なぜかヴァイオレット嬢に対してだけは、親の仇にでもあったような顔をするのだよね。あの2人に何かあったのかな?」


確かに殿下は、明らかにヴァイオレットを嫌っているように見える。1度目の生の時は、あれほどまでにヴァイオレットを愛していらしたのに…


とはいえ、私としては好都合だが。


学院に着くと、2人で一緒に馬車から降りる。すると


「「「「おはよう、ルージュ(嬢)、グレイソン(様)」」」」


「皆、おはよう。待っていてくれたの?ありがとう」


「当たり前よ。さあ、教室に行きましょう」


どうやら私たちを心配して、友人達とアルフレッド様、なぜかクリストファー殿下も一緒に待っていてくれたのだ。なぜクリストファー殿下がいるのかよくわからないが、グレイソン様とは仲が良い様なので、グレイソン様を心配してきたのかもしれない。


皆でワイワイ言いながら教室を目指す。


教室に入ると


「ルージュ様、昨日は大変でしたね。まさかヴァイオレット様が、あのような事をなさるだなんて」


「本当ですわ。自分で教科書をボロボロにしておいて、ルージュ様付きのメイドに罪を着せようとするだなんて。恐ろしい方ですわね」


「その上令息2人と関係を持っていただなんて。実は俺も声を掛けられていたのだよな」


「お前もか。俺もだぞ。俺は婚約者がいるから、しっかり断ったけれど」


「俺だって断ったぞ」


「俺は断りきれずに、少し仲良くなった…」


「はっ、お前何やってんだよ。あいつらと変わらないじゃないか」


どうやらクラスの大半の令息たちが、あの女に声を掛けられていたらしい。どれだけ尻軽なのよ…まあ、確かにこのクラスは皆、侯爵以上で身分が高い。あの女にとっては、狙いたい放題だったという事ね…


大方、高貴な身分の殿方を自分の虜にさせて、言う事を聞かせたかったのだろう。今回の令息2人の様に…


「俺、先生たちの話をちょっと聞いちゃったんだけれど、どうやらヴァイオレット嬢の親は“家の娘は悪くない。たかがメイドごときでガタガタ騒ぐな”と啖呵を切って出て行ったらしいぞ。なあ、グレイソン殿、本当なのか?」


「えっと…その…」


グレイソン様は嘘を付くのが、非常に苦手なのだ。きっと皆、グレイソン様の反応で察してしまったのだろう。


何とも言えない空気が流れる。


「皆さん、席に着いて下さい。授業を始めますよ」


ちょうどそのタイミングで、先生がやって来たのだ。皆急いで席に着いた。

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